EMPIRE STATE OF MIND
【特集】深化するNYインディー
この街からはいつだってヒップでクールな音楽が聴こえてくる――トレンドの賞味期限は日に日に短くなる一方だけど、それだけはずっと変わらない事実。インディーの首都NY、その最新コレクションを覗いてみよう!
★Pt.1 アニマル・コレクティヴ『Painting With』のインタヴューはこちら
RA RA RIOT
過去との決別、あるいは新しい始まり
今年1月に結成10周年を迎えたラ・ラ・ライオット。彼らの4作目『Need Your Light』の冒頭を飾る先行シングル“Water”は、過去との決別、あるいは新しい始まりを示唆する、こんな清々しい言葉をサビに乗せている。〈僕は裏口から這い出して/服を脱ぎ捨てて/水に飛び込んだ〉――。フロントマンのウェス・マイルズいわく“Water”はアルバムを方向付けた重要な曲であり、彼の別プロジェクト=ディスカヴァリーでの相棒で、バンドの2作目『The Orchard』(2010年)をミックスしたロスタム・バトマングリ(元ヴァンパイア・ウィークエンド)とのコラボ曲だという点においても、特別な意味を持つ。
「これは、僕らがアルバム制作中に抱いた気分を封じ込めている曲なんだ。実験をし、人々がラ・ラ・ライオットから想像するものとは異なる音楽を作る自由をね。曲が自然に導くままに、その可能性を掘り下げるってことさ。ロスタムとの曲作りは、特にどのプロジェクトに使うのか決めずに始めたんだけど、彼は曲の方向性が見えた時点で、ちゃんと完成させてラ・ラ・ライオットの新作に収めるよう促してくれた。つまり、バンドの可能性を信じてくれたんだ。それは凄く嬉しかったよ。人々の予測を裏切り、かつ僕らが楽しめる音楽を作れるはずだと、お墨付きをくれたようなものだからね」(ウェス:以下同)。
こうして突破口を開いたバンドは、ロスタム以外にも過去のコラボレーターたち――ライアン・ハドロック、アンドリュー・モウリー、デニス・ヘリング――を総動員。プロダクションに、ミックスに、ソングライティングに、さまざまな形で協力を仰ぎ、まさに次の10年へ向けた確かな一歩を踏み出している。「作っていて本当に楽しかったし、こんなに笑ったのも初めて」と、制作中のムードも上々だったようだ。思えばヴァイオリニストとチェロ奏者を含むラインナップでデビューした彼らは、初作『The Rhumb Line』(2008年)でポスト・パンクな視点を入れながら、チェンバー・ポップを新たな切り口で提示。多数の新進バンドが個性を競っていたなかで地歩を保ち、ここ日本でも多くのファンを獲得したわけだが、SF的なコンセプトを掲げた前作『Beta Love』(2013年)ではシンセ・サウンドを纏って大胆にイメージを刷新し、聴き手を少々戸惑わせもしたものだ。
「『Beta Love』は非常に困難な過渡的アルバムで怖かったよ。でも僕らは同じような作品を繰り返し作りたくなかった。狭い場所に閉じ込められたくなかったんだ。それにあの時期を乗り越えていたおかげで、この新作に着手した時は物凄く解放された気分だった。だから『Beta Love』は当時のラ・ラ・ライオットの定義を叩き壊すプロセスであり、今回はゼロから立て直す作業を始めたんだよ」。
前作の極端な志向を踏まえ、弦楽器~オーガニック・サウンドとエレクトロニック・サウンドの融合を多彩なアプローチで試みた彼らは、ここへきて改めて絶妙なバランスを確立。しかも音にはエネルギーと解放感が漲り、メロディーは心の琴線を弾きまくり、歌い手としての使命感を新たにしたウェスの声を前面に押し出すことによって、かつてなくアンセミックでポップな曲の数々を完成。また、ウェスがユーモアとペーソスたっぷりに綴った詞も、30代に突入した自身の人生観を映した興味深い内容なのだが、全編に流れるテーマは、事実上の表題曲“I Need Your Light”に凝縮されているという。
「愛することと人生に目的を抱くことに関する曲なんだけど、僕らは日々こういったことと向き合っていて、誰もが目的意識を持ちたいと願い、他者と絆を築きたいと望んでいると思うんだ」。
さらにラストの“Suckers”で、〈必要なのは僕をアゲてくれる一編のメロディー/愛にまつわる思索/それさえあれば大丈夫〉と歌い、このアルバムを締め括る。そこには、試行錯誤を経て大切なものを見極めた人たちの身軽さ、そして、頭脳派の集まりというイメージが強いNYインディ・シーンの隠れたタフネスが透けて見える気がする。