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【NEW URBANe POP】Vol.12 D.A.N.ロング・インタヴュー:ジェイミーXXを横目に新たなポップの地平を切り拓く若者たち

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  • 2015.09.09

 

こちらのブログでも急遽レポートすることになった今年5月の〈NEWWW〉での衝撃のライヴを経て、待望の初音源『EP』が口コミで〈届けたいところ〉を基点に広がり、今夏の〈FUJI ROCK FESTIVAL〉の新人登竜門ステージ〈ROOKIE A GO-GO〉でのパフォーマンスをもっていよいよその存在が無視できないものになってきてた最注目の3ピース・バンド、D.A.N.。たとえばディアンジェロが牽引する最先端のブラック・ミュージックのモードを遠景に、シティー・ポップの拡大再生産を推し進めながら醸造される、いまの日本のインディー・ポップが幅広いレンジで備えるアーバンなムード。けれどD.A.N.の新しさはそういった文脈では捉えきれないとも感じていて、そのあたりの秘密を本人たちに確かめるべく話を訊いた。

D.A.N.の自主レーベル、Super Shy Without Beerと共同で『EP』をリリース、というか実質的にはメインでバックアップしたBAYON PRODUCTIONの北澤学氏(Yogee New Wavesnever young beachを発掘したROMANのオーナー)に案内されて喫煙所に向かうと、櫻木大悟(ギター/ヴォーカル/シンセ)と市川仁也(ベース)がマシュー・ハーバートの昔のアルバムをスマートフォンから流しながら「これカッコいいよ」と盛り上がっている。そこに入ってきた川上輝(ドラムス)も談笑に加わり、今度はハーバート名義のジャジーな2001年作『Bodily Functions』を再生しながら「ヤバいじゃん」と続けた。現在21歳の彼らが7歳の頃に発表されたこの名盤(とハーバート本人)に関する北澤からの講義が終わったところで、台風11号の到来を予感させる暗雲の下で取材はスタートした。

 


 

 

【〈生きてる〉って感じを出したい】

――みなさんはいま学生ですか?

桜木「みんな学生です」

――3人とも東京生まれなんですよね。幼馴染み?

桜木「僕がずっと東京で、ここ2人(桜木と市川)が幼馴染みですね」

――なるほど。いまの3人編成になったのが2014年の8月ということですが、それ以前はどんな活動をしていたんですか?

川上「D.A.N.はもともと6人編成だったんですが、いろいろあった末にこの3人でやるのがベストだなという結論に落ち着きました」

――その頃はいまと音楽性が違ったんですか?


川上「メンバーが多かったから音圧もあって、もっとロック寄りでしたね」

――楽器の編成は?

川上「ギター2人、ドラムも2人で……」

市川「ベースにキーボード/シンセ」

桜木「キーボードはジャズをやっていた人だったから、音的にも無茶苦茶だった(笑)」

――ジャズ系のメンバーがいたってことはジャガ・ジャジストみたいな感じ?

桜木「あぁ~近いかもしれないですね。でもそんなにカッコいいものでもなかったけど」

――そこから現在の3人編成になるきっかけは何かあったんですか?

川上「きっかけは、6人でバンドをやっていくなかで息が詰まる感覚があって〈このままでいいのかな?〉と思いはじめて。僕以外のメンバーはほとんどが幼馴染みだったんですが、〈この編成でやる意味はあるのか?〉という疑念が強くなっていったんです。だからその気持ちを正直にみんなに伝えました。みんな同じようなことを考えていましたね」

桜木「〈友達だから〉とか、情が介入したまま続けちゃっているところがあった。本当に良いものを作ろうとしたときに、そういう部分は切り離さなきゃいけないと考えたんです。それをみんなに話したら、結局この3人が残って……」

市川「お互いリスペクトできて、ぞれぞれの個性がぶつかりあえる感じがした」

桜木「バランスが良かったよね」

――ということは、その時点で〈音楽で食べていく〉という決意があったのでしょうか?

川上「そうですね。だからこその決断というか」

――大きな決断を経てベスト・メンバーによる3ピースが誕生したと。ではそんな現在の編成での曲作りはどんなふうに行われているのでしょうか?

川上「まず彼(桜木)がふわっとしたイメージとフレーズをデモで作ってきて、それを僕たちが聴いてイメージを共有します。そのデモに対してそれぞれが〈俺はこうしたい〉というアプローチをぶつけながら、いろんなパターンを何回もスタジオで合わせ続ける。みんなが向いている方向を同じ方向に合わせていく、といった感じでしょうか」

――バンドの資料には、XXのほか、ポーティスヘッドマッシヴ・アタックといったトリップ・ホップのアーティストの名前も影響源として挙がっていて、実際のD.A.N.の音を聴いてもかなりUK寄りのサウンドだなと思ったのですが、そのなかで意外だったのがテイラー・マクファーリンで。彼のどのあたりがひっかかったんですか?

桜木「幻想的な音というか、トロける感じがすごく好きですね」

川上「僕が初めて聴いたとき、電車のなかで〈そういえばテイラー・マクファーリンのアルバム聴いてなかったな〉と思ってパッと聴いたら、イントロが流れてバスドラの音がじわじわと入ってきてシンセが来た瞬間〈おおぉ……〉って。彼の音からすごく影響を受けていると思います。本当に〈心地いい/気持ちいい〉部分だけをずっと突いてくる感覚」

【参考音源】テイラー・マクファーリンの2014作『Early Riser』の冒頭を飾る“Postpartum”

 

――ということは、テイラー・マクファーリンの音楽をジャンルや文脈というより、単純に音だけで捉えてハマったという感じ?

川上「そうですね」

――たとえばテイラー・マクファーリンを輩出したブレインフィーダーの周辺とか、もしくはロバート・グラスパーに代表されるようなジャズの新しい流れはどう捉えていますか?

川上「でもテイラーだけそのなかでちょっと違う感じがしない?」

桜木「うん。だからおもしろいと思ったんだよね」

市川「いわゆるいまのジャズのそういう流れとも少し違うところがあると思います。ユニークですよね」

川上「ジャズとエレクトロニクスの……クラブ・ミュージック的なバランス感覚というか、最高の音の組み合わせ。〈やってくれたなあ〉と思いました」

市川「(テイラーの父である)ボビー・マクファーリン譲りのユニークさというか、音使いだったりリズムを隙間に入れてくる感じとか」

桜木「センスの塊だよね、あの人は。感覚的に作っている感じがする」

川上「それがすごく響いた」

桜木「ロバート・グラスパーもカッコいいけど」

川上「テイラー・マクファーリンの方が入りやすい感覚があるんだよね」

――テイラー・マクファーリンの捉え方もそうですが、みなさんが同じ感覚で聴いているのがおもしろいですね。ではフライング・ロータスの周辺はどうですか?

川上「僕はそこまでハマってないんですよね。サンダーキャットも〈おもしろいな〉とは思うけど、常に聴きたいという感じじゃない。勉強、みたいな(笑)」

桜木「チェックはしますけどね」

市川「でもサンダーキャットの新譜はすごく良さそう。YouTubeにアップされてた曲(“Them Changes”)しか聴いてないけど」

【参考動画】サンダーキャット “Them Changes”

 

――訊きたかったのが、D.A.N.が楽曲のリズムを構築するときにベースとなる感覚って、ロックというよりクラブ・ミュージック的な感覚が強いのかなって。

川上「どうだろう……新しい感覚でやってるのかな?」

一同「う~ん……」

――例えばD.A.N,の曲に四つ打ちのキックが入っていたとしても、いわゆる邦楽ロックに見られるダンス・ロックとはまったく違うじゃないですか。それって根っこがダンス・ミュージックにあるからなのかなと思ったのですが。

市川「クラブってよりは、ダンス・ミュージック……踊れたり自然に身体が動いちゃうようなリズムは意識していると思います。ファンクだったり、広い意味でのダンス・ミュージックというか」

桜木「〈踊る〉ってめっちゃ普遍的なことだからね」

――広い意味での〈ダンス・ミュージック〉は意識して作っているかも、ということ?

川上「自分たちが好きなアーティストや曲の間を、カブらないように絶妙に縫っていくような感覚だと思います。同じことはしたくないって意識もあるし」

桜木「でも僕は最近クラブ・ミュージックが好きですね」

川上「かなり好きだね」

――ここまで話を聞いていて思ったんですが、みなさんクリエイターとして、バンドじゃなくてPCを使ってエレクトロニック・ミュージックを作っていても不自然じゃなかったんじゃないかと感じたんです。でも音楽のアウトプットとしてあえてバンドを選んだのはなぜだろうと。

川上「生でやる意味が大きいからだと思います。打ち込みだと、機械の音しか出せないし」

桜木「結局は(打ち込みだと)感動しない……かも」

川上「人間が叩くことによって出るグルーヴは残したい。そのうえで自分たちが好きなクラブ・ミュージックのような音楽をやるならどうなるんだろう?って部分で、いろんな試行錯誤をしていまの形になってるのかな」

桜木「電子音楽って、快楽はすごく簡単に作れるけど、そこから感動は生まれないと思っていて。濃い体験だったり、いい映画を観た後の圧倒される感覚とか、そういう感動は僕はクラブに行ってもあまり感じたことがなくて。ただただ踊って気持ち良かったって感覚だけな気がする。でも僕らは〈感動〉を作りたい」

川上「ひとつひとつのライヴで違うものを見せられるのは、やっぱり生でやっている人たちなのかなと思います」

市川「〈生きてる〉って感じを出したいですね」

川上「そういう意味ではテイラー・マクファーリンは、打ち込みの上に生音を乗せているのが本当に良くて。それって自分たちがやりたい感じに近いし、〈わかってるね!〉って(笑)」

――いまのお話で、資料で好きなアーティストにブックスを挙げていた理由が納得できました。ブックスって、生音をうまく使うけどエレクトロニクスの混ぜ方も上手くて……。

【参考動画】ブックスの2005年作『Lost And Safe』収録曲“Smells Like Content”

 

桜木「そうそう……それです!  ブックスはめっちゃ好きです……うわ、そこだわあ(笑)。僕いますごくハッとしました(笑)」

――最初に資料を見たときは、ブックスが挙げられている理由がいまいちわからなかったんです。でもこの話の流れですごく理解できた。


桜木「たしかに。僕もわかってなかったかも(笑)。ただただ好きなだけだと思ってた」

市川「D.A.N.がサンプリングを使うのはブックスから来ている部分もあると思いますし」

――あと気になったのは、宇多田ヒカルさんの名前を挙げているじゃないですか。J-Popという狭い括りじゃなくて、自分たちの音楽は広い意味でのポップ・ミュージックのなかに括られると思いますか?

川上「それは……〈ご自由に〉って感じかな。でもメロディーはキャッチーな方が好きですね」

桜木「普遍的なものが気持ち良いというか……普遍性としてのポップだったり、みんなが持っている共感覚は持っていたいですね」

川上「自然に出てきたものがいいよね。無理に〈ここの言葉やメロディーはこうしたほうがいい〉とか加工し過ぎる感じは違うと思う」

桜木「雑味や不純物がない感じ。そういうピュアな音楽を作れたらいいなと思っています」


【最近良かった音楽】

――最近、みなさんと同じくらいの世代の若いアーティストに話を訊く機会が多くて、そのなかで80年代や90年代の音楽を彼らなりの感性で再解釈したうえで、新たなポップ・ミュージックを作っていくという流れがひとつあると思うんです。でもD.A.N.ってそことは別のラインから来てる感じが面白くて。80年代や90年代の音楽にかぎらず、昔の音楽って掘りますか?

市川「〈掘りますね。でも感覚的に〈昔の音楽〉という捉え方では聴いてないかも」

桜木「〈80年代〉とか〈90年代〉というラベルを通しては聴いてない。ただのグッド・ミュージックとしてしか捉えていないと思います」

川上「どんなジャンルであれ、良いものだけ聴いていく感覚というか」

市川「フィルターもなしにオタクみたいな感覚で〈これカッコいい!〉って言いながら聴いているだけですね」

――最近良かった音楽ってありますか?


桜木ジ・インターネットの新譜(『Ego Death』)がめちゃくちゃ良かったですね」

【参考動画】ジ・インターネットの2015年作『Ego Death』収録曲“Girl”

 

――最近の作品だ(笑)。

川上「テイラー・マクファーリンも良かったし(笑)」

桜木「最近知ったんですけど、リカルド・ヴィラロボスは面白いですね。DJでも、1時間半で一山がくるって考え方がなかったので」

川上「ヤバいよね」

【参考動画】リカルド・ヴィラロボスの〈TAICOCLUB '13 〉でのDJ

 

――クラブは普段から行くんですか?

桜木「行きます」

――テクノ系が多い?

桜木「ハウスがめっちゃ好きですね。〈HOUSE OF LIQUID〉(※LIQUIDROOMの看板パーティー)は毎回行きたいって思っていました」

――最近良かったDJとかいます?

桜木「こないだ来日してたアフリカン・サイエンスはすごい良かった」

【参考音源】アフリカン・サイエンスの2014年作『Circuitous』収録曲“Evolved In Twists”

 

市川「代官山UNITに観に行って。あれは良かったですね。日本人にはない黒いグルーヴがあった」

桜木「あと、ジェイミーXXはほんとカッコいい。ぼくはXXよりもジェイミーのソロの方が好きですね」

【参考動画】ジェイミーXXの2015年作『In Colour』収録曲“Gosh”

 

――僕も〈NEWWW〉のレポートに書いたんですが、D.A.N.にはXXよりジェイミーXXを感じていて。

一同「あざーす!」

――(笑)。それを日本語でやるか!っていう驚き。

市川「でも僕がいまの3人になって曲を作っているとき、XXの名前は知ってたけど聴いたことがなくて」

――えー! それは意外です。

市川「実際に聴いたのは3人で曲を作って、ライヴをやるようになってから〈XXっぽいね〉と言われることが多くなって」

川上「曲を作って北澤さんに渡したら〈XXっぽいね〉って」

――知らずにこの音を作ってたのは衝撃です……。

川上「友達にも言われて、聴いてみたら〈あーいいじゃん〉って感じでした」

桜木「友達と夜ドライブしてるときに初めて聴いたんだよな。あれはめっちゃ良かった」

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