音楽の聴き方が多様化した今、タワーレコードがおすすめしているのが高音質なSACDでのリスニング。この連載〈SACDで聴く名盤〉では、そのSACDの魅力や楽しみ方をお伝えしています。第20回第21回に続いて、今回も取り上げるのはタワレコのオリジナル企画〈アドリブ・ベスト・レコード・SACDコレクション〉。ADLIB誌の編集長を37年間務めた松下佳男さんが総監修し、洋邦のジャズの名盤をオリジナルマスターから新規でマスタリングしたのがこのシリーズです。オーディオ&ヴィジュアル評論家の小原由夫さんが、第3弾の3作を紹介してくれました。 *Mikiki編集部

★連載〈SACDで聴く名盤〉の記事一覧はこちら


 

ニュアンスや感情、現場の空気すら収録できるSACD

フュージョンというキーワードに血沸き肉踊る世代である私にとって、ナベサダや高中は、まさしくあの時代のアイコンに他ならない。しかも今般の一連のSACD化は、「アドリブ」創刊50周年。当時イチ読者(バックナンバーほぼ完パケ!)であった私が、今回の執筆オファーに首を横に振る理由は何もない。

本業の立場からSACDのオーディオ的優位性を大雑把に述べるならば、オリジナルアナログテープに記録された情報を細大漏らさず1bit/DSDデジタル信号にトランスファーできることが最大のセールスポイント。周波数レンジやダイナミックレンジばかりでなく、それは声や楽器の微細なニュアンスや演奏家のエモーションまで余さず収録可能。スタジオで鳴っている音はおろか、録音現場の空気感をそっくりそのまま12cmディスクにリパッキングできるに等しいのだ。とはいえ、オリジナルアナログマスターテープの保存状態が芳しくなければ、いくら綺麗に盛り付けたところで美味しくない。そこは過去のアーカイブに対して徹底したケアをしているビクター。心配御無用というところだ。ちなみにグリーンのディスクも音質に配慮した仕様である。

 

和フュージョンの熱気を再発見できる器の大きさ

渡辺貞夫『マイ・ディア・ライフ』は、ナベサダのフュージョン舵取り宣言といってよい77年作。デイヴ・グルーシン、リー・リトナー、ハーヴィー・メイソン等、ウェストコーストを根城に当時台頭し始めた若手セッションミュージシャンを従えた実にゴキゲンなプレイで、バンド的な一体感がスピーカー間にリアルに浮かび上がる。とりわけ秀逸なのはラストのアルバムタイトルナンバー。往時のFMラジオ番組のエンディングテーマであり、ソプラニーノが奏でる優しいメロディーがすこぶるナチュラル。これも2.8MHz/1bitDSDマスタリングの恩恵だ。

渡辺貞夫 『マイ・ディア・ライフ』 ビクター(2024)

秋山一将『ディグ・マイ・スタイル』は、78年リリースの彼の1stだ。バックを務めるのは笹路正徳や清水靖晃、山木秀夫といった、後に〈マライア〉を組む先鋭プレイヤーたち(マライアの母体となったグループには秋山も在籍)。彼らのタイトなリズムに支えられた秋山のギターはやや丸みを帯びたタッチで、ブルージーな響きは実に繊細。他方、今で言う〈ヘタウマ〉的な歌唱がマイケル・フランクスを彷彿させ、その滑らかでしっとりとした歌声のニュアンス描写もSACDならでは。

秋山一将 『ディグ・マイ・スタイル』 ビクター(2024)

高中正義『オン・ギター』は、教則レコードとして発売されながら、そのハイレベルな内容から充分鑑賞に値するアルバムとして再評価される78年作。オリジナル2曲に加え、ビリー・ジョエルやアース・ウィンド&ファイアーのカバー演奏を収録するなど、バラエティに富んだ選曲も貴重だ。もうひとつの注目点は、細野晴臣や高橋幸宏のYMOリズム隊の参加で、軽快ながらも芯のあるビートが聴きどころ。高中のギターは鋭い切れ味を見せる一方で、メロウな甘いトーンも披露。SACDは様々なエフェクターの効果の違いをクリアーに描き分けている。

高中正義 『オン・ギター』 ビクター(2024)

今回改めて第1弾、第2弾の7枚も含めて聴いて感じたのは、70年代末から80年代始めにかけての和フュージョンの熱気がシリーズ全体に漲っていること。SACDという器の大きさがそれを再発見させてくれること受け合いだ。

タワーレコードのYouTube動画〈高音質のCD? 「SACD」とは《Q&A編》〉

タワーレコードのYouTube動画〈【SA-CD普及委員会】#03 SA-CDとCD聴き比べ~朝比奈隆のベートーヴェン〉

 


RELEASE INFORMATION

渡辺貞夫 『マイ・ディア・ライフ』 ビクター(2024)

リリース日:2024年3月13日(水)
品番:NCS-80042
価格:3,850円(税込)

TRACKLIST
1. マサイ・トーク
2. サファリ
3. ハンティング・ワールド
4. L.A.サンセット(「東京組曲」よりサンセット)
5. 浜辺のサンバ
6. ミュージック・ブレイク
7. マライカ
8. マイ・ディア・ライフ

 

秋山一将 『ディグ・マイ・スタイル』 ビクター(2024)

リリース日:2024年3月13日(水)
品番:NCS-80043
価格:3,850円(税込)

TRACKLIST
1. アイ・ビリーヴ・イン・ユー
2. サマー・ドゥリーマー
3. ガット・ザット・フィーリング
4. キープ・オン・ラヴィング
5. ディグ・マイ・スタイル
6. ゲッティン・オン
7. シャイニング・ギター
8. メドレー マザー・アイズ/エスターテ

 

高中正義 『オン・ギター』 ビクター(2024)

リリース日:2024年3月13日(水)
品番:NCS-80044
価格:3,850円(税込)

TRACKLIST
1. ブリージン
2. ブルー・キュラソー
3. 素顔のままで
4. マンボ・ジャンボ
5. 君に捧げるサンバ
6. レインボー
7. ザッツ・ザ・ウェイ・オブ・ザ・ワールド
8. ウィー・アー・オール・アローン