昨年、ハード・ロック/ヘヴィー・メタルをアコースティックのピアノ・トリオでカヴァーするという、NHORHM名義でのチャレンジングなアルバム『New Heritage Of Real Heavy Metal』を発表し、ジャズ・リスナーのみならずメタル・ファンからも注目を集めたピアニスト、西山瞳。今年CDデビュー10周年を迎えた彼女が、自身のレギュラー・トリオである西山瞳trio "parallax"の3作目にして初のライヴ録音盤『LIVE/Hitomi Nishiyama Trio “parallax”』をリリースした。
【インタヴュー】レインボーやパンテラからBABYMETALまで! 西山瞳率いるピアノ・トリオ、NHORHMがメタル・カヴァーに込めた思いを語る
parallaxのメンバーは西山と坂崎拓也(ベース)、清水勇博(ドラムス)の3人。坂崎はヴェテランから若手まで幅広く支持を集めるベーシストで、昨年発表された宮川純『The Way』ではストレートアヘッドな演奏だけではなく、ヒップホップなどさまざまなビートにフィットした的確なラインをみせていたのが印象的だ。さらに清水も正統派ジャズのドラミングだけではなく、数多くのアーティストのサポートやジャム・バンドのindigo jam unitで変幻自在と言えるグルーヴを叩き出すドラマーである。そんな2人と反応し合い、時にしなやかに、時にパワフルに姿を変える西山のピアノ――このライヴ盤からも窺える、ヒリヒリする空気感がたまらない。
2015年12月22日、23日に西山がホームグラウンドと語る神戸・クレオールで録音された本作。“Heavens Fall”や“Move”といった展開の激しい曲から、“Keys”“Analemma”といったバラードまで、映画のように次々と場面を変えていく彼女の楽曲は、フルカラーにも硬調なモノクロームにも感じられる。そのなかで互いが陰となり、日向となるような息の合わせ方は、まさにレギュラー・トリオならではの阿吽の呼吸だ。
このトリオの最大の魅力は、高度な技術に支えられていながらも、決して技術で戦うバトル音楽ではなく、全員が一つのサウンドに向かっているところ。タイトル通り12個のマイナー・コードで作られた“T.C.T.”や、唯一取り上げているスタンダード“My Favorite Things”での、変拍子を感じさせない、それぞれのビートへの柔軟な解釈をリリカルなピアノ・サウンドでまとめるアレンジは、〈parallax=視差〉というバンド名を体現するかのようだ。さらに、アルバムのラストを飾る“Rainbow Pepper”では、セロニアス・モンク調のトラディショナルなジャズを匂わせるテーマの上で、本作中いちばんのヒートアップを見せている。各人が自由自在に動いても、それぞれのスペースを完全に把握している様は圧倒的だ。
硬派なジャズと思わずに触れられるキャッチーさと、ジャズの醍醐味とも言える濃密なインタープレイの両方が詰まったこのアルバムは、NHORHMから入った新しいリスナーに向けて西山が用意した〈ジャズへの招待状〉に思えてならない。