宇都宮のダンスホール時代から数えれば、音楽活動暦も優に65年を越す渡辺貞夫である。そして長くその演奏スタイルの核としてきたブラジル音楽との出会いは、今からちょうど50年前。バークリー留学の最終年に、ツアー・メンバーを探していたゲイリー・マクファーランドから正式にバンドへ迎えられるのだ。

 「最初はなんてダルい音楽なんだって思いましたよ。でもガボール・ザボのギター演奏に惹かれ、ニューヨークにはじまる10週間の西海岸ツアーへ出ていました。いつかリーダーの人柄にも惚れ、彼の施すアレンジにも魅せられて、ブラジル音楽の虜になってしまうんです。同年の暮に日本へ帰ってきますが、数年してニューポート・ジャズ祭に招聘された折に寄り道をし、初めて本場ブラジルへ足を踏み入れるわけです」

 ジャズに疎い現地ミュージシャンと接触し、彼らに最新のジャズ理論を教えるかわり毎晩のようにサンバボサノヴァなど、風土に息づく多彩なリズムの海に浴させてもらうのだ。この時に初めてのブラジル録音も適え、長かった北南米音楽旅を終わらせた。リズムへのこだわりはその後渡辺の音楽の基幹となり、郷愁漂う自作メロディも、早くからブラジル音楽と向き合ってきたことからくる影響だという。以後ブラジルを幾度か再訪し現地奏者たちとの録音も続けるが、ここにきてブラジル参りに拍車がかかった感がある。

 「2年を空けずの渡伯録音。というのも昨年ジャキス・モレレンバウムが東京で演奏をしたんです。一度会っていますが当初の印象は薄く、なのに再会した途端に意気投合して『一緒にアルバムを作ろう』なんて語り合っていた(笑)。『僕の曲にあなたのストリングス・アレンジを加え、あなたの国で録音しよう』って」

渡辺貞夫 ナチュラリー ビクター(2015)

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 6曲の新曲に加え、サラゴサ万博のために書き下ろした《ウォーター・カラーズ》、マクファーランドへのオマージュとして書いていた《スプリング》。またピシンギーニャの《カリニョーゾ》とチャップリンの《スマイル》も収録した。全編を通じて“ナチュラリー”なアルト音が心に沁み入るが、このタイトルに今の渡辺のある思いが込められたことが明かされた。

 「タイトル曲が、僕にしては自然に仕上がったんです(笑)。そして以前に『ホイール・オブ・ライフ』という作品を出していますが、精神科医エリザベス・キューブラー・ロスの著書『人生は廻る輪のように』の内容に感銘を受けてのあのタイトルでした。その彼女が “ナチュラリー”という言葉をよく口にすると聞いて、そのイメージも頭の中に漂っていた。2つがリンクして今回この題名になったのですが、まあ僕自身、そんなふうに生きられたらという思いもあるかな」

【参考動画】渡辺貞夫の2014年のBLUE NOTE TOKYOでのライヴ・トレイラー

 

LIVE INFORMATION
Sadao Watanabe Naturally
○12/4(金)京都コンサートホール 大ホール
○12/6(日)兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール
○12/8(火)関内ホール(横浜)
○12/9(水)常陸太田市民交流センター パルティホール
○12/11(金)グランシップ 中ホール・大地(静岡)
○12/12(土)Bunkamura オーチャードホール(東京)
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