12月26日(土)に東京・恵比寿LIQUIDROOMにて開催されるOGRE YOU ASSHOLEのワンマン・ライヴ〈OGRE YOU ASSHOLE LIVE LIQUIDROOM〉は、バンドが生まれ変わりつつある姿を目撃できる夜になりそうだ。2013年からスタートし、年末の恒例となりつつあるリキッドでのワンマン。彼らにとっても翌年以降の指針を考える機会となっているようで、2014年作『ペーパークラフト』は、前年の同公演を契機に方向性が浮き彫りになったという。しかも今年は例年以上に特別なライヴとなりそうだ。バンドは、『homely』(2011年)、『100年後』(2012年)、『ペーパークラフト』(2014年)という3部作で、クラウトロックや70年代サイケデリック・ロックを参照しながらバンドを刷新。その期間に深化したパフォーマンスも、ライヴ・アルバム『workshop』(2015年)で音源化された。さらに、バンド活動10周年を記念した7月の東京・赤坂BLITZでのワンマン公演も終え、そのお祝いムードもすでに過去のものとなっている。つまり今回は、さまざまな面において、彼らがこれまでの動きにピリオドを打って以降の初ワンマン・ライヴとなるのだ。これは新しいオウガを期待せずにはいられない。いま、ここ数年でもっとも真っ白な場所にいるというメンバー4人に、同公演へ向けた意気込みを訊いた。

 


 

リキッドでの年末ワンマンは新しいことをやる場所

――OGRE YOU ASSHOLEの恵比寿LIQUIDROOMでの年末ワンマン公演も今年で3回目となります。バンドにとって、このライヴの位置付けは?

出戸学(ギターヴォーカル「最初の2013年はツーマンでもいいかなと思ってたんですよ。でも対バンで誘ったバンドのスケジュールが合わなかったり、時期が迫っていたりで〈もうワンマンにしちゃおう〉みたいな感じでやってみたら、意外と良かったんです。新しいリリースが特にないなかで、ワンマンをやったことがいろいろ考えるきっかけになって、バンドが活性化した。結果、バンドとして年末のワンマンに向けて集中するというサイクルが作れたから、3年続けています」

清水隆史(ベース)「特に決めたわけじゃないんですけど、リキッドのワンマンの前月に高円寺U.F.O.CLUBでのライヴがまるでセットのように入っているんです。リキッドでやろうとすることをU.F.O.CLUBで先にやってみて、実験してきました。特に2年前のこの時期は『100年後』から1年空いていて新曲もないし、バンドとしてもまっさらな感じだった。このワンマンで新しいものを作るという意識は高かったです」

馬渕啓(ギター)「年末のワンマンは、新しいことをやらなきゃいけないと自分たちに課しているから苦労しますよ。今回もそうです。まさにいまがそのど真ん中ですよ(笑)」

2013年12月28日の恵比寿LIQUIDROOMでのライヴ映像

 

――ハハハ(笑)。そもそもLIQUIDROOMには思い入れがあったんですか?

出戸「リキッドはバンドのPAの佐々木(幸生)さんがシステム管理に関わっているそうなんです。きっと佐々木さんにとってはホームであり、いちばんやりやすい場所なんじゃないかな。そういった意味ではバンドの音を最大限にヴィヴィッドに出せるところかなと思います」

――LIQUIDROOMは、新宿にあった時代も含めてロック・シーンだけじゃなくクラブ・カルチャーにとっても重要な場所ですよね。そういう面でもオウガには合っているように思いました。

出戸「でも、そのあたりを詳しく知っていたわけじゃなかったかな」

馬渕「佐々木さんを通して馴染んでいきました。去年の大晦日のカウントダウンでは、メンバーみんなでリキッドでの(石野)卓球さんのDJを観たんですけど、すごく音が良くてびっくりしましたね」

清水「オウガはこの場所でライヴをしたいと念じたり、憧れたりする人たちじゃないんですよ。縁があってやらせてもらったらハマったとか、自然な感じが好きなんじゃないかなと思います」

――『ペーパークラフト』は2013年の年末リキッド公演の打ち上げで話したことが着想元になったそうですね。今年リリースされたライヴ・アルバムの『workshop』も昨年末のリキッドでのワンマンが起点となった面はあるのでしょうか?

清水「ライヴ・アルバムを作ること自体は、ワンマン以前からなんとなくは話していたような」

出戸「『ペーパークラフト』のツアーでちょっとした手応えみたいなものがあったので、ライヴ・アルバムとかどうなのかなという話はしてた。でもそんなの誰にも求められていないんじゃないかなと思ったり(笑)」

一同「ハハハ(笑)」

出戸「いまはライヴ盤なんて誰も買わないでしょ、みたいな話もしました。でもオウガのライヴがスタジオ・アルバムとは全然違うものに仕上がっていたから、その一面を見せたいという欲求が心配よりも勝ったんです」

――『workshop』はライヴの演奏をもとにポスト・プロダクションを大幅に加えた作品でした。

出戸「ライヴハウスで録った音をそのまま聴いても、実際にライヴで体験していた音とどこか違うことってあると思うんです。そこでスタジオで作業し直すことにより、ライヴで聴いていたときの感覚に近付けた。まあ自分たちでは自分たちのライヴを聴いたことがないのでよくわからないんですけど(笑)。『workshop』は(エンジニアの)中村(宗一郎)さんが僕らのライヴで聴いている音に近付けようとして、スタジオで再構築して作ったんです」

――なるほど。中村さんの耳を追体験できる作品だったんですね。では、『workshop』の制作も含め2015年のオウガはみずからにどんなハードルを課していたのでしょうか?

出戸「今年は活動10周年というのが一つありましたね。去年までは『homely』以降の3部作の曲を中心にセットリストを組むという縛りでライヴをやってたんです。まあ縛りというか、そういうモードでライヴをやりたかったというのが近いかな。やっぱり『homely』はその前までのアルバムとは全然質感が違うものだった。そこで古い曲と相性が良くないというのももちろんあるんですけど、変化したことがちょっとした気の迷いと思われるのは良くないなと。このアルバムの質感に近いものを3作は作り続けないと本気だとわかってもらえないと思って、そのモードで制作を続けたんです。『homely』を作ったとき、自分たちでもまだこれがなんなのかわからないところがあったから、自分たちのものにするのにアルバムが3枚は必要だったし、ライヴもそこに絞りたかった。当時はそんなものは求められてないって空気もあったんですけど(笑)」

2011年作『homely』収録曲“フェンスのある家”

 

清水「たぶんしたかったことをしていただけだなんですけどね。〈してほしいこと〉をするより、〈したいこと〉をするほうが正しいというバンドなんです」

出戸「ただ10周年企画でやった7月の赤坂BLITZではその『homely』縛りをなくして、バンドがこの10年にやってきたことをいまの状態でやってみました。いまはアルバム3部作も終わり、区切りの10周年も終わり、全部が終わったという状態(笑)」

一同「ハハハ(笑)!」

出戸「いまはこれからまた新しいことをやらなきゃいけないというモードですね。新しいことをしたいともがいているときです。だから、まだなにがハードルなのかもわからない」

清水「いまはまた違うことをしようとするタイミングなんでしょうね」

出戸「自分たちで1回作った枠組みを外して、もう一度考え直そうというときですね」

――ただ4年間『homely』のモードでライヴを続けてきたことで、オーディエンスのムードには変化があったんじゃないんですか?

出戸「2011年に『homely』のツアー・ファイナルの赤坂BLITZで“ロープ(Long ver.)”をやったんですけど、1200人くらいのお客さん全員がポカーンとして微動だにしなかったんですよ。でもその“ロープ”が10周年の赤坂BLITZではいちばん盛り上がる曲になったんですね。そうなるのに4年間かかったという達成感もあるけれど、逆に4年前にやった“ロープ”みたいに、自分たちは最高だと思っているんだけど、ワンマンに来ているお客さんのほとんどは凍りついてしまうような曲をもう1回作るのは簡単ではないだろうなと思います」

〈TAICOCLUB'12〉での“ロープ(Long ver.)”の演奏

 

――いまのお話を聞いて、“ロープ”が求められすぎている状態もバンドとしてはちょっと抵抗があるのかなと思いました。需要に応えて供給する関係性というか。

出戸「“ロープ”が求められているかはわからないけど、なにかを求められてると感じはじめると、それに甘えていて良いのかって気持ちも出てきますよね」

勝浦隆嗣(ドラムス)「しばらく寝かせてもいいのかもしれません」

出戸「まあ、いままでと違った終わり方のライヴも作れないと、自分たちでも飽きてくる」

――では今年のリキッドで“ロープ”が組み込まれるかどうかも楽しみなポイントですね。

馬渕「必然性があったらやるし、なければやらないという感じ」

出戸「いまはいろいろと試行錯誤しながらもがいている状態ですよ」

――いろいろと新しい試みを目撃できるライヴになりそうですね。

出戸「ある意味、未成熟なものを発表する場になるかもしれません。ただ、自分たちでもまだ掴めていないものをやらないと、きっと新しいことはできないと思うので、そういう挑戦をするライヴになると思います。10周年みたいなエンターテインメント性というか〈ベスト盤〉的な部分――知っている人だから楽しめるみたいなところは少ないかも」

勝浦「新しいことをするのは大変なので、間に合えばいいんですが」

出戸「間に合わなかったらすみません。ベスト盤で(笑)」

――ハハハ(笑)。スリリングですね。

清水「でも自分が他のバンドのライヴを観ているときに、知ってる曲が始まって〈わー、キタ!〉となるのもいいけど、全然知らない曲を聴いて〈うわ、これはすげえ〉と言わされるほうが興奮します。オウガはたぶんそういうことが好きなタイプなんだと思います。いきなり新曲をやって〈これは良い、早く録音してほしい!〉と感じてもらうのが理想ですよね。今回それができるかはわからないですけど」

 

いちばん〈ライヴ感〉があるライヴになると思う

OGRE YOU ASSHOLEは、11月21日に東京・高円寺U.F.O.CLUBで開催されたPhewとのツーマン・ライヴで新曲を初披露。ライヴの1曲目に演奏された、ガラージ・ハウスやダンス・クラシックを彷彿とさせるファットな4つ打ちのリズムが配されたインストゥルメンタルや、裏打ちのギターが印象的なナンバーなど3曲がパフォーマンスされていた。

――U.F.O.CLUBではオーディエンスの反応など、なにがしかの手応えはありましたか?

出戸「手応えあった?」

馬渕「ない」

勝浦「心細さがあったよね(笑)」

馬渕「いつも新曲をやるときはそうですけどね」

――披露された3曲もそれぞれ印象が異なりましたので、どういう方向へ向かうのかは掴めませんでした。

出戸「ジャンルとしてどういう感じになるのかは、アルバム制作の最後のアレンジまで僕らもわからないです。ライヴだと音の質感も含めてコントロールしきれないところもあるから、見えにくい面があるし。しかもこの間はU.F.O.CLUBという空間特有のサイケ要素もさらに入ってきただろうし(笑)」

――なるほど。確かにリキッドの出音で聴くことでより見えてくるものがあるかもしれないですね。ちなみにオウガとしての方向性に関係なく、バンドが最近ハマっている音楽はありますか?

出戸ボハノンアーサー・ラッセルあたり?」

馬渕「アーサー・ラッセルは今年もまたよく聴きましたね。それまでも聴いてはいたんですけど、いろんな年代の彼を聴いてどう変わっていったか改めて考えてました」 

ボハノンの74年作『South African Man』収録曲“South African Man”のパフォーマンス

 

アーサー・ラッセルの2004年のコンピ『The World Of Arthur Russell』収録曲“In The Light Of The Miracle”

 

――新しい曲はU.F.O.CLUBのときよりも多く演奏される予定ですか?

出戸「やろうとはしていますね」

清水「どこまでできるかバンドとしてももがいていてわからない。いまのような時期のステージがある意味いちばんライヴ感があると思います」

出戸「この期間はいましかないと思う。もっと方向性が見えてきたら、1年間くらいはそれで進んでいくから。今回はその前の段階のライヴなんですよ。いつもはアルバムのリリースがあって、そこで新しい方向性を作り上げたうえでライヴの新しい展開を作るんだけど、今回は完全に逆になっています。それが良いか悪いかはわからないけど」

勝浦「もがいていると言っても、ただ溺れてるわけではなくわざと動きを出そうとしてもがいてているので大丈夫ですよ」

――話を伺ってみて、ますますリキッドのワンマンが楽しみになってきました。

馬渕「まだまったく扉は開いてないですけどね(笑)。うっすらと見えてくるような気はしていますが」

勝浦「でも簡単に開いてしまったらすぐ飽きるだろうし」

馬渕「開いた気はしたけど違ったということもある。新しい形になるときは、それがいつから始まったのかは、あとからしかわからないと思うんだよね。なってみて、あのときになんとなく変わりだしたんだなとわかる」

清水「オーディエンスとしても、きっとそんな感じなんだと思います」

出戸「このライヴがターニング・ポイントになるでしょうか」

 

OGRE YOU ASSHOLE LIVE LIQUIDROOM

日時:会場/12月26日(土)東京・恵比寿LIQUIDROOM
開場/開演:18:00/19:00
料金:3,600円(前売)/4,100円(当日)

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INFO:HOT STUFF PROMOTION/Doobie:03-5722-3022
http://www.liquidroom.net/schedule/20151226/26557/