今年でデビュー10年目を迎えたRie fu。2年前にレーベルを設立、プライヴェートでは結婚してシンガポールに移住するなど公私共に新しい節目を迎えている彼女が、10周年を記念する新作『I』を発表した。今回のアルバムは、この後にリリースが予定されている『O』と名付けられたアルバムと対になるものらしい。2枚のアルバムの関係を、彼女はこんなふうに説明してくれた。
「『I』は〈インプット〉、『O』は〈アウトプット〉というテーマがあって、対照的だけど表裏一体な関係なんです。さらに『I』と『O』を並べると〈10〉になる。ほんとは2枚同じ年に出せると良かったんですけど、1枚作るだけで手一杯で(笑)。『O』は時期を決めずに自由に作っていこうと思ってます」。
そんなわけで〈インプット編〉の今作。「実体験をカラフルなサウンドで語ることで外に向かうアルバムにしたかった」と彼女は語るが、子供の頃から現在に至るまで、彼女が体験したことが歌に織り込まれている。例えば“幼き森”は彼女が7歳の頃の思い出を元にして作られた曲だ。
「子供の頃、2~3年間アメリカに住んでいたんですけど、家の裏に不思議な森があって探検したことがあったんですよ。その記憶を元に17歳の時に曲を書いて、今回はその曲に新たなパートを付け足したんです。森には女性のオバケがいて、彼女を歌で浄化させる展開になりました。ほぼ20年くらいかけてやっと完成しましたね」。
一方“Butterfly”は、今年6月にヨーロッパに旅行した際にスウェーデンでレコーディングした曲。シンガー・ソングライターのメイヤからプレゼントされた言葉が曲作りのきっかけになったとか。
「メイヤさんが最近書いている歌詞を見せてくれたんです。そのなかから〈Nobody's born a butterfly〉という言葉をいただいて。それは〈蝶のように美しくなるには、いろんな経験や成長が必要だ〉ということなんです。私はまださなぎな気分なので自分の未来に対する希望をいただけたな、と思いました。メイヤさんの曲をプロデュースしてきたダグラス・カーさんとカントリー・ハウスでレコーディングしたんですけど、その開放的な空気感が曲に出ていると思います」。
そのほか、現在住んでいるシンガポールの風景をスケッチした“Singapore”や、イギリスの田舎町の草原を歩く音とガット・ギターだけのシンプルなアレンジで聴かせる“so-re-da-ke”など、彼女の人生のさまざまな風景を見せてくれる本作。そこにアイデア豊富な音作りで奥行きを加えたのが、共同プロデューサーに迎えた石崎光だ。
「石崎さんは2009年に出した『URBAN ROMANTIC』にアレンジで参加していただいたんですけど、電子音とアコースティックのバランス感とか、クセのあるポップさとかすごく気に入っていて。海外ならフィオナ・アップルやエイミー・マンを手掛けたジョン・ブライオンのような感じですね。2人とも私は大好きなんですけど、それで、ぜひ石崎さんともう一度ご一緒したかったんです。私の最初の曲のイメージはラフスケッチみたいなもので、それを石崎さんがよりリアルなタッチにして、いろんな色を加えてくれました。さらにミックスやマスタリングで彫刻みたいに立体的にしてくれて。その立体感がこのアルバムの特徴だと思いますね」。
アルバムのアートワークには彼女自身が手掛けた自画像が使われているが、本作は音楽で描いた自画像みたいなもの。「この10年、自由奔放にやってきましたが、一見ランダムに思えた体験がだんだん自分のなかで繋がってきた気がするんです」と彼女は言うが、ジャケットを眺めると〈I〉型に切り抜かれたスリップケースの奥からは、好奇心に満ちた彼女の眼(アイ)が覗いている。その視線の先に彼女の新たな旅が待ち受けているに違いない。
▼文中に登場したアーティストの作品を一部紹介
左から、メイヤの日本限定のベスト盤『マイ・ベスト』(エピック)、フィオナ・アップルの2005年作『Extraordinary Machine』(Clean Slate/Epic)、エイミー・マンの2000年作『Bachelor No.2』(Superego)
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▼Rie fu関連の近作
左から、ベスト盤『single collection I Can Do Better』(ソニー)、Rie fu & the fuの2012年作『BIGGER PICTURE』、2013年のカヴァー集『Rie fu Sings the Carpenters』(共にRie fu)、delofamiliaの2014年作『Carry on Your Youth』(SUPER((ECHO))LABEL)
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