名器との対話から生まれる美しいメロディに乗って
天満敦子は、3年ぶりの新作『旅人のうた』で、小林亜星が彼女のために書き下ろした《旅人の詩》をはじめ、国内外の旅にまつわる名曲をレコーディングした。もちろんあの《望郷のバラード》も含まれている。
「旅というテーマの提案にありがたいと思いましたね。というのは、前作『ふるさとのうた』以降、東北への思いが私の中にずっとあって、日本の素朴なメロディにますます惹かれるようになっていたので。それに私のストラディヴァリウスが日本の曲になると、とっても渋い音を出すんですよ、ビックリするくらいに(笑)」
アルバムは15曲収録で、前半が《からたちの花》など日本の歌、中盤に和田薫の《雅俗二譚》と間宮芳生の《ヴァイオリン・ソナタニ長調よりアンダンテ》を挟み、後半は海外の有名曲という編成だ。
「収録曲のなかで私が特に希望したのは間宮先生の作品、この第2楽章がとても好きなので。先生は、青森出身だから、曲が訛っているというか(笑)、東北の民謡が感じられることと、昔から先生に岡田博美というすごいピアニストがいるので、絶対に一緒にやった方がいいと言われ続けてきたんですね。今回岡田さんがピアノを弾いて下さることになったので、ぜひ間宮先生の作品を入れたいと。和田先生の作品は、今年3月にコンサートで初演した大変斬新な新曲になります」
コンサートでの共演経験はあるが、レコーディングで岡田博美と組むのは2010年の《フランク&フォーレ:ヴァイオリン・ソナタ》以来2度目とのこと。彼と弾くと、“演奏が締まる”と表現し、代表曲《望郷のバラード》も「ゆっくりせつなく、だけではなく、引き締まって、体脂肪がなくなったような快感があるの」と笑う。
さて、東北に心寄せて演奏した日本の歌。《旅人の詩》も小林亜星がみちのくを歩く情景を描いた作品で、イマジネーションを刺激される一方、《花は咲く》など歌が聴こえてくるような演奏には心が揺さぶられる。
「歌詞を勉強し、理解してから弾こうと思っていた時期もありますが、それより今は、最初に楽譜を見て出した音、第一音の感触を大切に、自分がこう弾こうとか、自分の音を作ろうとかではなく、楽器が進もうとしている方向に私は従うだけ。そのなかで《花は咲く》は、震災後に福島で演奏した時に子供達がお礼に、と歌ってくれた歌に感動しちゃって。今でもその歌が忘れられなくてね。だから、明るく希望を求めて、というのではなく、旦那さん(ストラディヴァリウスのこと)と心せつなく、ちょっと首を垂れるような感じで、子供達の歌を思い出しながら演奏しています」
アレンジの多くは原曲に近く、メロディを大切にした演奏がとても美しく、聴き手を空想の旅へと誘う。
LIVE INFORMATION
天満敦子パリ祭コンサート
○7/14(火)18:00開演
会場:上野精養軒
天満敦子JHPチャリテイコンサート
○7/18(土)13:00開演
会場:浜離宮朝日ホール
天満敦子ヴァイオリンコンサート
○8/2(日)16:00開演
会場:大阪いずみホール
天満敦子ヴァイオリンリサイタル
○8/22(土)・23(日)18:00開演
会場:八ヶ岳高原音楽堂