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KIRINJI『ネオ』好調の理由は〈切断〉にあり? ヴィヴィッドな色彩感に満ちたニュー・アルバムから新しいバンド像に迫る

KIRINJI『ネオ』好調の理由は〈切断〉にあり? ヴィヴィッドな色彩感に満ちたニュー・アルバムから新しいバンド像に迫る

KIRINJIのニュー・アルバム『ネオ』が大好評だ。SNSを見渡せばコアなファン以外からも絶賛されている様子が窺えるし、8月15日付のオリコン週間チャートでは初登場11位を記録するなど、セールス面でも成功を収めている。ここ最近はサニーデイ・サービス『DANCE TO YOU』や坂本慎太郎『できれば愛を』、石野卓球『LUNATIQUE』などヴェテランの新作が話題を集めているが、そのなかでもひときわチャレンジングな内容に仕上がっていることも、ヒットに結び付いた要因だろう。

先日アップしたKIRINJI×シャムキャッツの鼎談記事のなかで、リーダーの堀込高樹は〈最近の音楽に混じっても強度を発揮できるようなものにしたかった〉と語っているが、6人編成となって2作目となる今回のアルバムでKIRINJIはどのような変化を遂げたのだろうか。音楽評論家の高橋健太郎氏が、その魅力と新しいバンド像に迫った。 *Mikiki編集部

★KIRINJI × シャムキャッツ鼎談記事はこちら
★KIRINJI『ネオ』インタヴューはこちら
★KIRINJI『EXTRA 11』高橋健太郎氏によるコラムはこちら

KIRINJI ネオ ユニバーサル(2016)

きっぱり過去と切断されたKIRINJI像を提示

堀込泰行とのデュオを解消した堀込高樹が、楠均(ドラムス)、千ヶ崎学(ベース)、田村玄一(スティール・ギター)、コトリンゴ(キーボード)、弓木英梨乃(ギター)をメンバーに引き入れて、アルファベット表記となったKIRINJIを結成してから約3年。2014年のアルバム『11』、昨年発表の『EXTRA11』に続く、3作目のアルバムとして先頃発表されたのが『ネオ』だ。『EXTRA11』はライヴ録音された素材をもとに『11』の曲を再演した内容だったので、オリジナル・アルバムとしては2作目と数えて良いだろう。

アルバムの発表に合わせて、すでに各所でKIRINJIのインタヴューが掲載されているが、このレヴュー記事を早くから引き受けていた僕は、それらを一切読まないようにしてきた。アーティスト自身の声に影響されることなく、レヴューを書きたかったからだ。レーベル資料なども目にしていないので、以下の記事は純粋に音だけから引き出されたレヴューと考えてもらいたい。

10曲のサウンド・ファイルを受け取った時点では、アルバム・タイトルは伝えられていなかったので、僕は勝手に『12』というタイトルを付けて、プレイヤー・ソフトに放り込んでいた。しかし、決定した今作のタイトルは『ネオ』。ジャケットのアートワークもテクノ・アーティストかと見紛うようなものだったりする。10曲を繰り返し聴くうちに、〈切断〉という言葉を思い浮べていた僕には、そのタイトルやアートワークはなるほどと頷けるものだった。

この〈切断〉には複数の意味があるが、一つはキリンジ〜KIRINJIの過去との切断だ。『11』が旧キリンジ時代からの通算アルバム数に由来するタイトルだったのとは、まさに対照的。『ネオ』は過去の財産と切断を計ったアルバムという感触がある。もちろん、メンバー・チェンジ後のアルバムだった『11』のほうが変化の幅は大きいのだが、そこでは過去のキリンジとの連続性も多分に意識されていた。冒頭を飾る“進水式”が新しい船出を宣言しつつも、まさにキリンジ的な楽曲の王道パターンだったことは象徴的だ。

2014年作『11』収録曲“進水式”
 

対して、『ネオ』は『11』と同じ布陣での制作ながら、このメンバーで何ができるかをゼロベースで考えなおしたアルバムのように思われる。RHYMESTERをフィーチャーした冒頭のジャズ・ファンク・チューン“The Great Journey”を何の予備知識もなく聴いて、KIRINJIの新曲だと思う人がどれだけいるだろうか? 

そこでのKIRINJI は、あたかも70年代のティン・パン・アレー(あるいは、そのお手本となったフィラデルフィアのMFSBやマッスルショールズのスワンパーズ)を連想させるようなリズム・セクションとして機能している。あるいは、レゲエっぽい“失踪”やソカ風の“絶対に晴れて欲しい日”なども、千ヶ崎学のベースを中心にしたダンサブルなリズム・セクションが前面化する曲だ。なるほど、このメンバーならば、こういう展開もアリ。と思いつつも、ここまできっぱり過去と切断されたKIRINJI像が提示されるとは、快い驚きだった。

レトロスペクティヴな悦びを断ち切り、2016年的な音と言葉を獲得

加えて、もっと深いレイヤーでも〈切断〉を孕んでいるのが、この『ネオ』のようである。すべての曲で徹底されているのは、どんな瞬間にも特定の時代感を意識させないことだ。堀込高樹のソングライティングが70〜80年代のアメリカン・ミュージックに多くを負っているのは本作でも変わらないはずだが、各曲はそれも最小限にしか感じさせない。これは影響を受けた音楽から抽出された理論や技法を使うだけに留め、サウンド・プロダクションとは完全に切り離しているからだろう。

例えば、とあるコード進行ととある楽器音色を結び付けると、特定の時代感がジャストに生成される。そこにリファレンスを求めることは、快感原則を外さないし、音楽マニアの共感を呼ぶ材料にもなる。だが、KIRINJIはそうしたレトロスペクティヴな悦びはもはや断ち切ったのだ。とりわけ、コトリンゴのキーボード〜シンセサイザーの自由かつ繊細な音色作りに、それが表れている。田村玄一のスティール・ギターやスティール・パン、バンジョーなども、ここではとても未来的に響く。強いて言えば、2016年的としか言えないヴィヴィッドなサウンドの色彩感。それが『ネオ』にはある。

前作同様、堀込高樹以外がリード・ヴォーカルを取る曲も多く、“Mr. BOOGIEMAN”“あの娘のバースデイ”では弓木英梨乃が、“恋の気配”ではコトリンゴが、“失踪”では千ヶ崎学が初めてリード・ヴォーカルとしてフィーチャーされている。コトリンゴ作曲の“日々是観光”は、堀込高樹+コトリンゴのデュエット。楽器音色と同様にどのヴォーカルも繊細に練り上げられていて、とりわけ、コトリンゴの半ファルセットは新境地と言いたくなる美しさだ。

ポップな完成度が極限まで追い求められているが故に、バンドらしいライヴ感、演奏のオーガニックな肌合いなどがこぼれ落ちる隙間はほとんどない。ただ、不思議なことにタイトなサウンドの中から言葉はよく抜けてくるし、そこにはかつてない和風のフォーキーさが漂っていたりもする。堀込高樹の歌う“fake it”や“ネンネコ”にそれは顕著だ。歌のために書かれた言葉というよりも、いまの日本の現実のなかに置かれた言葉。そんなニュアンスを感じたのも、“絶対に晴れて欲しい日”のなかに現れる〈それ、個別的自衛権で対応できるでしょう〉の一節のせいだけではないだろう。あるいは、言葉においても、堀込高樹はある種の〈切断〉に成功したのかもしれない。

鉢植えの樹木を植え替えする時には、絡んだ根をほぐして、切り込んだうえで新しい鉢に移す。見た目はほとんど変わらないのだが、樹木は新しい活力に満ちる。『ネオ』のKIRINJIはそんな姿を見せてくれているようでもある。音楽の可能性はまだまだこれからさ。アルバムを聴くほどに、僕はそう信じられるし、そう信じさせてくれるバンドを頼もしく思う。


KIRINJI TOUR 2016
9月22日(木・祝)石川・金沢 AZ
9月23日(金)京都・磔磔
9月25日(日)宮城・仙台 CLUB JUNK BOX
9月28日(水)東京・Zepp Tokyo
10月1日(土)北海道・札幌 PENNY LANE 24
10月8日(土)鹿児島 CAPARVO HALL
10月10日(月・祝)福岡 イムズホール
10月15日(土)愛媛・松山 WstudioRED
10月16日(日)岡山 CRAZYMAMA KINGDOM
10月26日(水)愛知・名古屋ダイアモンドホール
10月27日(木)大阪・なんば Hatch
10月30日(日)、31日(月)東京・品川 ステラボール
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