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NYの文化系女子、フランキー・コスモスが奏でる小さな宇宙―飾らない歌声と落書きのような〈1分間ポップス〉ができるまで

NYの文化系女子、フランキー・コスモスが奏でる小さな宇宙―飾らない歌声と落書きのような〈1分間ポップス〉ができるまで

NYで生まれ育った94年生まれのシンガー・ソングライター、グレタ・クラインによるソロ・プロジェクト、フランキー・コスモスがニュー・アルバム『Next Thing』をリリースした。思春期の多くを自宅で過ごしたナード気質の彼女は、不器用ながらも無垢でキュートな楽曲をインターネット上にアップし続けることで多くの共感を生み出し、音楽メディアのみならずファッション方面でも注目を集めている。待望の日本盤デビューとなった今作は、本国で先行リリースされていたEP『Fit Me In』も丸ごと収録しており、イラストレイターのanccoが手掛けた帯デザインもチャーミングなので、ぜひ現物を手に取ってみてほしい。ミニチュアな楽曲で感情を震わせる彼女の生い立ちと魅力を紐解いていこう。 *Mikiki編集部

FRANKIE COSMOS Next Thing + Fit Me In Bayonet/Pヴァイン(2016)

 

誰かを好きになるのに、時間なんていらない。嘘だと思うなら、いますぐYouTubeに飛んで、フランキー・コスモスの“Birthday Song”という曲を聴いてみてほしい。〈ある年齢になったというだけで、昨日の自分より年を取ったことにはならない〉と歌われる1分9秒のその曲を聴いた瞬間、あなたはきっと恋に落ちてしまうだろう。

 

Photo by 菊地佑樹
 

NYで活動する22歳のシンガー・ソングライター、フランキー・コスモスことグレタ・クライン。そんな彼女の両親が、かつて〈性春〉映画「初体験/リッジモント・ハイ」(82年)で世の青少年たちを虜にし、「グレムリン」(84年)のヒロイン役でお茶の間の人気者になったアイドル女優フィービー・ケイツと、アカデミー受賞経験もある俳優のケヴィン・クラインだというのだから、巡り合わせというのはおもしろい。

グレタの兄、オーウェン・クラインも子役の経験があり、2005年にはウェス・アンダーソン作品の脚本で知られるノア・バームバック監督の映画「イカとクジラ」に出演しているが、実はこの作品に、グレタも出演していたことをご存知だろうか。ジェシー・アイゼンバーグ演じるウォルトが出演する音楽コンテストの予選で、Mr.ミスターが80年代に放ったヒット曲“Kyrie”をアカペラで歌っているのが彼女なのだが、その物怖じしない歌いっぷりを聴く限り、将来はすでに約束されていたと言っていいのかもしれない。

「イカとクジラ」トレイラ―。オーウェン・クラインは次男のフランク・バークマンを演じた。幼きグレタが歌うシーンはこちら
 

10歳の頃から兄の影響で、モルディ・ピーチズに代表されるアンタイ・フォークや、Kレコーズのアーティストを聴いていたというグレタ。以前は〈イングリッド・スーパースター〉という名義で自作曲を演奏していたが、2011年にボーイフレンドのアーロン・メインと知り合ったことをきっかけに、詩人のフランク・オハラに由来する〈フランキー・コスモス〉を名乗るようになり、Bandcampに大量の宅録作品をアップしていくことになる。ほんの数秒で聴き手の心を掴んでしまうフックの効いた楽曲は、まさに3分間ポップスならぬ〈1分間ポップス〉。その数たるや、たった数年でアルバム40枚分にも及んでいたというのだから驚きだ。

モルディ・ピーチズの2001年作『The Moldy Peaches』収録曲“Anyone Else But You”。後に映画「JUNO」(2007年)で起用されて話題となった
 

イングリッド・スーパースター名義での2011年作『Sunrise Over Interpositioned Buildings』
 

そんなグレタの小さな宇宙(コスモス)を広げてくれたのは、アーロンの通っていたNY北部の大学、サニー・パーチェイス・カレッジを中心としたコミュニティー。ジェフリー・ルイスダン・ディーコンウッズのメンバー、つい先日デッド・オーシャンズと契約したミツキことミヤワキ・ミツキを輩出したことでも知られるこのカレッジの学生2人によって設立されたレーベル、ダブル・ダブル・ワミーから2014年にリリースされたのが、フランキー・コスモス初のスタジオ録音作となった『Zentropy』だ。ジャケットに写る愛犬、ジョージョーが亡くなった翌日に書かれた曲を中心としたこのアルバムは、全10曲、トータルでわずか17分という短さながら、その飾らない歌声とメロディーで、多くの人たちに愛されることになる。 

2014年作『Zentropy』収録曲“Art School'”
 
2014年作『Zentropy』。記事冒頭の“Birthday Song”も収録
 

それはちょうど同じ年にマック・デマルコが『Salad Days』で大ブレイクした経緯と、よく似ているのかもしれない。スキッ歯から漏れるような歌声とファニーなキャラクターで、身構えて音楽を聴いていた人たちを骨抜きにしてしまったマック・デマルコ。彼はその翌年にシンセサイザーをフィーチャーしたEP『Another One』をリリースしているが、一方のフランキー・コスモスも、アーロンがプロデュースしたEP『Fit Me In』でシンセと打ち込みを導入し、新境地を開拓しているのだ。

ちなみに、アーロン自身もポーチズというシンセ・ポップ・バンドで活動し、今年2月にドミノから新作『Pool』をリリースしたばかりだが、そこではグレタがベースを弾くなど、お互いに支え合って活動している。2人はインディー・ロック界のベスト・カップルとして、今後も活躍が期待できそうだ。

2015年作『Fit Me In』収録曲“Young”
ポーチズの2016年作『Pool』収録曲“Be Apart”
 

そして早くも届けられたのが、『Fit Me In』に続きビーチ・フォッシルズダスティン・ペイジュールのレーベル=ベイヨネットからのリリースとなるニュー・アルバム『Next Thing』。前作とは一転、アーロンの弟であるデヴィッド・メインや、エスキモー名義で活動する女性シンガー・ソングライターのガブリエル・スミスらが参加したバンド編成で録音された本作には、一人前のミュージシャンとして歩き始めた彼女の戸惑いや苛立ちを反映したという、ちょっぴりパンキッシュなアレンジの曲が増えている。

企業のロゴ入りペンをもらう代わりにインタヴューを引き受け、魂を売ったと嘆く“I'm 20”や、彼女の好きなアーサー・ラッセルの名前を歌い込んだ“Sinister”など。収録曲はどれも3分以下、大半が1分台という簡潔さは変わっておらず、それはアルバムというよりもむしろ、彼女が書いた日記に、メロディーを付けたようなものなのかもしれない。けれどもノートの切れ端の落書きのような彼女の歌から、リスナーは一人の女の子に起きた出来事や感情を想像し、想いを巡らせることができるのだ。

本作がアメリカでリリースされたのは、今年の4月1日。そういえばマック・デマルコの『Salad Days』がリリースされたのも、一昨年のちょうど同じ日だった。次の季節へと向かう人たちの行き先には、一体どんな出会いが待っているのだろう。緊張気味に新学期を迎えるあなたの側に、ペンとノートブック、それからフランキー・コスモスの『Next Thing』がありますように。

 

■2017年1月19日追記
フランキー・コスモスの初来日ツアーが決定!

2017年3月14日(火)  下北沢Basement Bar
共演:Yuki Kikuchiミツメ ☆deejays ほか

2017年3月15日(水) 心斎橋CONPASS
共演:LADY FLASH ほか
出店:HOLIDAY! RECORDS

〈POP CITY〉
2017年3月16日(木) 京都METRO
共演:平賀さち枝、バレーボウイズ ほか

〈SUNSET CITY〉
2017年3月17日(金) 渋谷TSUTAYA O-NEST

共演:後日発表

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