INTERVIEW

フローティング・ポインツが語る初アルバム『Elaenia』―電子音楽の鬼才が本領発揮したコンテンポラリーな総合芸術とは

フローティング・ポインツ 『Elaenia』 Pt.1

フローティング・ポインツが語る初アルバム『Elaenia』―電子音楽の鬼才が本領発揮したコンテンポラリーな総合芸術とは

多くのミュージシャンたちを招き、自身の演奏と共に繰り広げた緻密なアンサンブル——電子音楽の鬼才がその恐るべき本領を発揮したコンテンポラリーな総合芸術とは

 「自分にとっては、EPの『Shadows』もアルバムのような作品なんだ。トラックは5つしか入ってないけど、それぞれの曲がアルバムのようにリンクしているし、一貫性がある。それに、当時の僕が反映されているしね。だから、今回〈ファースト・アルバム〉を出すことになって、〈アルバムとは何なのか?〉という考えを持つようになった。今回は、周りに協力してくれる人がたくさんいるから、いままでの作品よりも多くの人に届くんじゃないかなとは思う。前回は大学で忙しくて、いろいろと考える時間がなかったから、作った曲をとりあえず全部リリースしてたんだ。でもこのアルバムでは、他のアーティストに楽器を演奏してもらったり、プロセスで多くを学んだよ。すごく楽しかった」。

 そう語るのはサム・シェパード。マンチェスターに生まれ、ロンドンで育ち、現在はフローティング・ポインツの名で知られる彼は、まだダブステップという呼称が忌避されていなかった時代に発表した7インチ『For You/Radialty』(2009年)で脚光を浴びて以来、アレクサンダー・ナットと共同で運営するエグロからのリリースを中心に、才気に溢れた活動を見せているプロデューサー/DJである。

 本人の弁にあるEP『Shadows』(2011年)はディープ・スペースの広がるコズミックなハウス仕立ての美しい名品集であった。ただ、それ以上に彼の名を輝かせたのは、16人編成のオーケストラによるフローティング・ポインツ・アンサンブルの始動と、同名義でニンジャ・チューンから放ったシングル『Post Suite/Almost In Profile』(2010年)の超然とした佇まいだったろう。クラシック音楽の素養も活かしたそのシングルの出来映えは、サムがアカデミックなリスナー層からも賞賛を浴びるきっかけとなったに相違ない。そして、今回完成された初めてのフル・アルバム『Elaenia』は、そういった過去のプロジェクトごとの特性をうまく束ねて織り合わせたような内容となっている。

FLOATING POINTS Elaenia BEAT/Pluto(2015)

 「いままでに作ってきた曲すべてがこのアルバムに影響していると思うし、基になっていると思う。作品を作るごとに、そこからいろいろと学ぶしね。『Post Suite/Almost In Profile』はよりクラシックなやり方で書かれたバンド中心の作品だったし、『Shadows』はエレクトロニック・レコードだから、それぞれ全然違う。でもその2つが『Elaenia』ではひとつに繋がった感じだね。まったく違う音楽を作っているうちに、それが混ざり合うようになったというのかな。音楽的な転機はこれまでも何度もあったし、いまだにあるし、これからもあると思う。何かから影響されるのを止めることはできない。自分が経験したすべての音楽が、僕の音楽のパレットに加えられていくのさ。画を描いていて、新しい色を見つけて、それを使ってみるような感覚。意識的にそれをやっているわけではないけど、それが自分の一部になるから、自然と出てくるんだよ。ブラジル音楽にはかなりハマってるんだ。ブラジルには何度も行ってる。ソウル、モダン・ソウル、アーリー・ディスコ、そういった音楽からの影響も大きいね」。

 そう語るなかでも、今回の『Elaenia』を顕著に支配するトーンは、ジャズやアンビエント、そしてクラシック~現代音楽からの影響だ。それはつまり必然的に、作曲家や演奏家としてのサムに焦点を当てた作品ということになる。資料によるとビル・エヴァンスからケニー・ホイーラー武満徹らの音楽を聴き親しんできたという側面が、ここにきて大きな存在感を示すようになってきたわけである。オープニングの“Nespole”では彼なりの電化ジャズを展開し、続く“Silhouettes(I, II & III)”は荘厳なストリングスや躍動感のあるブラジリアンなリズムも伴いながら約11分の3部構成で雄大な景色を描いていく。そのまま表題曲の“Elaenia”はイマジナティヴな音像で自然の美を転写したような響きが心地良いナンバー。

 「サウンドは全部シンセで作られているんだけど、時間をかけて、シンセを使いながらもなるだけオーガニックなサウンドを作ろうと意識していたね」。

 そんな風景から一転、“Argente”ではパーカッシヴなエレクトロニックの要素を濃くしていき、同じテーマの訪れる“Thin Air”ではそこに自然音のような有機的な音色もレイヤード。緻密な計算とファジーな揺らぎが入り交じった柔らかさは、続くジャジーな温かみを帯びた“For Marmish”にも持ち越される。この曲がハーモノグラフ(音に従って画を描く装置)を通じて描いたのが、今作ジャケの抽象的なアートワークだという。そして、ラストに訪れるのが“Peroration Six”。演奏が熱を帯びていったところで唐突に途切れる作りが印象的だ。

 「クレイジーなサウンドがブラックホールに吸い込まれて、まるで存在していなかったかのように消える——そんなイメージで曲を作っていたんだ。もっと言えば、消えるけどその続きがあるような曲を作りたかったんだよ」。

 耳の奥で音は漂い続ける——イマジネーションを激しく刺激するこの芸術を、ぜひ浴びて、感じていただきたい。

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