八木皓平のエクレクティック・モード

第1回:インディー・ロック~クラシック音楽の地殻変動を象徴する音楽家、サン・ラックスの歩み

現在進行形の音楽を、さまざまな切り口で考えていく連載ブログ

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  • 2015.08.04

Mikikiをご覧になっているみなさま、はじめまして!

この度、こちらでブログを始めることになりました、岩手県在住の八木皓平(やぎこうへい)といいます。最近では「ポストロック・ディスク・ガイド」に寄稿するなど、音楽について細々と書いております。noteでも音楽に関する記事を絶賛更新中です(https://note.mu/lovesydbarrett)。

今回からスタートするこのブログのコンセプトは至ってシンプルで、〈現在進行形の音楽をさまざまな切り口で考えていく〉というものです。ジャンルも特定のモノに絞らず、リリースから1~2年以内の音源を中心に、のびのびと語ってゆきたいと思います。その際に注意したいのは、〈常に広めのパースペクティヴを持っておきたい〉ということです。たとえば1人の音楽家について考えるときも、その音楽家がどのような影響関係のもとで音楽を作っているのか、彼の音楽は現在のシーンの中でどのように位置づけられるかなどを考察することで、常に俯瞰的な視点を大切にしてゆこうと思います。そうすることで音楽の歴史に敬意を払いつつジャンル横断的な思考を可能にし、〈今、音楽シーンで何が起こっているのか〉をよりクリアに見えるようになるよう、努力してゆく所存です。

というわけで、この第1回ではインディー・クラシックという新しい動きのなかでも大きな存在感を見せる、サン・ラックス(Son Lux)の新譜『Bones』を、彼のキャリアとともに紹介しようと思います。

SON LUX Bones Glassnote(2015)

 



昨今話題となっている現代ジャズの隆盛は、その歴史の過程で育まれてきたものが一気に咲き乱れたという面もあるでしょうが、やはりYouTubeなどのツールやメディア、SNSの発達も一つの原因でしょう。このような、しばしば〈ポスト・インターネット〉と称される今日においてはジャンル内外の交流がより一層盛んになり、その状況は目に見えて音楽に反映されています。すべての音楽が滑らかに混ざり合ってゆくような環境下では、ある1つの音楽ジャンルのエッジを語る際に、他ジャンルの耳/ボキャブラリーが必要になってくるケースがこれまでよりもずっと多くなっているのではないでしょうか。

実際、クラシック音楽の領域でも、〈インディー・クラシック〉と呼ばれる音楽がその兆候として現れています。〈インディー・クラシック〉は2010年前後から少しずつ広がりを見せてきたジャンル名で(とはいえ、そこで活躍している音楽家たちはそれ以前から活動を行っています)、クラシック畑の音楽家が自分たちでコレクティヴを形成し、ジャンルの分け隔てなく幅広いフィールドで活動を展開していることで知られています。クラシック音楽や現代音楽が持つアンビエント/ドローン性を抽出&展開させたものである〈ポスト・クラシカル〉勢よりもポップ・ミュージックと近い距離でチェンバー・ミュージックを鳴らしており、現代ジャズで見られるようなエクレクティシズムが様々な形で聴き取ることができます(参考記事:八木皓平のnoteより)。

【参考動画】ブライス・デスナー&ソー・パーカッションの2015年作
『Music For Wood and Strings』トレイラ―
〈インディー・クラシック〉の好例といえる、ポップな響きをもつコラボ作より(参考記事はこちら
 
【参考動画】オーラヴル・アルナルズ&ニルス・フラームの2012年作『Stare』収録曲“a2”
〈ポスト・クラシカル〉を代表する両者による、夢見心地のコラボEPより



「これからはクラシックが面白くなる!」と単純に言うわけではないのですが、つい保守的な印象を抱きがちなクラシックでさえ変わらざるを得ない、というのはやはり注目に値する動きなのではないでしょうか。今回取り上げるサン・ラックスことライアン・ロットという音楽家もクラシック畑の出身ですが、彼の音楽には様々な音楽の影響が流れ込んでおり、クラシック音楽で起こっている地殻変動を象徴する極めて重要な音楽家の1人といえます。ここで彼のボーダーレスな音楽的影響/コラボレーションに焦点を当てながら、サン・ラックスの歩みを振り返ってみましょう。
 

ライアン・ロット(サン・ラックス)



サン・ラックスのデビュー作『At War with Walls & Mazes』はヒップホップ~ビート・ミュージックを革新し続けているレーベル、アンチコンから2008年にリリースされました。レーベル・カラーに沿った彼のビート・メイキングを楽しむのも良いですが、作品内に散りばめられたピアノやストリングスといったクラシックの要素に耳をすませると、そこには仄かにポスト・クラシカル/インディー・クラシックな香りが漂っており、その後の彼の歩みを示唆しているようです。

【参考音源】サン・ラックスの2008年作『At War with Walls & Mazes』収録曲“Betray”



2011年に発表されたセカンド『We Are Rising』は、1stで見せた彼が持つクラシック音楽の要素にフォーカスを当て、拡大させたようなものになりました。ポイントはやはり、現在のインディー・クラシックの象徴とも言えるコレクティヴyMusicと、マイ・ブライテスト・ダイヤモンドとしての活動で知られる女性ソングライター、シャラ・ワーデンの参加でしょう。yMusicは2014年に最新作『Balance Problems』を発表していますが、そこでプロデュースを担当しているのが実はサン・ラックスなのです。ここからも両者の縁の深さがうかがい知れます。このコレクティヴはクラシック音楽以外にもスフィアン・スティーヴンスダーティー・プロジェクターズナショナルなどの現代のインディー・ロックを代表するアクトとのコラボレーションでも知られており、現在はベン・フォールズとのツアーの真っ最中です。
 

【参考動画】ベン・フォールズ&yMusic、2015年の“So There”のパフォーマンス
この両者によるコラボ・アルバム『So There』は今年9月11日にリリースを控えている

 

そしてサン・ラックスの3作目『Lanterns』(2013年)は、最初の2作で培ってきた音楽性をさらにブラッシュアップし、圧倒的なスケール感とポップネスを獲得することに成功しました。オーケストラとエレクトロニック・ミュージックの融合という点で考えた時、これに比肩できる作品はスフィアン・スティーヴンス『The Age Of Adz』(2010年)くらいではないでしょうか(ちなみに、シャラ・ワーデンはこの両作品に参加しています)。この作品ではサン・ラックスが持つエクレクティシズムはさらに加速し、クラシック音楽との交流にとどまっていません。


『Lanterns』をスフィアンの『The Age of Adz』を比較してみましたが、サン・ラックスとスフィアンが持つビート・ミュージックへの距離感とサウンドのエクレクティックな嗜好性にはかなり共通点があり、それがシーシュポス(Sisyphus、スフィアン、サン・ラックスとラッパーのセレンゲッティが結成したヒップホップ・ユニット)の結成にも繋がっているのではないでしょうか。

【参考動画】サン・ラックスの2013年作『Lanterns』収録曲“Lost It To Trying”のMV
 
【参考音源】スフィアン・スティーヴンスの2010年作『The Age Of Adz』収録曲“All For Myself”
ケンドリック・ラマーが2015年作『To Pimp A Butterfly』収録曲の
“Hood Politics”でこの曲をサンプリングしている
 



『Lanterns』の折衷性を考察するうえで見逃せないのは、クリス・シーリノーム・ピケルニー、そしてラフィーク・バーティアの参加です。

クリス・シーリとノーマ・ピケルニーはプログレッシヴ・ブルーグラスをリードするバンド、パンチ・ブラザーズのメンバーです(クリスは同じくプログレッシヴ・ブルーグラスに属するニッケル・クリークのメンバーでもあります)。彼らは今年、最新作『The Phosphorescent Blues』をリリースしており、ブルーグラスを土台に、ビーチ・ボーイズ、R&B、クラシック、インディー・ロックをミックスした傑作となっています。

ラフィーク・バーティアは現代ジャズ期待の若手ギタリストで、2012年にアイスランドのポスト・クラシカル/インディー・クラシックの中心人物とも言えるヴァルゲイル・シグルズソンをミキシングに迎え、ポスト・ロック以降の感性でジャズを消化したデビュー作『Yes It Will』をリリースしています。『Lanterns』で彼がフィーチャーされている“Easy”は、同作の収録曲のうちいくつかを再構築したEP 『Alternative World』(2014年作)にも収録されており、そこではヴォーカルに“Royals”で世界的に注目された若き歌姫ロードを迎えています。

【参考音源】パンチ・ブラザーズの2015年作『The Phosphorescent Blues』収録曲“Julep”
【参考音源】サン・ラックスの2014年作『Alternative World』収録曲“Easy (Switch Screens)”
こちらはロードが歌っているヴァージョン(原曲はこちら
【参考動画】ラフィーク・バーティアの2012年、“Try”のパフォーマンス映像



そして、遂に届けられた新作が『Bones』です。この作品の特筆すべき点は、これまでライアン・ロットのソロ・ユニットだったサン・ラックスが3人編成のバンドになったことです。ギタリストには上述したラフィーク・バーティア、ドラマーは元ピープル・ゲット・レディー(ナショナルのデスナー兄弟が運営しているレーベル、ブラスランドに所属)のイアン・チャンが担当しています。このバンドは元々、前作『Lanterns』をライヴ用に再構築するために結成したそうで、その過程で本人たちが想像していた以上のケミストリーが生まれ、3人で新曲を作るようになったようです。

そういった経緯を経て作られた新作は、必然的にバンド・ミュージックとしての色が濃いものになっています。とはいえ、勿論いわゆるロック・バンド的なサウンドになっているわけではなく、ソロ・ユニット時代のサン・ラックスが培ってきたサウンド・デザインをバンド(+ゲスト・ミュージシャンたち)で再解釈するという、バンド結成の際のコンセプトがそのまま生きた作品です。このコンセプトを、現代ジャズを中心として今世界的に起こっている〈マシーン・ミュージックを人力で捉えなおす〉という〈フィジカリティの更新〉の流れに沿うものとして考えると、今の音楽で起こっているエッジを体現しているようで興味深いです。

【参考動画】サン・ラックスの2015年作『Bones』収録曲“Change Is Everything”
【参考動画】サン・ラックスの2015年作『Bones』収録曲“You Don't Know Me”



アルバムはイントロ・ナンバー“Breathe In”で静かに幕を開け、“Change Is Everything”で本格的なスタートを切ります。この曲でまず耳を引くのはライアン・ロットのヴォーカルです。彼はこれまでの作品でも自分の歌声を披露してきましたが、ここまでアグレッシヴに歌い上げ、ヴォーカルが前面に出ている楽曲は過去にほとんどありません。サン・ラックスをバンド編成にしたことによる最も顕著な変化は、彼のヴォーカルだと言っても過言ではないでしょう。次曲“Fight”はアレックス・ソープ(yMusic)の鮮やかに高速回転するフルート、繊細なエディットが行き届いた切れ味抜群のリズム、ラフィーク・バーティアによるエフェクティヴでフリーキーなギターが絶妙にブレンドされた、現在のサン・ラックスが到達した最良の成果の一つです。トライバルなビートの上で多数のゲスト・ヴォーカルとライアン・ロットの声を合唱的に使用している“This Time”、ロブ・ムース(yMusic)のヴァイオリン/ヴィオラが厳かな雰囲気を創り出し、サン・ラックスのポスト・クラシカルな側面が静かに立ち上る“Your Day Will Come”、4ADが誇るインディー・フォーク・ユニット、ドーターエレナ・トンラがフィーチャーされている“White Lies”など、バンドとして生まれ変わったサン・ラックスのサウンドは多彩なゲストがもたらす音色と相まって、これまで以上のダイナミズムを獲得しました。

ライアン・ロットの最も優れている点は、自分のアルバムを作り上げる際に必ず外部から様々なジャンルのミュージシャンを招き、コラボレートしているところではないでしょうか。彼の音楽スタイルは雑食的なもので、1つのジャンルに括るのは極めて困難です。その雑食性を支えるのが、彼の一貫したコラボレーションへの取り組みだといえます。おそらく、ライアンの頭の中で鳴っている音楽は彼1人ではとてもリアライズすることができないのでしょう。だから彼は〈ライアン・ロット〉という個人ではなく、〈サン・ラックス〉という容れ物に、アルバムを作る度に外部からエキスパートたちを招き入れてきたのです。常にプレイヤーが流動し続けながらも、サン・ラックスという他に類を見ない音楽を作り続けるその姿勢が、今後どのような展開を見せるのか楽しみでなりません。 

【プロフィール】
八木 皓平

八木 皓平

現在、岩手県盛岡市に住んでおりまして、そこで音楽について日々考えながら執筆、イヴェント開催など様々なフィールドでアウトプットしています。普段は植物の研究に勤しんでおり、バイオテクノロジーの発展に貢献すべく尽力していきたいと思います。「ポストロック・ディスク・ガイド」「ユリイカ」地方新聞「岩手日報」等に寄稿。lovesydbarrett80@gmail.com