4月10日に開催された〈Hostess Club Presents Sunday Special〉は、〈上質な音楽に浸る特別な日曜日〉をテーマに、トラヴィスベン・ワット&バーナード・バトラージョン・グラントラプスリーの4組が出演。今回はその名のとおり日曜のみの開催で、13時からスタートして20時前には終了するという、〈無理のない〉タイムテーブルのおかげもあってか、和やかな空気が終始漂っていた。

会場となったTOKYO DOME CITY HALLも、〈Hostess Club Weekender〉で使われてきた新木場STUDIO COASTや恵比寿ガーデンホールなどに比べてイス席の数も多く、30代後半~40代半ばくらいのオーディエンスがシートでゆったりと寛ぎながら楽しむ姿も目立った。セットチェンジの時間も30分~50分と余裕があり、そのあいだに物販を買い求めたり、アーティストのサイン会に並んだりと、ライヴ以外の時間も充実。ちなみに、今回も出演者全員がサイン会に応じ、ブースは常に盛況だったという。再入場もOKで、気分転換を兼ねてDOME CITY内のフードコートやアトラクションへ足を伸ばすことができたのも、個人的には嬉しかった。日曜の午後、カジュアルな気持ちで音楽と向き合える〈Sunday Special〉。この新たな試みのイヴェントが、今後も続いていくことを願うばかりだ。

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トップバッターは期待の女性シンガー・ソングライター、ラプスリー。全身黒づくめのサポート・メンバーを従え登場した彼女は、トレードマークのブロンドヘアにロングコート姿で、19歳とはとても思えぬ貫禄たっぷりの存在感を見せつける(ときおり見せる、チャーミングな笑顔とのギャップにも胸キュン!)。アデルサム・スミスブルーノ・マーズあたりを引き合いに出されるように、ハスキーでソウルフルな歌声は音源以上の迫力だ。

楽曲はオーセンティックなソウル・ミュージックを下敷きにしたアレンジだが、各フレーズをエレクトリックな音色に置き換え、無駄を削ぎ落としたシンプルかつミニマルな音像へと〈再構築〉しているのが新鮮だった。そこに、生のベースギターやエレピを滑り込ませた瞬間の生々しさたるや格別。名曲“Operator (He Doesn't Call Me)”はライヴのハイライトとなり、会場からは割れんばかりの拍手が巻き起こった。

 

続いてはジョン・グラントが登場。これまでに3枚のソロアルバムをリリースしてきた、知る人ぞ知るシンガー・ソングライターだ。ヒゲを蓄えた黒シャツ姿の巨体が、大きな笑みを湛えながらステージ袖から登場すると、どよめきと歓声が同時に湧き上がる。

演奏を始める前にサポート・メンバーの紹介から入るところにも、彼の律儀で誠実な人柄が見え隠れしたが、スージー・アンド・ザ・バンシーズのドラマーであるバッジーをはじめとするバンドの演奏力は言わずもがな。壮大かつシアトリカルなシンセ・バラードや、猥雑なコズミック・ディスコを畳み掛けるように演奏していく。まるでオーケストラのコンダクターのように両手を仰ぎ、バンドを操るジョン。デヴィッド・ボウイデヴィッド・シルヴィアンを思わせるバリトン・ヴォイスは、ひたすらセクシーで惚れ惚れするばかりだった。

 

3番手はベン・ワット&バーナード・バトラー。大学時代、ベンのファースト・ソロ・アルバム『North Marine Drive』(83年)をデートのBGMにしてきた筆者にとって、彼は特別な存在だ。無垢で繊細な作りだったあのアルバムに比べ、近年のソロ2作『Hendra』(2014年)と『Fever Dream』(2016年)はいなたく無骨な印象だが、実は骨子の部分はまったく変わっていない。少し鼻にかかったビロードの歌声で、丁寧に紡がれていく極上のメロディーが一瞬にして時を止める。

そんな彼の楽曲に、寄り添いながらときおりハメを外す、バーナード・バトラーのクランチ・ギターもたまらなく心地良い。トレモロアーム、ビブラート、チョーキングなどを巧みに織り交ぜながら、楽しそうにプレイするバーナードと、それをやさしく見守るベン。そんな2人のミュージシャン・シップも見どころの一つだったと言える。終盤には『North Marine Drive』から“Some Things Don't Matter”も披露。ひときわ大きな拍手が起きた。

 

〈Sunday Special〉のトリを飾るのは、今年結成20周年を迎えた〈グラスゴーの良心〉ことトラヴィス。颯爽とステージに現れ、オリジナル・メンバー4人で音を鳴らした途端に会場の熱量が一気に上がる。通算8枚目の最新アルバム『Everything At Once』のツアーは、今回の来日からスタートということもあり、その新作から立て続けに3曲が演奏されると、リリース前であるにもかかわらずフロアは歓喜の渦に包まれた。モータウン・ビートを採り入れた“Selfish Jean”のリズムに合わせ、あちこちでハンドクラップが自然発生的に巻き起こる。ダギー・ペイン(ベース&ヴォーカル)が作曲を手掛けた“Radio Song”は、Aメロをフラン・ヒーリーが歌い、サビの部分でタギーにバトンタッチするデュエット・ソング。その、突き抜けるようなメロディーとともに、心の中のモヤモヤがパァーッと晴れ渡っていくようだ。

新作からのナンバーを中心に、代表曲もバランス良く散りばめたおよそ90分のステージ。アンコールの1曲目に披露されたのは、こちらも新曲の“Magnificent Time”。事前に流れていたフランによる〈振り付け指導〉のヴィデオに倣い、フロアのあちこちで振り付けが始まる。こんなに一体感のある洋楽バンドは、なかなかいない。そこから続けて、マイクを通さず生の歌とアコギで“Flowers In The Window”を演奏。これは以前、マイクのトラブルが発生した時に、咄嗟の判断でおこなったアドリブが恒例化したものだが、ステージと客席の垣根を取っ払い、ファンとともに楽曲を共有しようとするトラヴィスの〈楽曲至上主義〉を、もっとも如実に表すパフォーマンスだった。ちなみに、トラヴィスは今夏の〈フジロック〉出演も決まっており、しかも出演日の7月23日(土)はフランの誕生日。いまから期待は高まるばかりだ。