作曲家としての原点ともいえる1stアルバムが豪華仕様で新装リリース

 2002年、エレクトロニカというタームが一部のマニアにしか通じなかった時代に、圧倒的なクオリティと、音響の耳を拡張させた傑作1stがリリースされた。半野喜弘Currentからのリリースだったが、その点もジャンル横断的な一ノ瀬響のキャラクターを表している。一ノ瀬は芸大作曲科を卒業しており、現代音楽の作曲家として活動しているが、自身の作品は何れもいわゆる現代音楽作品集では無く、リリースするレーベルもそういったレーベルではなかった。映画のサントラや様々なジャンルとのコラボ、サウンドインスタレーションまで、その活動領域は多岐に渡る。

一ノ瀬響 よろこびの機械 novel sounds(2015)

 この1stがリリースされた当時、エレクトロニカの世界は、音そのものを生成し、音の唯一性を目指す。またはファウンドオブジェとしての音への視座(ホワイトノイズやサイン波の使用等)そういったベクトルを内包していた。また、テクノが辿ってきた肉体性を取り入れたり、情感を躊躇いなく表現する作品もあった。エレクトロニカはポップ~現代音楽まで、様々なエレメントを抱合しているものであった。

 トラックやアルバム全体のコンポジションについて、生楽器、人の声のサンプリングから、電子音~アンビエントまで、時間軸に対する音響配置は今聴いても目を見張るものがある。アカデミックな作曲を学んだ一ノ瀬だからなし得るものだと強く感じる。今回はオリジナル時の録音素材による新曲も収録し、全編リマスタリングを施している。また美術家、小阪淳によるビジュアルブック付きの仕様に生まれ変わっている。今改めて聴くと、当時のエレクトロニカ・マナーが真に優れた表現者にとってその可能性がいかに魅了されるものであったか?と思わずにはいられない。この作品が世に出て13年。エレクトロニカという言葉が一般にも流通し、その言葉が表す範囲も当時から比べるとかなり広がった。この作品の持つ純粋な創意や溢れ出るアイデアの具現化には圧倒される。何度でも参照するべき作品だ。