ヤセイの洋楽ハンティング

ジャズの歴史を踏まえつつも独自のアプローチで進化し続ける現代最高のジャズ・ピアニスト、ブラッド・メルドー

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  • 2015.04.08

ヤセイの洋楽ハンティング〉をご覧の皆様、第二回の担当はわたくし、キーボード担当の別所がお届けします。

何事も、始めが肝心なので、どのような音楽を紹介すべきか、少し悩みました。悩んだ結果、やっぱりこの人しかいない、ということで、先日ちょうど来日していたBrad Mehldauを紹介します。

Brad Mehldauが現代最高のピアニストとして評される一番の理由、それは飽くなきコンセプトの探求といえます。彼は2000年代前半に、ジャズというフォーマットで既に十分な名声を手にし、日本においても、ホール・コンサート・クラスのジャズ・ピアニストでした。極端にいえば、彼はそのまま死ぬまでピアノ・トリオとソロ・ピアノだけを演奏し、それらで交互に全世界を周るという選択をできたし、そのままKeith Jarrett御大の崩御を待ち、そのポジションに収まることがジャズ・ファンからは望まれていたはずです。

彼がそうしなかった理由について考えると共に、彼のキャリアを振り返り、それに沿った音源、動画の紹介をしていきたいと思います。

キャリアの初期、ニュースクール(ニューヨークの音楽学校)で学んでいたBradは、Winton KellyMcCoy Tynerのコピーを熱心に行っていたらしいですが、〈Winton Kellyは二人いらない〉と言われたとかなんとか(ソースはありません。噂です)。そういう経緯から、独自の方向性を見出してBradのスタイルが形成されたと考えられます。

録音物のデビューは91年、Christopher Hollidayというサックス奏者のサイドマンとしてです。1曲、YouTubeにあがっていたので貼っておきます。

クリストファー・ホリディの91年作『The Natural Moment』収録曲“The Natural Moment”

 

演奏は、よくいるいい感じのモダン・ピアニストの域をまだ出ていません(もちろん、素晴らしいのは前提ですが)。


彼の名を世界的に有名にしたのはなんといってもJoshua Redmanのバンドです。探した結果、以下が一番古そう。恐らく90年か91年だと思います。この頃すでに、独自の奏法、聴けば誰が弾いているかわかる粋に達しています。

ジョシュア・レッドマン・クァルテットのライヴ映像

 

この日の演奏がすごくキレキレで、好きです。グルーヴの前進感と音楽をぶっ壊してやろうというような若いエネルギーに満ちた演奏。右手でシークエンスを弾きながら左手でメロディーを弾くようなメルドー節も聴けます。

その後、Larry Grenadier(ベース)、Jorge Rossy(ドラムス)と、Art of the Trioと銘打って長く演奏していくことになります。このシリーズは大体ライヴ版なんですが、非常にいいです。個人的に彼の活動の中で一番聴き応えのあるプロジェクト。ドラマーがスペイン人のJorge Rossyなんですが、極めてアーティスティック。楽曲の理解やBradのアプローチへの寄せ方など、素晴らしいインタープレイを聴かせてくれます。文末にこのトリオの7枚組豪華アルバムのリンクを貼っておきますので、ぜひ!

そのなかで、OasisRadioheadなど、ロックの楽曲を取り上げることも多いのですが、容易に自分のものとして弾きこなすBradの音楽的な幅の広さが窺えます。

ブラッド・メルドーの編集盤『Art Of The Trio : Recordings 1996-2001』にも収録されている
レディオヘッド“Exit Music(For A Film)”のカヴァー

 

時系列的にだいぶ後になりますが、以下も加えてご覧ください。Massive Attackの“Teardrop”を取り上げています。これはソロ。

マッシヴ・アタック“Teardrop”を披露したライヴ映像

 

2002年の『Largo』の発売で、Bradは完全に独自路線を示しました。ソロこそジャズ・アプローチでの演奏ですが、フォーマットはロックからエレクトロニカ的要素まで含んでおり、曇った感じのピアノの音作りや打ち込みのドラムなど、オールド・ファッションなジャズ・ファンは困惑したはずです。以下、代表曲の“When It Rains”。ドラムはMatt Chamberlainです。

ブラッド・メルドーの2002年作『Largo』収録曲“When It Rains” 

 

2000年代後半からは、ピアノ・トリオのスタイルでの演奏はLarry Grenadier(ベース)、Jeff Ballard(ドラムス)のメンバーに固定し、活動しています。これは2008年。

ブラッド・メルドー・トリオの2008年のライヴ映像 

 

その後、2014年発売のMehliana名義によるMark Guilianaとのデュオでは、ピアノに限らずアナログ・シンセ、ローズ、エフェクターを使いわけ、さらに新しいスタイルを確立しています。

メリアナの2014年作『Taming the Dragon』収録曲“Just Call Me Nige”のライヴ映像 

 

四半世紀に及ぶ音楽キャリアのなかで、様々な変化を遂げてきたBradですが、一方で系譜に沿った王道も外していない。それは並大抵のことではありません。ジャズ・ピアノ界のトップランナーでありつつ、今回のMehlianaのように、新しい試みをやる根底には、ジャズが歩んできた創造と破壊の歴史を理解し、常に進化する姿勢を彼が持っているからです。

歴史を無視するわけではなく受け止め、それに対する新たな答えを常にアップデートして出している唯一無二の存在なのです。

 

おススメCD 

BRAD MEHLDAU TRIO Art Of The Trio : Recordings 1996-2001 Nonesuch(2011)

JOSHUA REDMAN Timeless Tales Warner Bros.(1998)

BRAD MEHLDAU Largo Warner Bros.(2002)

BRAD MEHLDAU,MARK GUILIANA Mehliana: Taming the Dragon Nonesuch(2014)

 


 

【Yasei Collectiveよりお知らせ】

■POWERSPOT Vol.53 〜DEEP COVER × ヤセイコレクティブ
2015/05/01(金)@元住吉 POWERS2
OPEN 18:00 / START 20:00
ADV ¥2500 / DOOR ¥3000
出演:DEEP COVER【沼澤尚(Dr)+森俊之(Key)】 mix by Kamiyann /ヤセイコレクティブ
VJ:TonTon
お問合せ:元住吉POWERS2 TEL 044-455-0007

■パラシュートセッション祭 5日目 夜 buffalo daughter × Yasei Collective
2015/05/05(火・祝)@月見ル君想フ
OPEN 19:00 / START 20:00
ADV ¥3000 / DOOR ¥3500(共に入場時1d代別途)
お問合せ:月見ル君想フ TEL 03-5474-8115
 

【プロフィール】
Yasei Collective

Yasei Collective (ヤセイコレクティブ)

2009年に米国より帰国した松下マサナオを中心に、エレクトロ、ジャズ、ロック、ヒップホップなどが融合されたNY音楽シーンのサウンドを国内で体現するべく結成された4人組。自主制作盤『POP MUSIC』のリリースし、都内を中心に全国各地で精力的にライヴを行うなか、2011年に初作『Kodama』を発表。2012年には〈フジロック〉などフェスやイヴェント出演をこなす一方、自主企画イヴェントでは柳下“DAYO”武史(SPECIAL OTHERS)、山本ムーグ(Buffalo Daughter)、Ovall、アンカーソングら多くのミュージシャンを招いて開催。2014年には国内外から11組のアーティストを迎えた『so far so good』を、2016年に自主レーベルのThursday Clubを立ち上げて最新作『Lights』をリリースしている。