作詞/作曲/編曲から楽器演奏までをマルチにこなす、神戸発の現役高校生ポップ・マエストロ、シンリズム。Mikikiでは、日に日に注目の高まる彼に本邦初のインタヴューを敢行。生い立ちからひとりのミュージシャンとなるまでの経歴、そして最新シングル“心理の森”のことまでをたっぷりと語ってくれた前編に続き、今回は5月20日にリリースされるファースト・アルバム『NEW RHYTHM』にフォーカスしています。7月に始まる初ワンマン・ツアーや最近聴いている音楽のことまで飛び出す後編……いざスタート!
――ではここから、ファースト・アルバム『NEW RHYTHM』についてうかがっていきたいと思います。制作はいつ頃から始めたんですか?
「去年の10月頃からですね。平日など僕が学校に行っている間はレコーディングができなくて、参加いただいたミュージシャンの方々のスケジュールの都合もあったので、土日を使って神戸と東京を毎週往復していました。地道に続けて、完成まで半年くらいかかりました」
――学校生活との両立は大変でしたか?
「曲を作っているときが一番テンションがアガるので、移動時間はあまり苦にならなかったです。土日に上京して曲作りをすることが遊びのようなイメージで、休日に息抜きをしてまた学校に行くという感覚でした」
――ストレスにはならなかったんですね。いまちょうど話に出た参加メンバーのことですが、今回高野勲さんがサウンド・プロデューサーとしてクレジットされていますよね。高野さんの役割は具体的にどのようなものだったのでしょうか?
「全般的なアドヴァイスや、キーボードやローズ・ピアノでのバッキングを担当していただきました。僕は楽譜があまり書けなくて、音楽理論も把握せずに感覚だけの状態で曲を作っていたので、〈このストリングスのラインはこのままいったら楽曲のコードと合わない〉とか、そういったアドヴァイスもいただきました。楽譜も書いてもらって。コードの構成音を理解しないといけないことがわかって、やっぱり楽譜が書けるようになりたいなと感じましたね」
――それができるようになったら、ますます凄いことになりそうです。
「プロの方に〈僕も理解できるようになりたいです〉と話したら、〈覚えてもいいけど、覚えたら知識に縛られちゃって面白味がなくなるかもしれないから、いまのままでいいよ〉と言われたことがあって……。それでも楽譜は書けるようになりたいですね」
――今回の制作で初めてプロのミュージシャンの方と仕事をしたと思うのですが、楽理的な部分以外で勉強になったことはありましたか?
「レコーディングの工程についての知識が大きかったです。実はこれまで、曲を作るごとにアイデアの元になった楽器から録音をしていたんです。ギターやベースのアレンジをした状態でドラムを入れたり、わりとめちゃくちゃな手順で宅録していました。今回はプロの方々とレコーディングをして、〈リズム隊から先に録っていくんだ〉とか、いろいろと勉強になることが多くて。技術面で〈まだまだだな〉と自覚することも少なくなかったですね」
――高野さん以外にもさまざまなミュージシャンが参加されていますよね。SOIL&“PIMP”SESSIONSのタブゾンビさんやチェリストの四家卯さん、くるりのファンファンさん、それにSHISHAMOの宮崎朝子さんも。宮崎さんは年齢が近いですよね?
「そうですね」
――SHISHAMOの存在は知っていたんですか?
「曲は聴いたことがなかったのですが、以前にYouTubeの関連動画でチラッと見たことがあって〈この動画の画像は知ってる!〉と驚きました」
――NONA REEVESの小松シゲルさんの参加は大きかったのでは?
「そうなんです。NONA REEVESはもちろんこれまで聴いてきたし、ベースをコピーしたこともあったのですごく嬉しかったです」
――それは嬉しいですよね。そういった理想的な環境で制作された『NEW RHYTHM』ですが、曲順がすごく練られているなと感じました。
「曲順は制作チームと協議しながら考えていきました。それぞれが持ち寄った曲順リストを元にプレゼンし合いながら、最終的にまとめていくような流れでしたね」
――そんな『NEW RHYTHM』のなかから、7曲目の“処方箋”のことはぜひ訊きたかったんです。というのも、アルバム用の資料によるとこの曲ではリズムさんが以前から好きだと語っていたキリンジやスティーリー・ダンの名前が挙がっていたので。やっぱりキリンジの影響は大きいですか?
「これまでジャミロクワイやスティーリー・ダンだったり、いろいろなベースラインを練習してきたんですが、〈日本語のポップスでここまでベースラインが動く曲があるのか!〉と思ったのがキリンジが最初だったんです。楽曲ごとにアレンジが全部違うというのもすごく衝撃でしたね」
――ベースが重要だったんですね。話は変わりますが、柏井日向さんの録り音が全体的にすごく太く温かくて、ミックスも立体的な音像になっていますね。“処方箋”のようなリズムがカッコいい曲はますます活き活きした印象だったんですが、レコーディングはアナログだったんですか?
「それが実は、アナログではないんです」
――ミックスであの感じを出したんですか?
「柏井マジックと言われているらしくて。最初は僕も、マジックって何のことを言ってるんだろう?と思っていたのですが、実際にミックスし終わった曲を聴いて〈なるほど〉と納得しました。これが柏井マジックだって」
――いわゆるデジタルの刺々しい感じがなくて、すごく耳触りがいいミックスですね。
「マスタリングの際にもバーニー・グランドマン・マスタリングで、代表の前田康二さんが新しいマスタリングの方法を見つけたとおっしゃっていて。今回それを採り入れたようなので、その影響もあるのかもしれません」
――そういったプロの環境で制作できるようになったことで、今後挑戦してみたいことはありますか?
「生じゃないと良さがわからない楽器があると思うんです。これまでは宅録だったので、そういう楽器を無意識に避けてきた部分もあったと思うんですが、それをプロの環境で録れるようになったので、積極的に楽曲に採り入れてみたいですね」
――ちょっと話は変わりますが、リズムさんのいとこの方に歌ってもらったという“カクテルの歌”のように、例えば将来的に職業作家として楽曲提供をしてみたいという希望はありますか?
「チャンスがあればぜひやってみたいと思っています」
――それはいつか聴いてみたいですね。では改めて、今回ファースト・アルバムを作ってみての手応えは?
「いいものが出来たという気持ちはすごくあります。宅録時代から出来上がったものに対しては同じような気持ちがあったのですが、その楽曲をプロの環境で録り直すことでこんなにも変わるのかと衝撃でした。生ですべて録ったことで、楽曲に温かみが生まれたというか、全体的に感じるものが変わってきました」
――今回のアルバムでリスナーが聴けるのって、おおまかには高校1年生くらいまでのリズムさんの姿だと思うんです。いま3年生になってみて、振り返ったときに〈自分のここが変化したな〉という部分はありますか?
「“心理の森”の頃は直感的に勢いで作っていたんですが、ここまで作曲を続けてきて、技術だったり知識として覚えることも増えてきたので、アイデアはいまのほうがいっぱい持っているかもしれません」
――現在進行形で日々まだまだ進化の最中だと思うので、これからの作品も非常に楽しみですね。ところで、7月にはアルバムを引っ提げての初ワンマン・ツアーも始まります。ライヴはライヴでまた違った感覚があるものだと思いますが、曲作りとライヴだとどちらが楽しいですか?
★シンリズムの初ワンマン・ツアーの詳細はオフィシャルサイトの〈LIVE〉をチェック!
「僕はどちらかというと制作のほうかもしれません。ライヴも楽しいのですが、まだフルセットの編成で楽曲を演奏した経験が神戸のグッゲンハイム邸で演った1回だけで。それ以外はずっと弾き語りでやってきて、弾き語りも楽しいのですが、ずっとバンド・セットでやってみたかったんです。今回のツアーではバンドでできるので、それはすごく楽しみにしています」
――ファンの方も楽しみにしていると思います。では最後に訊いておきたかった質問が……普段レコードは買いますか?
「高1の後半くらいまではずっとCDで聴いていました。お父さんの部屋にレコード・プレイヤーがあったのですが、当時は壊れていて聴けなくて。いまはCDで持っている作品もレコードで聴いてみたくて探しに行くこともあります。始めからレコードで聴きたい場合もあったり。レコードを何も考えずに探して、ジャケットが良さげだったらそのアーティストをiTunesやYouTubeで検索して、音源をチェックすることもあります。新しいの見つけた!って」
――デジタルでも買いますか?
「買いますね。ただそのときのノリでアナログのほうが聴きたい気分だったりすることもあります」
――最近一番よく聴いてるのは?
「スナーキー・パピーのビル・ローレンスのソロがこの前出たんですが、それをデータで買って最近よく聴いてますね」