TIME HAS COME
リヴァイヴァルを謳った安室奈美恵のニュー・アルバムは、豪華なクリエイターたちとの刺激的な手合わせを詰め込んだ『_genic』。フォトジェニックでライヴジェニックな彼女の、現在進行形を見よ!

 バラード・コレクションの『Ballada』を間に挿み、オリジナル・アルバムとしては『FEEL』以来およそ2年ぶり。常にチャレンジングな姿勢を作品そのものに反映させながら自身のモードを開拓してきた安室奈美恵のニュー・アルバムは、意味ありげな『_genic』という表題からして引き込まれる、(またしても!)彼女らしい意欲作となった。〈クラシカルなダンス・ビートやR&Bグルーヴなど80~90年代のリヴァイヴァル〉を作品のテーマに掲げた結果、シングル・ヒットした“BRIGHTER DAY”など昨年のリリース曲をすべて収録せず、全曲を今作のために選ばれた新曲(+初出のスペシャル・トラック)で固めるという試みをやってのけるのも、己のイメージやヴィジョンを作品に忠実に刻まんとする彼女の本気度の表れに他ならない。

安室奈美恵 『_genic』 Dimension Point(2015)

  もちろん〈リヴァイヴァル〉といっても〈懐かしのスタイル〉のようなものに回帰しているわけではない。そもそもこの10年ほどのトレンド自体が往年のサウンドの再解釈とモダナイズを繰り返している側面は大きいわけで、ここで彼女が表現するのも2015年モードとしての安室奈美恵だ。『Uncontrolled』(2012年)から顕著になってきた流れをさらに推進し、今回は海外のプロデューサー/ソングライターが大半を占める布陣。ほぼ全編が英語詞メインの内容ながら、それでも自身の持ち味から乖離することなく、〈らしさ〉をキッチリ刻み込んでくるのは頼もしい限りだ。いわゆるEDMで押す作りからは当然ながら一歩進み、とりわけ印象的に耳残りするのは“Scream”や“Fashionista”におけるニューウェイヴィーな音使い。

 広く耳目を集めそうなのはソフィーらしいバブルガム・ベースに跨がって初音ミクとコラボした“B Who I Want 2 B”だろうが、トリッキーな飛び道具に終わらず、それも全体のエッジーな流れのなかでキャッチーに響いてくるのが素晴らしい。

 不敵にバウンシーなSKY BEATZ製の“Stranger”がそこに埋もれていないのも収穫で、ひたすらアグレッシヴに風景を切り替えながら駆け抜ける全体の流れの良さはトータル・アルバムならでは。その力強いストライドがあるからこそ、本編ラストの唯一アコースティックな“Anything”も親密さを増して迫るのだろう。その後に控えるデヴィッド・ゲッタとのスペシャル・トラックも含め、安室奈美恵に歌われることのよく似合う楽曲が過不足なく揃った……言うなれば〈安室奈美恵ジェニック〉な力作だ。