©Alex Lockett

当代きってのヒットメイカー、ジャック・アントノフの魅力を本当に知っている? 喪失を超え、幸へと向かった新作に想うのは……もうブリーチャーズしか愛せない!

ソウルフルでチャーミング

 テイラー・スウィフト、ラナ・デル・レイ、ロード……この10年に渡って彼がプロデューサー/ソングライターとして関わってきた錚々たる面々を思うと、(特に日本で)ジャック・アントノフ自身のバンド、ブリーチャーズが彼らほど認知されていないのは仕方がないのかもしれない。だが、ブリーチャーズのソウルフルでチャーミングな音楽は、もっと多くの人に届くべきだ。ジャック・アントノフという人間のキュートさや繊細さが、フックの多いプロダクションと起伏に溢れたソングライティングに投影されたその楽曲は、愛さずにはいられない魅力に溢れている。これまで3作のアルバムをリリースしてきたが、デビュー時からのレーベル、RCAを離れ、ダーティ・ヒットへと電撃移籍。このたび通算4作目となるアルバム『Bleachers』をリリースする。さらなる飛躍が予想されるこの機会に、ぜひブリーチャーズと出会ってほしい。

BLEACHERS 『Bleachers』 Dirty Hit/ユニバーサル(2024)

 ジャックが2012年の楽曲“We Are Young”でグラミー賞を席巻したファンのギタリストというのは広く知られているが、彼がブリーチャーズを始動したのは、まだファンが活動休止に入る前の2013年頃のこと。同バンドのツアーで書き溜められていた楽曲は、2014年のファースト・アルバム『Strange Desire』にまとめられ、以降は2017年の『Gone Now』、2021年の『Take The Sadness Out Of Saturday Night』と、裏方仕事を多忙にこなしながらもコンスタントにアルバムを発表。ブルース・スプリングスティーンやニュー・オーダーを彷彿とさせるパワフルなサウンドとアンセミックなメロディー、ジョン・ヒューズによる80年代の学園映画を下敷きにしたというウキウキした感覚と青いメランコリアを併せ持つムードは、いずれの作品にも貫かれている。

 もちろん変化もあった。それは初期のエレクトロ・ポップ的なサウンドから、オーガニックなロック・アンサンブルへと徐々に志向性を強めていったこと。特に『Take The Sadness Out Of Saturday Night』は、エヴァン・スミス、ゼム・アンドゥ(共にキーボード/サックス)、マイキー・フリーダム・ハート(ギター)、ショーン・ハッチンソン、マイク・リドルバーガー(共にドラムス)という、ほぼ固定化されていたライヴ・メンバーのレコーディングへの参加が増えたこともあり、バンドの朗らかで活き活きとした演奏が実にゴキゲンだ。ジャックの故郷であるニュージャージーの風景を描いた同作は、かの地のボス=スプリングスティーンとEストリート・バンドの演奏を意識的にオマージュした瞬間も多い。最近のインタヴューでジャックは〈数多くのライヴを重ねた結果、バンド・マジックを起こせるようになった〉と現編成への手応えを語っており、その最高潮な仕上がりっぷりは2022年に開催されたNYのレディオ・シティ・ミュージック・ホールでの公演映像などでも確認できる。