井上惇志、久松諒、秋元修、根津まなみの4人によって2015年11月に結成されたばかりのshowmore。彼らがライヴ会場限定で販売してきたEP『moonflower』を、6月1日にタワーレコード新宿店で限定リリースする。Mikikiでは、〈シティー・ポップへのジャズ・ミュージシャン側からの回答〉と言うべきサウンドを手掛ける4人組の、記念すべき初インタヴューを前後編に渡って掲載。バンド結成までの歩みとバックグラウンドを掘り下げた前編に引き続き、この後編では、彼らにとってのシティー・ポップ/ジャズへの意識や距離感、EPの制作にまつわるエピソードなどを語ってもらった。 *Mikiki編集部
リズムの訛りは、共通言語として自然に馴染んだ部分だと思う(井上)
――EPの話に入る前に、showmoreのジャズやシティー・ポップにまつわるルーツについてもう少し訊かせてください。前半でUAやEGO-WRAPPIN'、birdの名前が挙がりましたけど、最近はそういうディーヴァ系の歌手はあまり出て来ていないので、そういう意味でも根津さんは貴重なのかなと。
根津まなみ(ヴォーカル/キーボード)「〈アダルト感〉みたいな感覚はバンドとしてのテーマでもあるので、そこはブレずに出していきたいです」
井上惇志(キーボード/ヴォコーダー)「birdは僕も好きだし、10代のイメージじゃなくて、〈夜〉や〈都会〉とか、もう少し落ち着いたイメージは漠然とあるので、そこはシティー・ポップとも重なる部分なのかもしれないですね」
――海外の女性ヴォーカルに関してはどうですか? ロバート・グラスパーにおけるレイラ・ハサウェイ、みたいなところも意識しているように映ったのですが。
根津「もちろん好きですね。ただ、ジャズのヴォーカリストに関しては、勉強として聴いた結果、ちょっと嫌になっちゃったんです。サラ・ボーンとか、往年の〈スキャット上手いです〉みたいな人たちを聴いた結果、あまり好きではないことに気付いて……。ノラ・ジョーンズくらいライトな人のほうが好きです。だから、日本人と外国人だとちょっと好みが違うんですけど、でも抜群に好きなのはタチアナ・パーハ。あそこは超えられなくて、海外のだと彼女の作品ばかり聴いています」
――日本で若い人にも受け入れられるポップスをやろうと考えると、コテコテのジャズ・ヴォーカルよりは、多少ライトなほうが合う気はしますね。秋元くんは、ポップスは全然聴いてないんでしたっけ?
秋元修(ドラムス)「そうですね。でも最近は〈こういうの聴いてみなよ〉と薦められたものを聴くようにしています。SuchmosやSANABAGUN.なんかはわりと同年代で、メンバーに大学の先輩がいたりするし、悔しいじゃないですか(笑)。なので、ちょっと一線を引いていたところもありました」
井上「秋元はホントにジャズの人で、ジェイソン・リンドナーやマーク・ジュリアナ、ティグラン・ハマシアンとかが好きで。ここ2人(井上と秋元)はそういう感じなんですけど、久松は同じジャズでもまたちょっと違うかな」
久松諒(ベース)「僕はジャズというよりも、ベーシストがすごく好きなんです。アドリアン・フェロー、ジェフ・バーリン、マーカス・ミラーとか、その人自体が好きで」
井上「デリック・ホッジやピノ・パラディーノも好き?」
久松「大好きです。そこからグラスパーも大好きになったけど、とにかくベースがラヴすぎるんです(笑)。ベーシストも大好きだし、ベースという楽器も大好きで、とにかくベースに関しては調べに調べまくってすごく詳しくなったんですけど、最近の音楽のトレンドについては、〈はあ……〉みたいな(笑)」
――ハハハ(笑)。秋元くんはさっき名前の挙がったドラマーから影響を受けているわけですよね?
秋元「もちろん、クリス・デイヴだったり、最初に(リズムの)訛りというか、普通の16分音符で割れないような音符を聴いたときは〈すげえ〉ってなりましたね。ネイト・ウッドやマーク・ジュリアナみたいなカチカチ系も好きだし、いわゆるジャズっぽく常に歌ってるようなドラマーも好きです」
井上「グレッグ・ハッチンソンとか?」
秋元「そこらへんですね、あとはケンドリック・スコットとか。そういうのをいろいろ聴くなかで、僕だからできることを投下していきたいです」
井上「showmoreとして最初にアップした動画が“flashback”で、結構現代ジャズ色が濃い曲なんですけど、でもホントに〈Jazz The New Chapter〉の周辺を聴いてる人なら、表層は似てるけど、全然違うってわかると思うんですよね。僕自身はもともとグラスパーのアコースティック作にハマっていて、『In My Element』(2007年)でヤラれて、(収録曲の)“Of Dreams To Come”とかを聴きまくってたんですけど、『Double Booked』(2009年)はアルバム後半を全然聴いてなくて※、『Black Radio』(2012年)もリリース当時はあまり熱心に聴いてなかったんです」
※アルバムの前半はピアノ・トリオ編成、後半がクリス・デイヴなどを交えたエクスペリメントによるヒップホップ色の強い演奏が収録されている
――なるほど。
井上「でも、最近はいわゆるリズムの訛り、J・ディラ的なビートがミュージシャン全体で流行って、それこそbirdの新作『Lush』で冨田ラボさんも実践していたように、もう共通言語としてある程度一般化して、(ジャズ・プレイヤーの)セッションとかでも採り入れるのが普通になっていくなかで、それが自然と馴染んできた感じなんです。“flashback”はコード・ワークもそっち寄りで、リズムを訛らせてる部分もあるけど、ループ的な要素はないし、ヒップホップのビートとはホントは違うんですよね」
――僕が〈こういうのが聴きたかった〉と言ったのは、まさに〈共通言語になった先の音楽〉というイメージを受けたからですね。
井上「最近はああいうリズムの訛りをバンドでも採り入れているのを普通に聴くようになったので、もっと自然な感じで、曲の一要素として使ったつもりだったんですけど、思いのほかグラスパーだJ・ディラだと言われて、ちょっとびっくりしたっていうのが正直なところです(笑)」
――パッと聴いたら流行りものみたいに聴かれてしまう危険性もあるけど、そうじゃないというのは、声を大にして言っておくべきところかもしれないですね。
井上「一方ではヒップホップもすごく好きで、いまラッパーのTKda黒ぶちと一緒に新しく音源を作ってるんです。ヒップホップを聴きはじめたきっかけは、前にも話した山梨のイヴェント※で、stillichimiyaのBigBenさんと一緒に演奏したことで、それからはPONYさんや田中光さんともよくセッションで遊んだり。いまはScarf & the SuspenderSというバンドにも参加して、渋谷のclub asiaで”one more step!!”というヒップホップのイヴェントを定期的にやってます」
※小池直也と企画した、山梨のアーティストと対バンするイヴェント〈火と風〉
次の作品ではすごく変わると思う。だからこそ、いま聴いてほしい(根津)
――今回のEP『moonflower』に収録された3曲は、作った順で言うと“flashback”が最初ですか?
井上「出来上がったのは“flashback”と“highway”が同じくらいです」
――3曲それぞれサウンドの色が違うのは、最初から幅の広さを念頭に置いていたわけですか?
根津「さっきの2曲は井上のコードから作っていて、メロディーと歌詞は後から付けたんです。(もう1曲の)“floor”はもともと私のストック曲で、私が一人で活動しているときはピアノ弾き語りでしっとりとした雰囲気でやっているので、ダンス・チューンとかひねくれた曲はあんまりできないんですよ。でもいい曲だとは思っていたので、showmoreをやるとなったときに〈この曲をやるしかない〉と思って。だから、どこから作ったかで結構違うと思います」
井上「“flashback”と“highway”に関しては、〈こういうリズムとコード・ワークでやりたい〉というのがまずあって、メロディーを相談して、タイトルや世界観は根津に任せて、歌詞も作ってもらった感じです」
根津「なので、あえて幅を広くしたというよりは、持ち寄った結果がこれだったという感じです。いまはライヴだとさらにレンジが広がっていて、それこそヒップホップっぽい曲やプログレっぽい曲とか、意図したわけではないんですけど、かなり広くなっています」
――“highway”はもともとどういうイメージだったんですか?
井上「最初の4コードのループが出来たときに、疾走感がある高速のイメージだったので、あんまりコードは大きく動かさず、ループのドラムンベースっぽい曲を作ろうと思って。それで根津と相談して、サビはもう少しポップなコードに変えたんですけど、これはそんなにアレンジには困らなかったかな」
秋元「ちょうど1年くらい前にドラムンベースにすごくハマっていて、ジャズ界でもマーク・ジュリアナとか、カチカチ系のが流行っていたので、結構すんなりできました。個人的には、サビの前のブレイクで、まったく関係ないフレーズをぶち込んでるのが大好きです(笑)」
井上「そうそう。スタジオで、〈サビに入る前に変なことやって〉と言ったら叩いてくれて(笑)」
秋元「“flashback”に関しては、セクションのなかでドラム・パターンが細かく変化していく、展開の移り変わりがポイントですかね」
――“flashback”はベース・ソロもポイントですよね。
久松「ポップスでベース・ソロって普通はないじゃないですか? 僕は大好きなんですけど、バランス的にはいまだに〈どうなんだろう?〉と思ってます(笑)」
――いや、一番の聴かせどころでしょう(笑)。
久松「たださっきも言ったように、僕はベースのことは大好きなんですけど、録音のことは無知で、機材も全部スタジオで借りたやつなので、サウンドはもっとちゃんと考えれば良かったなと正直思ってるんです」
――録音に関しては、わりとシンプルにまとめられている印象でした。
根津「私にとって、今回のEPは〈ファースト・デモ〉という位置付けなんです。もっと時間をかけて、いろいろ重ねたりすればサウンドも全然変わると思うんですけど、今回この形で出そうと思ったのは、デモというのを意識したのが大きいですね」
――そもそもが最初の自主企画用の音源だったわけですもんね。どんな環境で録ったんですか?
根津「マスタリングまでできるスタジオを借りて、ベースとドラムは4時間くらいでバッと録って、ヴォーカルも1日で録りました」
井上「お金も時間もそんなにかけず、実質1~2日で仕上げた感じですね」
根津「なので、また次に作るとなったらサウンドはすごく変わると思います。だからこそ、いま聴いてほしいとも思うんですよね。〈ここからスタートした〉というのは長い目で見たときにすごく重要で、私が好きなアーティストのなかでも、結局最初(の作品)が一番好きっていう人が多かったりする。〈いま、ここに辿り着いたけど、もともとはここから始まってて、私はその出発点が好きだった〉みたいなことがよくあるので、そういう意味でも今回のEPはぜひ聴いてほしいです」
ジャズを下敷きにしつつも、ジャズとして扱われたくはない(井上)
――今後のバンドの展望はどのように考えていますか?
井上「まずは今回のEPをいろんな人に聴いてもらいたくて、今年3月に一度自主企画の2マン・ライヴをやったんですけど、それをまた8月に開催する予定です。まだ公開してませんが、もう対バンも決まってます」
根津「話題性が尽きないようにできたらと思っていて、夏はプロモーションで動けるだけ動いて、いっぱいライヴもして、地力をつけたうえで、次に企画をやるときには話題をさらえるようになっていたいなと思います」
井上「ちなみに、曲を聴いて誰か(他のアーティストと)近いと思ったりしました? ポップな要素と、音楽的な要素の割合みたいな意味で」
――前編でも名前が挙がったCICADAだったり、あとはCRCK/LCKSですかね。
井上「ああ、CRCK/LCKSはちょうど昨日(取材日の前日)タワレコでCDを買って聴きました。1回対バンしたんですけど、すごかったですね」
根津「そういう意味では、いまがいいタイミングだなと思っていて。ホントにいいものというか、技術もあって格好良いバンドが増えてるので、高め合っていけるところに自分たちもちゃんといられたらいいなと思います。格好良いバンドたちと対等でありたいというのは意識しますね」
井上「あと、ジャズを下敷きにしつつも、ジャズとして扱われたくはないなと思ってるんです。もちろん、みんなこれまで真摯にジャズをやってきたので、そこを隠したり、否定はしないですけど、そこを押し出すというよりは、あくまで要素としてそういう部分があって、でもいまはこういう音楽を鳴らしてるんですっていう、曲そのもので捉えてほしいと思いますね」
LIVE SCHEDULE
「showmore x CANADA」
5月29日(日)札幌JAMUSICA
共演:CANADA
「Fabric #38」
6月8日(水)東京・新宿MARZ
共演:TAMTAM/Srv.Vinci/サムワイズ
showmore presents「newscope #2」
8月23日(日) 東京・代官山LOOP
共演:TBA(後日発表)
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