雄々しく猛々しい歌声で80sファンクのアイコンとなった男は、90s式R&Bの源泉として奉られ、ここ15年は神棚から降りて自分自身を進行形の伝説たらしめている。ギャップ・バンドからソロに至るまで、常にモダンなアンクルの偉業を振り返ろう!

 

 

 現在のR&Bシーンでもっとも成功しているヴェテラン・シンガーは?と問われれば、迷うことなくチャーリー・ウィルソンを挙げたい。兄弟のロニー、ロバートとオクラホマ州タルサで結成したギャップ・バンドとしてレオン・ラッセル主宰のシェルターからデビューして40余年。現役のシンガーとして堂々とメインストリームを歩むチャーリー(53年生まれ。現在62歳)は、ギャップ・バンド時代の名声に安住することなく、〈アンクル・チャーリー〉の愛称で親しまれながら、カニエ・ウェストをはじめとする時代の寵児たちともコラボしつつ、己のキャリアを更新し続けている。2008年に前立腺ガンの宣告を受けて治療……なんていうニュースも霞むほど、シンガーとしてのパワーに満ち溢れているのだ。

CHARLIE WILSON Forever Charlie RCA(2015)

 特に2000年代中期にジャイヴ(現在はRCA)と契約してからはコンスタントにアルバムを出し、クラシックとなりうるような曲を一作ごとに生み出している。例えば2008年のヒット“There Goes My Baby”は、〈Essence Festival〉のようなR&Bフェスではバンド時代の人気曲“Yearning For Your Love”(80年)と同等に盛り上がるアンセムで、会場を瞬時にヒートアップさせる。そんなチャーリーが先頃放った新作が『Forever Charlie』。近年はバラディアー的なイメージが強かったが、新作は冒頭からディスコ調の快活なアップが登場し、これまでお互いの作品でたびたび共演しているスヌープ・ドッグを招いた“Infections”も含め、近年のディスコ/ブギー・ブームに反応した……というか、チャーリーにとってみればギャップ・バンド時代に回帰したようなアルバムとなっているのだ。それはデイム・ファンクとのコラボでスレイヴ時代のスタイルを再現したスティーヴ・アーリントンのやり方にも近い。

 ギャップ・バンドが全盛を誇ったのはマーキュリー移籍後、トータル・エクスペリエンスの主宰者であるロニー・シモンズと手を組んだ70年代後半から80年代にかけてのこと。今回の新作に繋がるようなアップリフティングな曲としては“Burn Rubber(Why You Wanna Hurt Me)” “Early In The Morning”、そして“Outstanding”がよく知られるが、エネルギッシュでダンサブルな楽曲の魅力もさることながら、キモはチャーリーのヴォーカルだろう。かつてチャーリー(とロニー)を『Hotter Than July』(80年)収録の“I Ain't Gonna Stand For It”でバック・ヴォーカルに起用したスティーヴィー・ワンダーにも通じる、彫りの深い濃厚な歌声。チャーチ・ルーツを感じさせるその唱法はガイアーロン・ホールに模倣され、アーロンを通してR・ケリーに、Rを通してアヴァントに、そしてミント・コンディションのストークリーにも受け継がれていき、そうしたチャーリーズ・チルドレンはチャーリー本人と共演もしくは楽曲制作という形でコラボも実現させている。

【参考動画】ギャップ・バンドの80年作『The Gap Band III』収録曲
“Burn Rubber(Why You Wanna Hurt Me)”

 

 加えて、かのディアンジェロ(D)もアーロンの先駆的存在としてチャーリーを敬愛しており、アーロンがガイで歌った“Yearning For Your Love”をギャップ・バンドのフェイヴァリット・ソングに挙げるDは、「スライ・ストーンのようにわめく唱法を基本としながらも、他のシンガーが歌えないような形でユニークなテクニックを盛り込んだのはスティーヴィー、そしてチャーリーだ」と絶賛。チャーリーの場合は〈シャバダバドウィッティッティ〉〈ウーウィー〉といったスキャット的な掛け声もトレードマークだろう。そんな個性溢れるヴォーカルは、シェルター時代からの盟友であるDJ・ロジャーズの作品やザップの“Computer Love”(85年)なんかからも聞こえてきたが、その声はまたニュー・ジャック・スウィングにもヒップホップにも馴染んできた。これほど万能感のあるヴェテランもそうはいまい。

 

 

 こうしてチャーリーのヴォーカルの魅力に触れていくと〈歌バカ〉というイメージが先行してしまいそうだ。が、プロデュースやソングライティング、演奏(主に鍵盤楽器)を手掛けるクリエイターとしての才能があることも見逃せない。プロデューサーとしては、ギャップ・バンドではロニー・シモンズに多くを任せていたが、外部の仕事で成果を上げている。なかでも、ペブルスがMCAから放ったセルフ・タイトル作(87年)では5曲をプロデュース。大ヒットしたミディアム・ファンク調の“Mercedes Boy”もそのひとつで、後にチャーリーがソロ・デビュー作『You Turn My Life Around』(92年)をMCAから発表することができたのも、ペブルスの仕事がキッカケとなっていたのかもしれない。また、若き日のケニー・ラティモアが在籍していたマネキンがペブルスの同曲に対するアンサーとして出した“I Wanna Ride”(89年)をプロデュースしたのもチャーリー(とロニー)。裏方としてこんな洒落たこともやっていたのだ。近年、自身のソロ作ではワーリー・モリスグレッグ・パガーニらと共同プロデュースを行っているが、そうした面々との関わりのなかで手掛けた(客演もした)ボーイズIIメンの“More Than You'll Ever Know”(2011年)なども裏方としての好仕事だろう。

 90年代以降、後輩にあたるR&B~ヒップホップ勢からロイ・エアーズにも似た支持のされ方でラヴコールが相次ぐチャーリー・ウィルソン。自分のスタイルを崩さず時代の波に乗るしなやかな身のこなしは、昔のスタイルを呼び戻すことで現代のブームとリンクした今回の新作からも感じ取れる。若干節操を欠いてきたディスコ/ブギー流行りに、このタイミングでオリジネイターのひとりが真正面から応えるという痛快さ。いまの彼はギャップ・バンドの黄金期を超えようとしているのではないか。まったくもってアウトスタンディングな男としか言いようがない。