INTERVIEW

菊地成孔、電撃復帰したジャズ・ピアニスト大西順子を語る―新作プロデュースまでの20年と開催迫る11月公演の展望

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  • 2015.10.30
菊地成孔、電撃復帰したジャズ・ピアニスト大西順子を語る―新作プロデュースまでの20年と開催迫る11月公演の展望

2012年に引退を表明しながら、今年9月に〈第14回東京JAZZ〉で日野皓正ラリー・カールトンとのバンドに参加し、完全復帰を果たしたジャズ・ピアニストの大西順子。89年にNYへ渡ってジャッキー・マクリーンらと共演した後、93年の初アルバム『WOW』でセンセーショナルなデビューを飾って、以降も世界的な名声を轟かせながら日本のジャズ・シーンを牽引してきた。そして11月4日(水)に東京・COTTON CLUB、11月6日(金)~8日(日)にBLUE NOTE TOKYOで、カリーム・リギンス(ドラムス)、ジェラルド・キャノン(ベース)を率いた復活第2弾のステージを早くも控え、来るべきニュー・アルバムは菊地成孔がプロデュースを担当することが発表されるなど、かつての大スターは再浮上しつつある。

今回Mikikiでは、新作のプロデューサーである菊地氏にインタヴューを敢行。〈雲の上の人〉からプロデュースを依頼される間柄となるまで、濃厚な大西のキャリアを同氏の視点で振り返ってもらうと共に、11月公演の展望、そしてニュー・アルバムについても少しだけ話を聞くことができた。

★【11月4日(水) COTTON CLUB】公演詳細はこちら
★【11月6日(金)~8日(日) BLUE NOTE TOKYO】公演詳細はこちら

 

大西さんに関しては、インサイダー的な予備知識はまったくなかったんです。バークリー(音楽院)の出身ですから、ジャズの業界にいればデビュー前から知ってるケースもよくあるんですけど、そういうことも特になく。それで90年代にはジャズ・フェスがまだ存在していて、92年のある日に〈ALL JAPAN JAZZ AID〉の中継をやってたので、TVを点けっぱなしにしてたんですね。そうしたら、向井滋春さんのグループが出演されてたので〈あ、向井さんのグループだ〉と思って、何かしながら画面は観ずに演奏を聴いていたら、ピアノ・ソロに入ったところでビックリして。〈ヤバいな、これ日本人?〉って。思わず振り返って画面を観たら、日本人の女性らしき人が弾いてたので、それで釘付けになったのが一番最初です。
※大西は高校卒業後に渡米し、89年にバークリー音楽院を首席で卒業

向井滋春の92年〈ALL JAPAN JAZZ AID〉のパフォーマンス映像。ピアノは大西順子

 

後年、作品を聴いて大西さんと知り合ってからも(プレイに対する)印象は一貫していて。女性のピアノとはフェミニンで線が細くて、リズムも曖昧であるというのが日本のジャズではアヴェレージだったんですけど、大西さんはその範疇を大きく超えていて。左手の強力なタッチとか、リズムのレイドバック感とか、ものすごく簡単に言うと男っぽくて黒人っぽい。そう表現すると、やたらファンキーでぶん殴るみたいなイメージに捉えられがちですけど(笑)、すごく繊細だし、音の使い方も近代的で。それでかつ音が太いので、とにかく滅茶苦茶カッコイイ。僕がテレビで観ていたのは、大西さんのキャリアにおけるプレ・デビューで。その後に1年と待たずして、あれよあれよという間に大スターになっていった。最盛期にはTVのCMにも出てましたもんね。そうなったらアルバムも聴くし、作品や作曲についても、大西さんが出演したドキュメンタリー番組とかで熟知していくわけです(笑)。

95年になると、僕はSPANK HAPPYの第1期をやっていた頃で、東芝EMI(現在は解散してユニバーサル・ミュージック傘下)と契約したので、溜池山王にあった本社ビルによく通っていて。95年はいわゆる小室ファミリー以降の景気が良かった時代でしたけど、当時の僕らはカルト・バンドと呼ばれていて。要するにまったく売れてなかった(笑)。その頃に(EMIの)Jジャズのフロアを通ると、大西さんは戦後のアコースティック・ジャズ・ピアノにおける邦人セールス記録を塗り替えたばかりで、〈おめでとうございます〉ってお誕生日パーティー(の飾り)みたいなのが扉についてて(笑)。羨ましく思いながら自分たちのフロアへ行くと、〈お前らはなんで売れないんだ〉と説教されるという(笑)。その頃も僕はジャズを続けていたので、大西さんは雲の上の人でした。

大西順子トリオの93年作『WOW』収録曲“B.ラッシュ”。異例のセールスを記録したデビュー作

 

94年作『ビレッジ・バンガードの大西順子』収録曲“ブルー・スカイ”。NYの名門クラブで日本人として初めて自身のグループで1週間公演した際のライヴ・レコーディング。

 

それ以降も、大西さんは作風も演奏スタイルも最初に観たインパクトのまま、ずっと活躍されていて。でもたまに、自分の作品じゃなくてジョー・ロヴァーノのサイドマンをやってる渋いのとかがあったりして(97年作『Tenor Time』)、僕はそれが好きなんですけど。

そのうち2000年代がやってきて。僕はDATE COURSE PENTAGON ROYAL GARDENや第2期SPANK HAPPYをやりはじめて忙しくなった一方で、大西さんは90年代ほど華やかに活動される方ではなくなっていって。とはいえ、ミュージシャンなんてそんなものですから。途中ブランクも挿みつつ演奏活動は続けられていた。その頃に、僕の視界からは一度いなくなったんです。といっても、DCPRGをやるのに精一杯で、大西さんに限らず(ジャズ・ミュージシャンは)全員いなくなったんですけど(笑)。
※2000年より長期休養に入り、2007年に復活を果たしている

そこから、上原ひろみさんや山中千尋さんが登場して、女性ジャズ・ピアニストのブームがやってきて。〈そういえば、大西順子はどうしたんだろう?〉と思っていたら、2010年に『バロック』が出たんです。どこかのジャズ・クラブで流れてたのを聴いて、全然フェミニンじゃないし、ジャケットも蜷川実花が手掛けていて、〈カッコイイなー、やっぱり大西順子は違うよね〉って話をみんなでしましたね。

大西順子 バロック  Verve/ユニバーサル(2010)

※試聴はこちら  

そして、2011年に僕がラジオ番組を始めてから(「粋な夜電波」)、折に触れて大西さんから投稿が来るようになったんです。最初は同姓同名の人だと思ってたけど、〈ジャズ・ピアニストの大西と申します〉とか(ハガキにも)書いてあって(笑)。2012年に川勝正幸さんが亡くなられたときに番組でラジオ葬をやったんですけど、その時も大西さんからお便りをいただいたんですよね。そうこうしているうちに、パソコンにもメールが届くようになって、そこにも〈ジャズ・ピアニストの大西と~〉とか書いてあるから、〈いや、20年前からよく知ってます〉とお伝えしたりして(笑)。そしたら、ジャズ業界は貧乏なので滅多にないことなんですけど(笑)、会食することになったんです。〈もしかして、アルバムのプロデュースを頼まれたりするのかな〉とか考えながら席についたら、大西さんは開口一番〈引退します〉とおっしゃって。正式に発表される直前というのもあり、大西さんは精神的にも肉体的にもヘトヘトで。〈しばらく休んで、活動再開すればいいじゃないですか〉と言ったんですけど、絶対に辞めるんだと。

その後に大西さんの引退発表がYahooニュースのトップに出たりして、ファイナル・ツアーがあって。と思ったら、半年も待たずしてサイトウ・キネン(・オーケストラ)と共演してボロクソに叩かれましたけど(笑)。そういう引退前のお祭りみたいな時期に、BLUE NOTE TOKYOのフリーペーパーで対談も実現したり、僕のラジオにもご出演いただいて。そこで大西さんのピアノをオークションに出して、全部売却したんですよ。〈もう弾かないから全部売るんだ〉って。
※大西の大ファンを公言する村上春樹小澤征爾の働きかけもあり、2013年に小澤が指揮するサイトウ・キネン・オーケストラとガーシュウィンの“Rhapsody In Blue”を共演した。

引退後はピアノの指導とかいろんなことをしたいとおっしゃっていたので、僕が新宿PIT INNでやってるジャズのパーティーに、ゲストDJとして誘ったんです。CDJの使い方を教えてから1台差し上げて。それで、僕がスイッチングとかサポートしたんですけど、とにかく大西さんのDJは素晴らしかった。そこから、大西さんと演奏以外でなにかできないかと要請があって、PIT INNの昼の部で一緒にトーク・イヴェントをやることになったんです。大西さんは浦島太郎状態で、〈今ジャズ〉をまったく聴いてなかったので、半分は大西さんの昔話をしながら、もう半分はヴィジェイ・アイヤーロバート・グラスパーとかをその場で聴かせて、大西さんの反応を窺うというイヴェントにして。大西さんのファンで毎回満員だったんですけど、お昼の開催は僕が起きるのキツいということで(笑)、これも終了して。

ヴィジェイ・アイヤーによるマイケル・ジャクソン“Human Nature”のカヴァー

 

そうしたら、大西さんもいろんなものを聴いて刺激を受けたのか……直接は訊いていませんが、〈復帰するのでアルバムのプロデュースをしてほしい〉と頼まれまして。そんなことになるとは思ってなかったので、〈いやいや大西さん、いま復帰したら滅茶苦茶叩かれますよ(笑)。止めたほうがいい。復帰しても別に構わないけど、僕のところに火の粉が飛んでくるのはイヤだから(笑)、ロンタリングというか禊というか、とにかく引退宣言したのを撤回するわけだし、ダーティーなイメージが付かないようにだけしていただけませんか。そうしていただけるなら、僕は昔から大西さんのファンだし、大西さんがいま何をしたらカッコイイのかアイデアもあるから、喜んでやらせていただきます〉とお答えしたんです。

しばらく何事もなかったあと、今年の〈東京JAZZ〉で日野(皓正)さんのグループで現場復帰されるという話が突然舞い込んできて(笑)。僕は知らなかったんですけど、大西さんを日本でデビューさせたのは日野さんだったんですよね。それで世代的なものもあるんだろうけど、〈元気になったのでやります!と言えば、みんな喜ぶだけだ〉という日野さんライクで能天気な感じだったみたいで(笑)。〈東京JAZZ〉には、沖野(修也)さんのKYOTO JAZZ SEXTETで僕も出演するのが決まってたし、とにかく大西さんはこれによって正式復帰ということになりまして。とりあえず四の五の言わずに、〈復帰おめでとうございます!〉と。それで今日に至ります。

この間の〈東京JAZZ〉でのパフォーマンスについては……ネジをかき集めておけばなんとかなるだろうっていう、雑な〈ジャズノリ〉というものがありまして(笑)。僕はコンセプチュアルにミッションを遂行するタイプの人間なので、そういうノリは正直苦手なんですけども(苦笑)、ジャズ的にはそっちが主流なわけで。ラリー・カールトンという美味しい錠剤をバンバンぶっ込んで(笑)、座らせて回らせておけばいいモンが生まれるだろう、みたいな。あたりまえだけど、そんなやり方をすれば大当たりか大外れになるかのどちらかですよね(笑)。さておき、〈東京JAZZ〉での大西さんのパフォーマンスをどう評価するかといえば、まあ肩慣らしというか。久しぶりに大観衆の前で弾いたわけだし、自分のバンドでもないし、本調子ではないけどそんなのあたりまえじゃん!っていう印象です。

そんな感じなので、実は今回のBLUE NOTE TOKYO公演も青天の霹靂で。〈うわ、出るんですか!〉っていう(笑)。〈東京JAZZ〉に出演したことでジャズ・クラブも放っておかないだろうから、それで一気にブッキングしたんでしょう。今回の公演に僕はまったく噛んでないし、大西さんは僕なんかよりジャズメンというかアメリカ人というか、昔から〈ギグの誘いがあれば、そりゃやるでしょ〉って人なので。

共演するカリーム・リギンスはネクスト・ウェイヴで、〈今ジャズ〉第1期のスターであるクリス・デイヴとかマーク・ジュリアナマーカス・ギルモアに次ぐ人気ドラマーですよね。大西さんと個人的にも仲良くなったそうで、カリームも大西さんを気に入っていたりと演奏上のパートナーシップもよろしく、この間〈東京JAZZ〉で来日したばかりなのにまたやってくるわけですよね。ベースのジェラルド・キャノンはそこまで高く評価されてるわけではないけど、まあ安定感のある人ですね。

カリーム・リギンスがドラムを叩くパフォーマンス映像。ジャズ・ドラマーとビート・メイカーの才能を併せ持ち、今年9月に〈東京JAZZ〉で大西らと共演する数日前に、代官山AIRでDJセットを披露した。

 

最初は大西さんに、〈今回の11月公演は、昔の曲とジャズ・スタンダードをやればいいんじゃないですか〉と申し上げたんですよ。それで怒るお客さんは絶対いないし、大西さんがバーッて演奏しちゃえば、ドラムもカリームだし、持っていかれるに決まってるから。だけど、〈次のアルバムの曲をやりたいんですよね〉って。まあ言われますよね(笑)。というのもあって、アルバム制作はこれからですが、どうせいつかは作るわけだし(新作に収録される)ピアノ・トリオの曲だけ先に書き上げることにしました。とはいえ、さらっと簡単に弾ける曲を作るつもりはないので、今回の公演で絶対に(新曲を)やるという確約はできなくて(笑)。最低でも1曲、作業がサクサク進めば4~5曲は提供して。場合によっては〈プレ・レコ発〉ぐらいの勢いになればとも思いますけど、そこまで責任は負うことはできないので(笑)。今回の公演は〈東京JAZZ〉を受けての復帰公演で、新作についてはお楽しみにしといてください。いまの時点で言えるのは、〈いろんなコンテンツを予定しております〉というぐらい。これまでの大西さんの作品みたいに、ピアノ・トリオか、何本かホーンが入る程度のコンテンツだけじゃなくて、〈今ジャズ〉の潮流に追従するわけじゃないですけど、R&Bに寄せるとか、フィーチャリング・ラッパーがいるといったことも、これはまだ明言できませんけど。とにかく、いろいろな要素のある作品になると思います。

 


〈大西順子トリオ フィーチャリング・
ジェラルド・キャノン & カリーム・リギンス〉

【COTTON CLUB公演】
日時:2015年11月4日(水)
開場/開演:
1stショウ:17:00/18:30
2ndショウ:20:00/21:00
料金:自由席/8,500円
※指定席の料金は下記リンク先を参照
★ご予約はこちら

【BLUE NOTE TOKYO公演】
日時:2015年11月6日(金)~8日(日)
開場/開演:
11月6日(金)
1stショウ17:30/19:00
2ndショウ20:45/21:30
11月7日(土)、8日(日)
1stショウ16:00/17:00
2ndショウ19:00/20:00
料金:自由席/8,500円
※指定席の料金は下記リンク先を参照
★ご予約はこちら