©Tonje Thilesen

 「こんばんは。ケイティ・カービーよ。ケイティ・ペリーのケイティ、『星のカービィ』のカービーと憶えてね」――バンドの演奏は極めてオーソドックスなものながら、メロディーそのものの魅力で観る者の気持ちを掴む楽曲の数々はもちろん、そんなキュートな挨拶もヴィヴィッドな印象を残したライヴを観て以来、筆者はケイティ・カービーの大ファンになってしまった。2019年の〈SXSW〉でのことだ。

 そのライヴは、トウェイン、サン・ジューン、ビッグ・シーフのバック・ミークら、多くの良質なインディー・アクトが輩出するテキサス州オースティンのブティック・レーベル、キールド・スケールズのショウケースだったのだが、ケイティの出番はレーベルの看板バンドとしてトリを務めたサン・ジューンの1つ前。その頃、ジュリアン・ベイカーやルーシー・ダッカス、ヘイリー・ヘインデリックスら、来るべき時代に相応しい感性を持った女性シンガー・ソングライターたちが台頭していたとは言え、その時点で同レーベルからまだ3曲入りのカセットテープしかリリースしていない新人にもかかわらず、全6組中の5番目は大抜擢に思えたものだ。

 果たしてレーベルの期待通り、ケイティがその2年後に発表したファースト・アルバム『Cool Dry Place』(2021年)はトラディショナルなソングライティングを軽やかかつ美しい歌声と共にインディー・ロック・サウンドに落とし込んだ作風とフレンドリーなポップセンスが歓迎され、複数のメディアから2021年のベスト・アルバムに数えられる成功を収めた。それがトム・ウェイツをはじめ、多くの個性派アーティストが顔を揃えるアンタイへの移籍に繋がったことは想像に難くない。

KATY KIRBY 『Blue Raspberry』 Anti-(2024)

 そして、『Cool Dry Place』から3年、ついにリリースされたセカンド・アルバム『Blue Raspberry』。クィアであるという自我の目覚めと新たな恋の絶頂および破壊を、さまざまな煌めきのメタファーと共に謳ったソングライティングに加え、前作の延長上で打ち出された新たな音像は、首を長くして待っていたファンはもちろん、ケイティの新作を2024年期待のアルバムに選んだ複数のメディアを十二分に満足させるはずだ。

 「初めて自分が愛の歌を書くんだと感じた。それがクィアな愛の歌であり、(人工甘味料に由来するアルバム表題や先行シングル“Cubic Zirconia”が象徴する)人工性を祝福していることに気付いた時、それらがまるで結婚披露宴の定番曲の一角を競っているかのようなサウンドに聴こえるものにしたかった」。

 そんな考えの下、ケイティはバンド・メンバーたちと奏でるインディー・ロック・サウンドに鍵盤・管・弦楽器をふんだんに使ったアンサンブルを落とし込むことに挑んでいった。その成果が曲ごとにウィットに富んだアレンジを楽しませる全11曲。ほぼ弾き語りに近いクラシカルなピアノ・バラードの“Redemption Arc”、前作収録の“Traffic!”同様に持ち前のポップセンスが弾ける“Cubic Zirconia”、ウッドベースが鳴る“Wait Listen”、エレピとファンキーなリズム隊の演奏が絶妙に絡み合う“Drop Dead”、リッチなハーモニーワークで魅了する“Party Of The Century”、ホーンが温もりある音色で鳴る“Salt Crystal”、ドラムとストリングスが不穏に響く“Alexandria”……いや、アルバムを味わい深いものにしている聴きどころを1曲ずつ紹介するには文字数は全然足りないのだが、そんなチェンバー・ポップの趣もあるアルバムを、ケイティは歪ませたギターをガガガガと鳴らすグランジーなフォーク・ロック・ナンバー“Table”で締め括っている。その意外な展開があまりにも痛快で、思わず快哉を叫ばずにいられなかったが、そこにこそ『Blue Raspberry』におけるケイティの自信を感じ取るべきなのだと思う。

 


ケイティ・カービー
テキサス州スパイスウッド出身のシンガー・ソングライター。クリスチャンとして礼拝音楽に親しんで育ち、ナッシュヴィルのベルモント大学に進学した後、2010年代半ばから自身の楽曲制作を開始する。2018年にキールド・スケールから初のEP『Juniper』をカセットテープで発表。2021年のファースト・アルバム『Cool Dry Place』で高い評価を獲得する。その後ブルックリンに拠点を移し、アンタイと契約。このたびセカンド・アルバム『Blue Raspberry』(Anti-)をリリースしたばかり。