COLUMN

BJ・ザ・シカゴ・キッド、キング―2016年の顔役たちを眺めつつ思う、ネオ・ソウルの変わりゆく変わらなさ

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  • 2016.04.15

BJ THE CHICAGO KID
LAで大きく育ったシカゴからの風――遅れてきたルーキーが放つ渾身のアルバムは、予想以上の深みと広がりを見せつける!!

 

 トリッキーなリズムをラップ調の歌唱で跨ぐ“Man Down”はクリス・ブラウンオーガスト・アルシナのようでもあり、かと思えばPJモートンらを従えたラストの“Turnin' Me Up”は昔のディアンジェロドウェレを連想させるネオ・ソウル作法。共通するのは爽やかな歌唱の纏った粋でソウルフルな身のこなしだ。アルバム全編をその調子でカラフルに聴かせるのはBJ・ザ・シカゴ・キッド。待っている人はずっと待っていたメジャーでのフル・アルバム『In My Mind』がようやく届けられたのだ。

BJ THE CHICAGO KID In My Mind Motown(2016)

 84年に生まれた彼の出身は、その名が示す通りのシカゴである。本名はブライアン・ジェイムズ・スレッジで、クワイアのディレクターを務める両親の元で幼い頃から歌や楽器演奏に取り組んできたそうで、兄のアーロン・スレッジもシンガー/ソングライターとして活躍しているから大した音楽一家ということだ。ゴスペルを吸収する一方で、マーヴィン・ゲイベイビーフェイスルーサー・ヴァンドロス、ディアンジェロなどのクラシックなR&B作品には親の影響もあって親しんできたようで、時代を超えたセンスはそうしたバックグラウンドも手伝ってのものだろう。

 18歳の時に同じシカゴの大物デイヴ・ホリスターのアルバムに参加したBJは、プロの活動を夢みて19歳でLAに移住。バック・コーラスやソングライティングなどの裏方仕事を経験し、その過程ではスティーヴィー・ワンダーマリオクリスティーナ・アギレラミュージック・ソウルチャイルドらの作品にも参加している。並行して自身のアーティスト活動も地道にスタートし、ウォーレンGの“True Star”に抜擢された2009年にはケンドリック・ラマーのEPに参加。以降もフレディ・ギブスジェイ・ロックといった西海岸の新進ラッパーを中心に、レイラ・ハサウェイキンドレッド・ザ・ファミリー・ソウルらと共演しつつ、2012年には初作『Pineapple Now & Laters』を発表。ソウルやゴスペルを核としたオーセンティックな歌唱センスとヒップホップ勢との交流がもたらした時代の空気感を折衷した音楽性が高く評価され、翌年にはレックス・ライダウトがA&Rを務めるモータウンとの契約を獲得したのだった。

 それからけっこうな間が空いたものの、ジル・スコットの“Beautiful Love”を共作した昨年は、ドクター・ドレーに起用されたほか、ダニー・トランペット&ザ・ソーシャル・エクスペリメントジョーイ・バッドアスキャシー・ヴェジーズらの話題作に露出を急増。今年に入ってからは盟友アンダーソン・パックともコラボして、ようやく今回のアルバムに辿り着いたわけだ。

 冒頭で述べた振り幅のみならず、R・ケリーへのオマージュ的な感触でオールド・ソウル作法も見せるなど、その時代感覚はやはり新世代のものだ。ネクスト・ディアンジェロ的な小さい期待をするのではなく、ここからさらに大きくなる存在感に注目していきたい。 *出嶌孝次

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