音楽の聴き方が多様化した今、タワーレコードがおすすめしているのが高音質なSACDでのリスニング。この連載〈SACDで聴く名盤〉では、そのSACDの魅力や楽しみ方をお伝えしています。第20回に取り上げるのは、タワレコのオリジナル企画〈アドリブ・ベスト・レコード・SACDコレクション〉。ADLIB誌の編集長を37年間務めた松下佳男さんが総監修し、洋邦のジャズ/フュージョンの名盤をオリジナルマスターから新規でマスタリングしたシリーズです。第1弾の4枚を、音楽ライターの近藤正義さんが紹介してくれました。 *Mikiki編集部

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SACDの威力は絶大、音の艶が違う

今回ご紹介するのは昨年末の12月に発売されたばかりのSACDハイブリッド盤。このディスクはシングルレイヤーではなくハイブリッド構造なので、通常の再生装置を使って普通の2chで聴くこともでき、SACDの再生装置であればさらなる高音質で楽しむことができる。また、ここで採用されているDSDというアナログ信号をデジタル信号へ変換する方式は自然な音楽信号の再生が特徴で、アナログ的な音楽の空気感までが伝わってくる。だから、そこそこの音量で聴く2chのスピーカー再生、あるいはヘッドホン再生でも充分にクリアなHi-Fiサウンドを実感できるはずだ。そしてSACD再生なら、さらに音質は驚異的にアップする。やはり音の広がりや奥行き、そして音の艶が違う。録音周波数帯域とダイナミックレンジの拡張による威力は絶大だ。

このシリーズはかつてクロスオーバー/フュージョンの時代を牽引した音楽誌ADLIBの創刊50周年を祝し、〈アドリブ・ベスト・レコード・SACDコレクション〉としてビクターのクロスオーバー/フュージョンのカタログから選ばれた10枚のアルバムで構成されている。タワーレコード限定で、昨年の12月、今年に入ってからの1月3月の3回に分けてのリリースというスケジュールだ。ここでは第1回リリースの4作品についてご紹介しよう。

 

フュージョンを広めた名盤、その魅力を完璧に伝える

渡辺貞夫 『カリフォルニア・シャワー』 ビクター(2023)

前作『マイ・ディア・ライフ』(77年)で本格的にフュージョンへの参入を果たした渡辺貞夫による78年の大ヒットアルバム。アルバムタイトル曲がCMに使われたことでも有名になった。レコーディングでバックを務めたリー・リトナーらジェントル・ソウツ一派を率いるアレンジャー、デイヴ・グルーシンとの相性も抜群で、軽快かつハッピーなLAフュージョンに仕上がっている。

100万枚以上を売上げ、フュージョンをポピュラー音楽として世に広めた功績は大きい。それまで一部の人だけが愛好する音楽で幾分エリートなイメージのジャンルだったジャズに興味を持つことは時代のトレンドでもあり、クロスオーバーはその入り口としても機能した。クロスオーバーのムーブメントを、そしてADLIB誌の成り立ちを象徴する、まさに名盤中の名盤。

SACD再生なら、1曲目のタイトルナンバー“カリフォルニア・シャワー”から抜群な各楽器の分離の良さを体感できる。当時旬だったレゲエのリズムを採り入れたこの曲では音の間(ま)を聴かせることが大切なのだが、SACD再生によって音像の中における無音の空間をしっかり感じ取ることが出来る。これでこそ、この曲の魅力は完璧に伝わったのではないだろうか。

 

フュージョンの金字塔を立体的に再生

日野皓正 『シティ・コネクション』 ビクター(2023)

70年代にはNYに在住し、活躍したジャズトランペッター・日野皓正によるフュージョン路線の第1作。ハリー・ウィテカー、レオン・ペンダービスのアレンジによる分厚いホーンやストリングスも効果を発揮しており、ハードボイルドな都会的センスで攻めるサウンドに仕上がっている。また、女性ボーカルやスキャット/コーラスを配した曲も多く、ジャズの発展系でありながらポップ感覚にあふれ、なおかつソウルフルでもある。伝統芸能に陥ることなくオリジナリティをジャズに求めた当時の彼が言いたかったことはこのアルバムで充分に表現されている。

本作は商業的にも成功し、日野皓正の知名度をジャズだけでなく一般的な音楽ファンにまで広げた。ほぼ同時期にリリースされた渡辺貞夫の『カリフォルニア・シャワー』と並ぶフュージョンアルバムの金字塔。

本作からはアルバムのタイトルナンバーである“シティ・コネクション”を選んでみた。いかにもニューヨークサウンドらしい、鋼のように強靭なリズム・セクション、飛び出さんばかりに勢いのあるホーンセクション、表情豊かなキーボードとギター、さらにその中を自由自在に泳ぐ日野のコルネット、これだけの楽器が混在する音像空間が平面的になることなく立体的に再生されるのはSACD再生ならではの快挙だ。