
ceroのサポートや石若駿の〈SONGBOOK PROJECT〉での活動でも知られる異才打楽器奏者/シンガーソングライター、角銅真実。高い評価を得た前作『oar』(2020年)に続くニューアルバム『Contact』が、彼女からついに届けられた。多彩な音楽家と協働しつつ、独自の才能をさらに開花させた本作について、アルバムのオフィシャルインタビューも担当した音楽ライターの松永良平(リズム&ペンシル)が綴った。 *Mikiki編集部
生きていることそのままの音
角銅真実は、潜った。息を吸い、顔を水面につけ、ぶくぶくと息を出しながら地球の裏側、宇宙の果て、そして、いちばん近くて遠い場所である自分自身の内側へ。
新作『Contact』から、すでに先行配信されている“i o e o”は、そんな音から始まる。呼吸し運動する肉体と、生きていることそのままの音が楽器になっている。それをつまり〈音=楽〉と呼べるのかもしれない。
私はここにいますよ
ソロアーティストしてのフルアルバム(通算4作目)は、初のメジャー作品だった前作『oar』以来、約4年ぶり。コロナ禍でもceroのサポート(パーカッション/コーラス)と並行して、ソロでのライブや舞台音楽の制作などは可能な限り続けてきた。光永渉(ドラムス)、秋田ゴールドマン(コントラバス)、古川麦(ギター)、巌裕美子(チェロ)という顔ぶれが信頼すべき自身のバンドとしてほぼ固定したし、毎年、レギュラー的に出演を重ねた〈FESTIVAL de FRUE〉を通じて、アメリカ人シンガーソングライター、サム・アミドンとも深い交友を得た。活動が制限された状況下であったが、自身の音楽の向かう方向をじっくりと模索するには有意義な時間を重ねていたとも言えるだろう。
シンガーソングライター的な作風から、フリーフォームの実験的な楽曲まで、彼女の音楽性は多岐にわたる。直感に基づいた作風だが、作詞や歌唱には〈自由とは? 言葉とは? 音楽とは?〉を絶えず問い返す真摯さ、そして、ここからどこかへと自分を連れ去ってくれる彼女が志向した表現には、いつも〈その先の知らない世界に向かいたい〉と願うベクトルが敷かれていた。時間や空間に縛られず、自分の肉体を縛るものから離れて表現が整理する場所を目指すこと。1st『時間の上に夢が飛んでいる』(2017年)も、1963年に宇宙飛行を果たしたロシアの女性宇宙飛行士が交信で語った言葉「私はカモメ」をタイトルにした2nd『Ya Chaika』(2018年)もそう。フィッシュマンズや浅川マキのカバーなどを収録し、歌ものを中心とした前作『oar』にしても、船を外界へと漕ぎ出すための〈オール〉をタイトルに使っていた。
だが、今回の『Contact』で、彼女の矛先は外へ外へというより、自分がいる(いた)場所を意識し、自分の出自や内面にも向いている。〈私はここにいますよ〉と音楽でコンタクトを試みようとしているのだ。

世界のどこにでもいるわたしたちとの〈Contact〉
その変化の始まりは少し前からあった。最初にそれを感じたのは、2021年頃からライブで頻繁に演奏されるようになっていた長崎に伝わる端唄“長崎ぶらぶら節”のカバーだった。長崎県佐世保市郊外の出身である彼女にとって、地元の歌をレパートリーにすることは自然な流れではなく、ひとつの変化だったという。2022年夏のアルゼンチン滞在時に日本を思って書かれた、お盆が題材になった曲“Carta de Obon”や、地元を逃げ出したかった少女時代の思いを託した“人攫い”は、異国の地で自身のルーツや内なる声に耳を傾ける時間がもたらした成果でもあった。アルバムのなかでポイントとなるそうした楽曲を頼りにして、聴き手はこれまで以上に角銅真実の〈わたし〉を見つけることになるだろう。
音楽家としての自由奔放な想像力やジャンルにいっさいとらわれない大胆な横断力、音楽家同士の演奏で発揮される演奏技術や反射神経という点で角銅真実が優れていることは、もちろんこれまでも申し分なかった。直感的でめくるめく表現や、果てしない宇宙へのラブレターを読むような夢と寂しさの交錯は、彼女の音楽の大きな魅力でもあった。だが、この『Contact』で彼女は、立ち止まってこちらを向く。そして、音楽に散りばめられた環境音までもが彼女自身の出自や人生観とリンクし、聴き手の人生やそれぞれの現在地と交わってゆく。日本の今ここにいる角銅真実という音楽家が、世界のどこかの誰かというより、世界のどこにでもいるわたしたちとの〈Contact〉を望み、触れようとしているのだとわかる。
翻訳不要の〈わたし〉がここにある
アルバムを構成するのは、現在のバンドメンバー、旧知の石若駿や竹内理恵ら信頼できるミュージシャンたち、そして海外からは“外は小雨”にコーラスとフィドルで参加したサム・アミドンも。1st、2nd以来でアルバムの録音とミキシングの大半を担当した大城真、大城が不在時に作業を託したエンジニアの原真人。そして、日本の善福寺、バリ島のウブドの音たち。このアルバムのイラストを描き下ろしたメキシコ人アーティスト、ヘラルド・バルガス。それぞれが緻密に選び抜かれたというストイックさではなく、自然なフレンドシップから成り立っていて、そのすべてが〈今ここにいるわたし〉とコンタクトすることに成功した角銅真実を祝福している。
遠い未来のいつかどこかで、誰かが彼女とこのアルバムで〈Contact〉するに違いないと信じられる。実験的であると同時に愛らしく、日本的であると同時に世界の誰とも容易につながれる、翻訳不要の〈わたし〉がここにあるから。
RELEASE INFORMATION
リリース日:2024年1月24日(水)
品番:UCCJ-2233
価格:3,300円(税込)
配信リンク:https://Manami-Kakudo.lnk.to/Contact_w
TRACKLIST
1. i o e o
2. 蛸の女
3. 外は小雨 feat. Sam Amidon
4. 枕の中
5. Flying Mountain
6. Kujira No Niwa
7. 長崎ぶらぶら節
8. 落花生の枕
9. theatre
10. Carta de Obon
11. flowers everywhere
12. 3
13. 人攫い
LIVE INFORMATION
Manami Kakudo | Contact 0
2024年1月28日(日)山口情報芸術センター[YCAM]
開場/開演:16:00/16:30
出演:Manami Kakudo band set/夏の大△
https://www.ycam.jp/events/2024/sound-tectonics-26/
EVENT INFORMATION
『Contact』発売記念ミニライヴ&サイン会
2024年2月4日(日)東京・タワーレコード渋谷店 6F TOWER VINYL SHIBUYA
開演:15:00
出演:角銅真実/巌裕美子
※ミニライブはフリー観覧
お問い合わせ(タワーレコード渋谷店):03-3496-3661
■Links
Instagram:https://www.instagram.com/manami_kakudo/
X:https://twitter.com/Cat_typingg
ユニバーサルミュージック オフィシャルサイト:https://www.universal-music.co.jp/kakudo-manami/

