【カマシ・ワシントン】
日時/会場
10月30日(金)~11月1日(日) BLUE NOTE TOKYO (公演詳細はこちら

photo by Mike Park

 

秋の来日ラッシュのなかでも、大きな目玉となるのがカマシ・ワシントンブレインフィーダーから発表された3枚組の超大作『The Epic』が世界的に評価され、名実ともにLAジャズ・シーンの最注目人物へとなった理想的なタイミングで、本邦初のリーダー公演が実現する。

「グラスパーの『Black Radio』は、メインストリームに寄せる形で新しいリスナー層を獲得してみせたわけですが、カマシはあそこまでストレートなジャズ作品なのに、ピッチフォークなどジャズ以外のメディアにも高く評価されているのもすごいですよね。ケンドリック・ラマーの作品にフィーチャーされたり、他のジャズメンに比べて文脈がいろいろ揃っているのが大きかったのだとしても、新しい扉をこじ開けてみせたのは間違いない」

 

彼はサックス奏者や音楽家として、どんなところが優れているのか。

「やっぱり演奏がパワフルですよね。彼のサックスはルーツを辿ると、まずはジョン・コルトレーンがいて、それからハンコックのヘッド・ハンターズにいたベニー・モーピン、そしてケニー・ギャレット。コード・チェンジしまくりながらエネルギッシュにでかい音で吹きまくる。そういう系譜を引き継いでいるから、古くからのジャズ・ファンにも歓迎されています。その一方で、ジェラルド・ウィルソンという西海岸が誇る作曲家のビックバンドにカマシは参加していたんです。このときの経験が大きくて、作曲家志向も強くてアレンジにも精通している。だから、自身の演奏をもすっきりしたアレンジで鳴らすことができて、吹きまくってるのにうるさくない」

そういったアレンジの才とバランス感覚が、『The Epic』を現代ジャズ作品たらしめている要因なのだという。

「ドラマティックなんだけど暑苦しくないんですよね。スピリチュアル・ジャズには、いろんなものが突出しているけど何かが欠けているといった不揃いな部分が多かったはずだけど、『The Epic』にはそういう欠けた部分が見当たらない。言い方を変えると、あらゆるものが演奏/録音レベルの高さを保ったまま完璧に配置されている。そこに現代性があるといえるのではないかと。しかも、プロデュースはフライング・ロータスで、エンジニアはLAのビート・ミュージック・シーンを長らく支える〈Low End Theory〉の首謀者ダディ・ケヴ。そして出来上がった音楽は、ジェラルド・ウィルソンやLAで隆盛を誇ったフュージョン、ブラック・ジャズニンバスといった西海岸のスピリチュアル・ジャズ・レーベルから、ビルド・アン・アークなどカルロス・ニーニョが手掛けた一連のプロジェクトにまでリンクしている。自分が生まれた地域で育まれた歴史や文脈が『The Epic』を軸に繋がっていて、やっていることのすべてが何かと紐づいている。まるで生まれたときから背負ってきた運命を形にしてみせたような、〈叙事詩〉の名にふさわしく圧倒的に誠実でスケールの大きなアルバムだと思います」

 

『The Epic』にはオーケストラやシンガー隊も含む総勢60名ものミュージシャンが参加しているが、今回の来日では選りすぐりの7人編成でステージに立つ。

「メンバーはLAに住む古くからの仲間たち。まずはロナルド・ブルーナーJr.トニー・オースティンのツイン・ドラムがヤバいですよね。前者はサンダーキャットの実兄で、弟の来日公演でも壮絶な叩きっぷりを見せてきたので、その実力はジャズ・ファン以外にも知られるところでしょう。鍵盤奏者のブランドン・コールマンも、西海岸シーンのキーパーソンになりつつあります。LAにはハリウッドがあったりする関係で、職人的でテクニカルなプレイヤーが多い。だからフュージョンが強い地域で、その界隈ではLAからミュージシャンを発掘するような流れもあるんですよね。ジョージ・デュークマーカス・ミラーに、カマシも昨年の来日公演で参加したハーヴィー・メイソンもそう。そういう大御所たちがフックアップしている実力派の若手が、カマシのバンドを構成していて、普段はフュージョンをやっているけど、カマシのバックではビート・ミュージックやヒップホップを通過した今日的なフィーリングでプレイしています」

 


9月30日(水)~10月3日(土)にBLUE NOTE TOKYOへ登場するスタンリー・クラークも、そういった若手を積極的に登用してきたレジェンドのひとり。

「サンダーキャット本人もリスペクトを公言するとおり、彼の大先輩に当たるベーシストですよね。今回の来日メンバーであるキーボードのキャメロン・グレイヴスは、カマシが率いるネクスト・ステップというバンドの一員で、フライング・ロータスのアルバムにも参加している。それに、スタンリー・クラークの過去作にはカマシ自身も参加しています。チック・コリアリターン・トゥ・フォーエヴァーで名を馳せて、近年は上原ひろみをフィーチャーしてグラミー賞も獲得。そんなベース・ヒーローも、フュージョン以前にはディー・ディー・ブリッジウォーターの参加したスピリチュアル・ジャズの名盤『Children Of Forever』(73年作)を発表したり、西海岸の血も色濃い。今回のステージも、新しいジャズを通過したいまこそ気づく発見が多くありそうです」

★スタンリー・クラーク来日特集はこちら

【参考動画】カマシ・ワシントンの参加した、スタンリー・クラークの2013年のライヴ動画