COLUMN

ヴェネツィアの歌う庭~ヴィヴァルディ meets 細川俊夫

時空を超えたコラボレーション〜“生け花”のような音楽時間

JEREMIAS SCHWARZER (C)Sandra Hamm

 

 アントニオ・ヴィヴァルディは、1678年にヴェネツィアで生まれた。作曲家、ヴァイオリニスト、カトリック教会の司祭として孤児のピエタ学院を一躍有名にしたヴィヴァルディは、自然界の事象を音楽で表現することを愛し、協奏曲『四季』『調和の霊感』など流麗な曲集を次々と発表、オペラの楽曲も数多く手がけ人気を博した。

 しかし、晩年は悲運だった。ウィーンの劇場の作曲家用宿舎の寝台で最期を迎え、旅行者として共同墓地に埋葬された。故郷に帰ることもかなわぬまま。

 世の中から忘れ去られ、200余年。その作品の価値があらためて評価されたのは20世紀になってからのこと。才能ある芸術家にはつきものの逸話なのか。光と影があるからこそ愛されるのか。

 2011年ベルリン初演の”Singing Garden”こと『ヴェネツィアの歌う庭』は、リコーダー奏者イエレミアス・シュヴァルツァーの発想で生まれた。ヴィヴァルディと細川俊夫による、古典と現代音楽の時空を越えたコラボレーションである。

【参考動画】JEREMIAS SCHWARZERとAKADEMIE FUR ALTE MUSIK BERLINによる “Singing Garden”

 

 「ヴィヴァルディの4つのリコーダー音楽を、いかに現代的な視野のもとに、蘇らせることができるか」というイエレミアスのリクエストに、細川は「生け花」という概念で応えた。彼の祖父が華道家だったこともあり、ここ数年は「生け花」をテーマにし、世阿弥の「花」にも強く惹かれてきたという。

 その『生け花』のような音楽時間は、細川の前奏曲《夜》に始まり、ヴィヴァルディの楽曲《夜》、細川の《夜明け》というように配置され、9つの曲で構成、最後は後奏曲《夜ー眠り》で締めくくられる。

 細川の音楽には鎮魂の心が宿っている。これまでにも能の「班女」をオマージュした作品や、「ヒロシマ」をテーマにした音楽、さらには声明からインスパイアされた「チャント」のような祈りの協奏曲を発表している。それらは彼岸と此岸をつなぐ「声なき声のための音楽」である。

 このたびの日本初演の出演者は、指揮・チェンバロの鈴木優人古楽も現代音楽も演奏するアンサンブル・ジェネシス、そして、リコーダーのイエレミアス・シュヴァルツアー。瑞々しい感性の音楽家の共演が楽しみだ。「ヴェネツィアの歌う庭」公演は7月3日、千駄ヶ谷の津田ホールにて催される。奇しくも7月はヴィヴァルディが葬られた月でもある。270余年の時を越えて、とりおこなわれる音楽の生け花という儀式。ヴィヴァルディは橋懸かりを軽やかに渡り降りてくるだろう。水の都に想いを馳せ、水無月に生けられる花々の音楽を心待ちにしたい。

 


 

「ヴェネツィアの歌う庭」ヴィヴァルディ meets 細川俊夫

○7/3(木)19:00開演
会場:津田ホール
出演:イエレミアス・シュヴァルツァー(企画/リコーダー)鈴木優人(指揮/チェンバロ)アンサンブル・ジェネシス(古楽アンサンブル)
曲目:「ヴェネツィアの歌う庭」〜バロック・オーケストラのための〜[日本初演]/ヴィヴァルディ:リコーダー協奏曲集 作品10より、室内協奏曲 ト長調RV.101
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