過激さを増した西アフリカのギターヒーロー――エムドゥ・モクターが放つ〈剥き出しの怒り〉

 2021年に名門インディーレーベル〈Matador〉から世界デビュー盤『Afrique Victime』を発表して衝撃を与えた西アフリカ・ニジェール出身のトゥアレグ族のギタリスト、エムドゥ・モクターによる3年ぶり新作である。バンドメンバーは前作と同じく、モクターがギター&ヴォーカルを務めるほか、盟友アフムードゥ・マダサネがリズムギターを、2019年に加入した最年少スレイマン・イブラヒムがドラムスを、そして唯一アメリカ出身のマイキー・コルタンがベース&プロデュースを担っている。

MDOU MOCTAR 『Funeral For Justice』 Matador/BEAT(2024)

 冒頭の表題曲からハードロック調の攻撃的なギターリフに圧倒される。続く“Imouhar”はジミ・ヘンドリックスの影響を窺わせる楽曲で、2022年の未発表音源集『Niger EP Vol. 1』ではドラムマシンを相手にモクターが10分越えのギターインプロヴィゼーションを披露していた。バンドアレンジが施された新たなバージョンでは激しさとスピード感が強調され、ギターソロではエディ・ヴァン・ヘイレンの影さえ忍ばせるようにタッピング奏法を駆使してサイケデリックかつカオティックな音の奔流を生み出す。4曲目“Sousoume”は2017年のアルバムの表題曲でもあるが、宅録のように多重録音で制作されたフォーキーな旧バージョンに対して、ここではバンドサウンドのアグレッシヴな音楽に変貌を遂げている。

 卓越したギタープレイとアフロポリリズムを基調とした独自のグルーヴは変わらないものの、ほとんどパンキッシュと呼びたくなるほどに過激さが増している。フィールドレコーディングを用いたドキュメンタリー的な趣向も凝らされた前作と比して、アコースティックギター中心のトラックが減った一方で、速度と強度に磨きが掛かり、まるで怒りが剥き出しになったかのようだ。その響きは2023年にニジェールで起きたクーデターと無関係ではないのだろう。もとより生活と地続きにある政治的メッセージを含めて音楽を発信してきたモクターによる、2024年現在のプロテストアルバムとも呼べるはずである。