INTERVIEW

グレッチェン・パーラトが現代ジャズから愛される理由――決定盤コンピを軸に〈魔法のヴォーカル〉が生まれた背景に迫る

Photo by David Bartolomi

 

NYの現代ジャズ・シーンを代表する女性ヴォーカリスト、グレッチェン・パーラトによる至福の歌声をコンパイルした日本独自企画盤『The Gretchen Parlato Supreme Collection』がリリースされた。サード・アルバム『The Lost And Found』(2011年)ではロバート・グラスパーが共同プロデュースを務め、『Live In NYC』(2013年)は第57回グラミー賞のベスト・ジャズ・ヴォーカル・アルバム部門にノミネート。その美しいウィスパー・ヴォイスは多くのアーティストを魅了し、これまで50作品以上に参加してきた。そのマルチな活躍ぶりを総括した今回の企画盤には親密なムードが漂っており、クリスマス・シーズンのプレゼントにもぴったりだろう。今回は新時代ジャズ・ガイド〈Jazz The New Chapter〉の監修を務める柳樂光隆に、グレッチェンへのメール・インタヴューを依頼。彼女のシンガーとしての魅力を紹介してもらった。 *Mikiki編集部

GRETCHEN PARLATO The Gretchen Parlato Supreme Collection CORE PORT(2015)

 

グレッチェン・パーラトは〈声がいい〉〈歌が上手い〉以上の魅力を持っているヴォーカリストだと思う。その囁くような声は、現代ジャズの高度なサウンドをいとも簡単に乗りこなす。優れたリズム感も特筆すべき点で、プレイヤーの演奏を引き立て、バンド演奏のグルーヴを豊かにする魔法のような歌唱は彼女の代名詞となっている。

そして、この〈Supreme Collection〉は、ジャズのみならずR&Bやポップス、ブラジル音楽などジャンルを越えてシンガーとしての魅力を発揮してきた彼女が、同世代の逸材たちと実り多き交流を育んできた足跡を振り返るのにもうってつけの内容だ。自身のリーダー名義で発表した4枚のアルバムからの楽曲に加え、ケンドリック・スコット・オラクルや(夫である)マーク・ジュリアナジェシ・フィッシャーなどのアルバムでゲスト参加したナンバーもピックアップされており、ブラジリアン・ジャズの名手であるニルソン・マッタとのコラボ曲“Eu E O Meu Amor”(邦題〈僕と僕の愛~モーホの嘆き〉)など、日本初CD化曲も9曲収録されている。この1枚を聴けば、彼女が多くのミュージシャンに愛される存在となった理由がよくわかるはず。グレッチェンの声が聴こえるところに行けば、そこにはいつも新しいジャズが鳴っている。

Photo by Jeremy Kotin

 

――大学時代にはどのようなことを学んだのでしょう?

「UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)で民族音楽学を学びました。そこではケニー・バレルバーバラ・モリソンティアニー・サットンといった先生方のもとで学びました。ジャズの勉強はその後セロニアス・モンク・ジャズ協会(Thelonious Monk Institute Of Jazz Performance )で続けたのですが、それがUSC(南カルフォルニア大学)のキャンパス内にあったのです。そこではカーメン・ブラッドフォードカーメン・ランディに師事しました」 

――あなたの歌を聴いていると、ジャズに根差していながらも、〈ジャズ・ヴォーカル〉を学んだだけではなく、あらゆる〈ヴォーカル〉を研究されたように感じます。

「私はいろんな種類の音楽を聴いて育っていて、17歳になるまではジャズを歌おうと考えてもいませんでした。ジャズ・ヴォーカリストではないアーティストでは、ジュリー・アンドリューススティーヴィー・ワンダーマイケル・ジャクソンなんかが大のお気に入りです」

〈Supreme Collection〉収録曲、ローリン・ヒルのカヴァー“All That I Can Say”

 

――あなたの歌にインスピレーションを与えた〈楽器〉、もしくは〈楽器奏者〉について教えてください。

マイルス・デイヴィスチャーリー・パーカーからは大いに影響を受けています。ヴォーカリストが管楽器を演奏するように歌う(その逆も然り)のは、とてもいい勉強になります。ウェイン・ショーターハービー・ハンコックからも、物凄くインスパイアされています」

〈Supreme Collection〉収録曲、ウェイン・ショーターのカヴァー“Juju”のパフォーマンス映像。ここではカマシ・ワシントンやロナルド・ブルーナーJrが参加

 

――以前からボサノヴァやMPBの曲をよく歌っていますよね。原曲の魅力を活かしながら、これらの曲を軽やかにあなたらしく歌うために、技術的にどのようなことを意識していますか?

「ブラジル音楽では、主にジョアン・ジルベルトの影響を受けていると言えます。そのピッチ、トーンやリズムは驚くほど明確で、言葉遣い(表現方法)は一見シンプルだし、まるでそれら(ピッチなど)すべての上を浮遊しているみたいだけど、とても思いやりに溢れていて正確なんですよね。どんな曲であっても、歌を通して自分だけのストーリーを表現することでその曲に敬意を表す――それが私のめざしていることです」

――ブラジルの音楽には〈サウダージ(郷愁)〉と呼ばれるフィーリングがあるわけですけど、NYで活動するあなたの音楽にも、それと通じるものを感じます。歌とそれに乗せる感情やフィーリングについては、どのように考えていますか。 

「歌の感情的なストーリーにコネクトすることは、私が音楽に向き合うときにもっとも大事にしている3大要素のひとつです。残りの2つは、テクニカル、そしてスピリチュアルな部分。歌詞のあるなしにかかわらず、どんな作品にでも何かしらの気持ちが繋がっているもの。歌い手の私、一緒に演奏するミュージシャン、そして聴き手の感情など。自分が歌う歌はどんなものでも、その歌の感情的な側面を明かすことに時間をかけています。これの素晴らしいところは、そういった感情的な部分がいつも変わっている、ということです。私たちの感情は常に変化し続けていますからね。ひとつの歌を歌うことである感情を抱いても、次に歌ったときは異なるものを感じていることがあるのです。こういったことこそが、人間である私たちを音楽と繋ぎ、より深い空間に導いてくれるのです」

〈Supreme Collection〉収録曲、アントニオ・カルロス・ジョビンのカヴァー“Ela E Carioca”のパフォーマンス映像

 

――あらゆる音楽にとってリズムは重要なものだと言えますが、あなたは特にリズムに関して意識的なヴォーカリストだと思っています。例えば、よくカシシを振りながら歌うのもその表れなのかなと。

「まったくその通りですね。リズムは本当に大事! 私は幼い頃からリズムに惹かれていました。“Butterfly”のイントロを聴いてみてください。あれは2歳の私がリズムを刻んでいるところを録音したものを使っているのです」

2013年作『Live In NYC』収録曲“Butterfly”のパフォーマンス映像。上記の発言で言及されているスタジオ・ヴァージョンはグレッチェンの2009年作『In A Dream』に収録

 

「高校と大学時代はパーカッション・アンサンブルに所属していました。でも、それぞれのパーカッション・パートのリズムを覚え、さらにそれらがいかにしてそれぞれ対抗したり繋がり合ったりして、全体のリズム・ユニットを築いているかを理解するにあたっては、UCLAでのガーナ・ミュージック&ダンス・アンサンブル(Music And Dance Of Ghana Ensemble)での経験によるものがもっとも大きいです。シンガーは歌のなかで言葉の使い方によって自分のストーリーを伝えようとしますし、またその音楽に挑戦し、支えるためにきちんとバック・バンドとやり取りをするためには、リズムは本当に重要なのです。ボビー・マクファーリンアル・ジャロウ、ジョアン・ジルベルトのように、みずからの声をパーカッションや楽器のように操るヴォーカリストからの影響は大きいですね」

ボビー・マクファーリンとテイラー・マクファーリンのヴォイス・パフォーマンス映像。声を打楽器のように操る父子の共演

 

――これまでに録音してきたもので、特にリズムに関して意欲的なアプローチを心がけた曲があれば教えてください。

「“Alo Alo”や “Doralice”、あとはリオーネル・ルエケとのデュオで”I Can’t Help It”を歌うときなどは、特にリズムに注意しています。リオーネルは私のリズム感やタイム・キーピングの感覚を後押ししてくれるので、一緒に歌うのはいつだってワクワクします」

〈Supreme Collection〉収録曲、スティーヴィー・ワンダーのカヴァー“I Can't Help It”

 

グレッチェン・パーラトとリオーネル・ルエケのセッション動画。リオーネルはベナン共和国出身のギタリストで、2015年にブルー・ノートより新作『Gaia』を発表した(トレイラ―映像はこちら

 

――あなたの歌は、ダイナミズムを抑えて、狭いレンジのなかで繊細に声をコントロールすることで、音楽に豊かな情感をもたらしているような瞬間があるように思います。そのスタイルを見つける転機となった出来事があれば教えてください。

「どんなときも、自分の声に対しては、正直で偽りのない状態であろうとする直感に従ってきました。これまでの道は、もっともピュアで素朴な声を見つけ、その声のパワーと美しさを実現し、そして自分ならできると信じていることにチャレンジし続ける、というものでした。私の声はほかのアーティストのように大きくはないかもしれませんが、精いっぱい鳴り響かせているつもりです。8年生(中学2年)のときの英語の先生が、卒業アルバムに書いてくれた言葉がいまでも胸に残っています。〈君はなんて静かなパワー(の持ち主)なんだ〉って。若い人に敬意を示し、ほかの人のような歌い方(演奏)をしたり、ほかの人の真似をしなくとも、(彼らは)そのままで良くて、価値があるということに気付かせてくれるなんて、本当に素晴らしいことだと思います」

――今回の企画盤には、さまざまなアーティストとのコラボレーション曲が収録されていますよね。

「ここに選ばれたすべての作品に、素敵な思い出があります。これまで幸運にもご一緒できたアーティストの方々やプロジェクトの数々を思い起こさせてくれますし、今後のキャリアもますます広げていけるよう、刺激になっています。マルチなアーティストとしては、いろんなプロジェクトで共演できるのはいつでも嬉しいことですが、私にとってもっとも大事なのは、誠実であると認められる内容にすることです。依頼を受けた歌については愛情を注げるものにしたいと思っていますし、テクニカルで感情的、そしてスピリチュアルな側面で個人的に繋がれる部分を見つけられるよう、自分でも努力をしています」

――特に印象的だった曲/コラボレーションがあったら教えてください。

「マーク・ジュリアナの “This One Is For You”で歌えたのは、特別な意味を持っていますね。マークは私の夫ですし、〈この曲を君に〉と名付けたのは、私たちの息子であるマーレイのために書かれたものだからなんです」

マーク・ジュリアナの2014年作『My Life Starts Now』収録曲“This One Is for You”。〈Supreme Collection〉にも収められている
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