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【特集】ポストの先で出会った地下のポップス
多様なコンテクストを出入力しながら、驚くべき早さで拡散していった〈#OPN〉〈#Arca〉の波動。その現象がいま、スタンダードになろうとしている
ONEOHTRIX POINT NEVER
『Garden Of Delete』の頭文字を取ると――電子音楽の革命家が、また一歩、神に近付こうとしている。 激しい怒りと諦めにも似た感情が交差するこの憂鬱なバラードを、僕らはどう受け止めようか……
イマジネーションに集中したよ
アンビエントやドローンを基調とする彼のサウンドには、〈ここでこう鳴るだろう〉といった聴き手の予想をことごとく裏切る遊び心と、それに伴う心地良いチグハグさがある。ゆえにグルーヴは違和感だらけだが、その違和感こそ、繰り返し聴きたくなってしまう高い中毒性の秘訣だろう。そうした奇異な音を生み出すクリエイターであり、サグ・エントランサーやガビなど、先鋭的なアーティストの作品を世に紹介してきたソフトウェアの主宰者としても活躍する人物――ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーことダニエル・ロパティン。彼はさまざまな方法で2010年代の音楽シーンに影響を与えてきた。
そんなダニエルが、『R Plus Seven』以来2年ぶりとなるニュー・アルバム『Garden Of Delete』を発表した。今作を聴いて最初に驚かされたのは、静謐な雰囲気の前作とは打って変わり、アグレッシヴな内容になっていたこと。この変化について、本人は以下のように語る。
「自分でも何でこう変化したのかわからない。前作はNYにある自宅でレコーディングしたんだけど、そこは妻と一緒に住んでいるアパートだから、部屋にはブーケや絵が飾ってあった。変な感じだけど、それらがサウンドに落ち着きを与えたのかもしれない。でも、今回はレコーディングのために借りた、地下にある凄く暑くて小さい部屋で作業したんだ。それが反映されたのかもしれないな。1日17時間、こもりっきりで作業していたからね。孤独だったし、自分のイマジネーションに集中していたよ」。
『Garden Of Delete』でのサウンド・アプローチには、前作以降の活動から得た成果が多分に反映されている。この間にダニエルは、アントニー・ヘガティの新プロジェクトであるアノーニへの参加、ゲーム・ミュージック制作で有名な並木学のリミックス、さらにはナイン・インチ・ネイルズやサウンド・ガーデンとのツアーなど、外部との交流を積極的に行ってきた。
「ナイン・インチ・ネイルズからナミキさんまで、すべてから多くを学んだ。アントニーはピアノで凄く美しい曲を書くんだけど、その美しさやどんどんディープになっていく彼のアレンジメントには刺激を受けたし、ナミキさんが作り出すプログレッシヴ・ロックとメタルのコンビネーションは、俺の人生で体験した音楽のなかでもっともクレイジーでイケてるサウンドだったよ。テイラー・スウィフトが彼みたいな音で歌ったら、この世で一番クールなポップスターになるだろう。『Garden Of Delete』に入っているメタルの要素は、ナミキさんが90年代後半から2000年代にかけて作ったゲーム・ミュージックにインスパイアされて生まれたと言っても過言じゃないよ」。
OPN流のポップ・ミュージック
また、本作は〈歌〉が聴けるのも特徴だ。この〈歌〉にはちょっとした秘密があるようで……。
「音声合成を使用したんだ。日本で人気のボーカロイドに似た、チップスピーチっていうプログラムを使っている」。
そのチップスピーチを使おうと思った理由は、次の通り。
「言葉をタイプして、それをキーボードでプレイできるっていうのがおもしろいと思ってさ。俺はシンガーとしてはイマイチだけど、キーボードは演奏できるからな。もともと機械と人間の能力を組み合わせるのが好きなんだ。それって凄く挑戦し甲斐があるし、ソフトウェアだけの安っぽいサウンドを、いかに恐ろしく、美しく、奇妙にできるか、つまり人間らしくできるかっていうチャレンジに興奮するんだよ」。
ちなみダニエル、初音ミクも知っているそうで、「彼女は大スター。クールだと思う」とコメント。もしかしたら、本作にはボーカロイドの影響も少なからずあるかもしれない。それはさておき、当初アルバムは「問題を抱えたポップ・ミュージックの実態を浮かび上がらせる作品」になる予定だったとか。だが、そのプランは紆余曲折を経て変更を余儀なくされた。
「アルバム作りに取り掛かろうと思った時、エンジニアやセッション・ミュージシャン、ソングライターとか、ビッグなポップ作品に関わっている誰かとコラボするのも悪くないと考えていた。でも、そのアイデアを実現させるのは難しいってわかった。そういう人たちは、俺らみたいなミュージシャンと会うことにすら興味がないらしい。お金になるトラックじゃない限り、話をしたくもないのかな。それだったら、ビルボードのTOP40に入るようなポップ・ミュージックの、ちょっと変わったヴァージョンを作ろうと思った。OPNヴァージョンのポップソングをね。そうやって制作が始まったんだ」。
何とも興味深い発言だ。これまでのOPN作品は前衛的なプロダクションがウリだった。しかしここへきて、彼なりに〈ポップ・ミュージック〉をめざしたわけか。
「俺にもポップ・ミュージックを作れることは証明できたと思う。ここで挑戦したかったのは、ポップ・ミュージックに捻りを加えて独自のものを作ろうってこと。捻りを加えながらもちゃんと〈曲〉に聴こえるし、奇妙でありながらキャッチーさや格好良さも兼ね備えた音楽に仕上がっているだろ!?」。
【特集】ポストの先で出会った地下のポップス
★Pt.2 アルカ『Mutant』のコラムはこちら
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