意表を突くコラボを予告編として届けられたニュー・アルバム。チームワークを高める6人を乗せた旗艦、その進む先に待ち受けていた〈ネオ〉な景色とは!?

 

遠慮がなくなった

 2013年、堀込高樹(ヴォーカル/ギター)を中心とする6人組のバンドとして新たな船出を飾ったKIRINJI。新体制での初アルバム『11』(2014年)のリリースと前後してライヴ活動も盛んになってきた彼らは、ステージを重ねるごとにアンサンブルを濃密なものへと進化させていった。

 「リハでも、僕と関係ないところで物事が決まったりすることが発生しだしてて。メンバー間でそういうやりとりをしているのが良いなと」(堀込高樹)。

 「まあ、遠慮がなくなったってことでしょうね(笑)」(千ヶ崎学、ベース/シンセ・ベース/ヴォーカル)。

 「僕の場合は特に、その場にどれだけ馴染めるかが大きくて。いままでもメンバーとしてしっくりきてると思ってたけど、それでもまだ自分のプレイがKIRINJIという器のなかに浸透しきれてなかった。だけど新しいアルバムの制作前後から、ジェルのようにすーっと染み渡ってきてるように感じて。あれ、まだ転校生だったんだ?って」(楠均、ドラムス/パーカッション)。

KIRINJI ネオ ユニバーサル(2016)

 そうして完成した2年ぶりのアルバム『ネオ』は、いままでの〈KIRINJI〉でも、もちろんかつての〈キリンジ〉でもない、文字通り〈最新型KIRINJI〉の姿を見せつける意欲的な作品だ。何と言っても驚きは、冒頭を飾る“The Great Journey”だろう。ベースラインが激しく躍動するアフロ・ファンクなこの曲には、RHYMESTER宇多丸Mummy-Dが客演。もともとは昨年末のライヴに合わせて作られた新曲だったが、その時点ではラップをフィーチャーする曲になるとは考えられていなかった。

 「最初は僕がイジられながら必死に弾いてるっていう曲だったんですよね」(千ヶ崎)。

 「千ヶ崎くんのことをネタにした、“港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ”みたいな語りを入れようと思って。それで、学のベースで〈manabass!〉と女子メンバーがコールしてね。それはそれでカワイイし、おもしろいけど、カッコイイ曲なので、この子の可能性を伸ばしてあげたいなと(笑)」(堀込)。

 RHYMESTERとのやりとりで作られていったリリックは、ラブホの空室を求めて繁華街を彷徨うアダムとイヴの姿と、母なる大地アフリカを起源とする人類の営みの歴史をクロスオヴァーさせた、壮大かつナンセンスなテーマ設定からして最高だ。

 「リズム録りの時はほぼインストだったわけだから、ここまで変貌していったっていうのはおもしろかったですよね」(千ヶ崎)。

 「アイデアを重ねたものが送られてくるたび、こんな感じになるのか!って。コラボレーションって、こんなに上手くいくものなんだなって。驚愕しました(笑)」(楠)。

 「以前はヴォーカル中心に歌メロを聴かせるというか、ハーモニーやコード進行も含めた〈楽曲としての完成度〉がいちばん大事みたいな感覚はあったけど、“The Great Journey”やカリブっぽいリズムになった“絶対に晴れて欲しい日”のように、バンド演奏の作るグルーヴだけで曲のウリにできてるっていうのは、いままでの自分たちにはあまりなかった。それはけっこう大きな変化かも」(堀込)。

 

バンドっぽいバランス

 今作では堀込高樹が歌う曲以外に、コトリンゴ(ピアノ/キーボード/ヴォーカル)と弓木英梨乃(ギター/ヴァイオリン/ヴォーカル)がリード・ヴォーカルを務めたナンバーをそれぞれ2曲収録。また、千ヶ崎も堀込とのツイン・ヴォーカルという形で歌声を披露している。前作のメンバー歌唱曲は、誰が歌うかを想定しないで作られたものだったというが、今作は歌う人をあらかじめイメージしてあつらえた〈当て書き〉の楽曲が用意された。例えば弓木が歌う2曲については。

 「ディスコっぽい“Mr. BOOGIEMAN”は、自分が歌うより華やかになるだろうと思ったので、弓木さんの可愛らしい声に似合うように歌詞を磨いていって。もうひとつの“あの娘のバースデイ”は、彼女の歌声にある少年のような感じをイメージして作った曲。弓木さんにしてもコトリさんにしても、単に声質が違うってだけじゃなく、パーソナリティーの違いみたいなものが伝わったほうが、特にポップスの世界では良いと思うんです。歌そのものに惹かれるってこともあるけど、パーソナリティーに惹かれる部分も大きいし、その魅力が伝わらないともったいないと思うから、そこはかなり考えましたね。あ、でもチガちゃん(千ヶ崎)のパーソナリティーはあんまり考えてないかも(笑)」(堀込)。

 「自分としては、アート・リンゼイみたいなセクシーさをめざしたんですけどね。矢野さん(矢野博康。第7のメンバーと呼ばれる)には全然そうは聴こえないって(笑)」(千ヶ崎)。

 千ヶ崎と堀込が共同で作曲した“失踪”や、作詞を堀込/作曲をコトリンゴが担当した“日々是観光”など、メンバーとの共作が増えたのもKIRINJIの〈ネオ〉な展開だ。

 「歌詞は基本的に僕が書いてるんですけど、コトリさんに書いてもらったサビが、最初の段階ではあまりピンとこなくて。もう少し印象的にしたいから、サビの頭をリフレインさせたほうがいいんじゃない?みたいな感じで、僕が意見を出したり、メンバーと一緒にレコーディングしていくなかで整理されていって。聴き取りづらかった部分も聴きやすくなった。KIRINJIでやることによって、ポップ度は増してるような気がします」(堀込)。

 堀込自身が歌う楽曲のなかで、本人が気に入っているという“fake it”。R&B調のトラックに、しれっと親父の小言のようなフレーズが並ぶユニークなナンバーだ。

 「シンセのリフがあるんですけど、手癖みたいな感じで弾いたものからスルッと出来ていった曲で。自分としてはそういうプロセスで曲を作っていったことがなかったからおもしろいなって。R&Bとかソウルっぽい曲を書こうと思ったわけじゃないのに、何となくそういうアレンジになっていったりね」(堀込)。

 ちなみに曲名は〈Fake it till you make it〉という英語の慣用句から取られた。

 「日本語で言えば〈為せば成る〉とか〈習うより慣れろ〉みたいな意味合いで。たまたまそれがメロに乗っかったので使ってみようと。あまり説教臭くなっても嫌だなって思ったけど、まあイイ歳だし、家に帰れば息子に説教してるわけですから、そういうのを歌ってもいいんじゃないかと(笑)」(堀込)。

 9月からは全国11か所・13公演を巡る、2年ぶりの全国ツアーも敢行される。

 「ライヴがあるたびに感じていたことではあるけど、アルバムを2枚作ってさらにバンドっぽいバランスになってきたなと思いますね。前作は全体の楽曲のバランスなんかをかなり重視してミックスされてたけど、今回は全体的にグルーヴが強い楽曲も多いし、曲ごとの主役がどれかはっきりわかるような大胆なミックスに仕上がってます。それがまたバンドっぽい印象を強くしてる」(千ヶ崎)。

 「僕だけじゃなく、メンバーみんなが自分自身のKIRINJIにおける演奏の仕方っていうのをどんどん発見してきてるよね」(楠)。

 「先日のライヴでは“P.D.M.”っていうキリンジの1枚目に入っていた木管楽器が印象的なインストを、弓木さんのヴァイオリンと玄さん(田村玄一)のペダル・スティールに変えたアレンジで演奏したら、わりとイイ感じでね。過去の曲も、いまのグループでやると凄く良いものもある。そういう古い曲と〈ネオ〉な新曲まで、全体を俯瞰できるようなツアーになるといいなと思ってます」(堀込)。