YOUはSHOCK! LAの革新犯が足を踏み入れた領域は、無限に広がる〈死後の世界〉なのか、あるいは意識の奥底に埋め込まれたルーツへの回帰なのか? 激烈なサウンドの渦をくぐり抜けて、次の宇宙へ飛び込め!!

 バン、バン、ユー・アー・デッド。あからさまに刺激的なタイトルがどう受け止められるのか、「正直に言うと、いまだにこのタイトルに関しては自分でも物凄くナーヴァスになってるんだよ」と明かすフライング・ロータスだが、『Until The Quiet Comes』以来2年ぶりとなるニュー・アルバムを『You’re Dead!』と名付けた真意はこうだ。

 「終わりをテーマにしているわけじゃない。これは始まりであって、次なる体験に向けた祝いなんだ」。

FLYING LOTUS 『You’re Dead!』 Warp/BEAT(2014)

 もちろん、オースティン・ペラルタを前作リリース直後に失った彼にとって、死が弄ぶべき対象でないのは明白だろう。言わずもがな、実母の死を乗り越えるために『Cosmogramma』という宇宙を創造した人なのだから。

 「どう受け取られるか過敏になっているけど、自分が腹の底で感じた〈これだ〉っていう直感を、とにかく信じていきたかった。この作品がそういうものだという点に揺るぎはないし……だから、タイトルだけで驚くんじゃなく、実際に聴いてくれたら、意味が通じるんじゃないかと思う」。

 もちろん重要なのは中身であって……これがもうタイトル以上にバン、バン、バンである。奇想漫画家の駕籠真太郎によるジャケが示すように、予想だにしなかった音塊が真正面から顔をブチ抜いてくる。飛び出してくる音成分の核を成すのはジャズ・プレイヤーたちの熱演。盟友サンダーキャットやテイラー・マクファーリンを例に挙げるまでもなくブレインフィーダー軍団が広義のジャズ色を表に出してきている様子は窺えたが、それは首謀者のロータスにしても同様だったわけだ。今回はサンダーキャット(ベース)はもちろん、カマシ・ワシントン(サックス)、マーズ・ヴォルタでも知られたディーントニ・パークス(ドラムス)、ビルド・アン・アークなどで演奏してきたブランドン・コールマン(キーボード)あたりを核に、LAビート愛好家にもお馴染みのミゲル・アトウッド・ファーガソン(ストリングス)や雷猫の実兄ロナルド・ブルーナー(ドラムス)らが参加、「彼が俺の音楽の一部になりたいと思ってくれたなんて、光栄だったよ」と語るハービー・ハンコックの登場まである。

 「作品全体のヴィジョンを見通すために、今回は他のミュージシャンたちの才能も必要だってわかっていたんだよ。それに、俺がアルバムに取り組んでいた時にはLAで凄くクールなことが起きていたんだよね。とあるミュージシャン集団……彼らはゆるく〈The Unit〉と名乗っているんだけど、そこには例えば俺の好きなカマシ・ワシントン、ロナルド・ブルーナーにサンダーキャット、ブランドン・コールマンらのジャズメンが数多く参加していて。彼らは皆でスタジオに入って、約1か月間に渡って互いの作品のためにプレイし合ってた。それぞれのアルバムで、参加者全員が一緒に、ひとつのスタジオで四六時中、毎日作業してたというわけ。俺はスタジオに遊びに行って、〈これを俺も自分でやるべきだろ!〉って閃いた。だから、友人たちのやってることにインスパイアされた面は間違いなくあったね」。

 そんなわけで、主役によると今回の作品は「ビート・アルバムではなくジャズ・スピリットを源泉とする何か」ということになる。ただ、集団のセッション作というノリではなく、演奏家たちは一堂に会さぬままプレイを提供し、それをロータスが完成型へと組み立てていったのだそうだ。その行程にスライの暴動やカニエの暗黒ファンタジーを想起する人もいるだろうし、インプットの部分を除けば従来のロータスの手つきが活きたビート・アルバムの進化型と見ることも容易だろう。今回はケンドリック・ラマーとスヌープ・ドッグという西海岸の新旧アイコンを招き、ロータス本人も(自身のアルバムでは)初めてキャプテン・マーフィーを召喚するなど、よりわかりやすい形でヒップホップへ寄せているが、もとよりブルーやマック・ミラーらラッパーとの仕事も散見できる人だけに、砕けては舞う演奏の断片をエモーショナルかつクールに処理するビート捌きは登場時からの持ち味でもあるわけだ。

 そんな野心的なアルバムに彩色を施す声として選ばれたのは常連のニキ・ランダ。大半の曲でバック・ヴォーカルを担う彼女に加え、“Siren Song”にはエイヴィ・テアズ・スラッシャー・フリックスからエンジェル・デラドゥーリアン(元ダーティ・プロジェクターズ)を招聘。また、終盤の“The Protest”にはキンブラの名もある。ロータス本人や雷猫も含むハーモニーの幻想的な美しさもリードとなり、一撃目の驚愕が快いスリルへと塗り替えられていく様子は、聴き進めるごとに、もしくは聴き返すたびに感じることができるだろう。ジャズ・スピリットを源泉とする何か……その呼び名に固執する必要は果たしてあるだろうか? 

 

▼関連作品

左から、フライング・ロータスの2012年作『Until The Quiet Comes』(Warp)、オースティン・ペラルタの2011年作『Endless Planets』、サンダーキャットの2013年作『Apocalypse』、テイラー・マクファーリンの2014年作『Early Riser』(共にBrainfeeder)、マーズ・ヴォルタの2012年作『Noctourniquet』(Warner Bros.)、ハービー・ハンコックのベスト盤『The Essential Herbie Hancock』(Legacy)、ケンドリック・ラマーの2012年作『Good Kid, M.A.A.D City』(Top Dawg/Aftermath/Interscope)、スヌープ・ライオンの2013年作『Reincarnated』(Vice/Mad Decent/RCA)、マック・ミラーの2013年作『Watching Movies With The Sound Off』(Rostrum)、エイヴィ・テアズ・スラッシャー・フリックスの2014年作『Enter The Slasher House』(Domino)、キンブラのニュー・アルバム『The Golden Echo』(Warner Bros./ワーナー)
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