INTERVIEW

音楽の未来はここから変わる? SANABAGUN. × オーディオテクニカ × Modern Age/モダンエイジ、〈サマソニ〉で大盛況だったVR体験ブースの真相

AT-VR 360° Live EX -from SANABAGUN.-

(左から)高野修平(トライバルメディアハウス/モダンエイジ)、岩間俊樹(SANABAGUN.)、松永貴之(オーディオテクニカ)
 

 レディオヘッドアンダーワールドを筆頭に、今年も各ステージで熱演が繰り広げられた〈SUMMER SONIC 2016〉。そのなかでも、企業ブースでありながら話題を集め、大盛況だった企画があったのをご存じだろうか。それがオーディオテクニカ・ブースで2日間に渡って展開された、〈AT-VR 360° Live EX -from SANABAGUN.- 〉。ここではストリート発の8人組ヒップホップ・グループSANABAGUN.がユーザーを360°取り囲んで演奏する〈VRライヴ〉体験ができるとあって、期間を通して常に長蛇の列が生まれていた。

この視聴体験をオーディオテクニカと共に企画したのは、マーケティング支援事業を手掛けるトライバルメディアハウスのエンターテイメント専門特化型マーケティングレーベル、Modern Age/モダンエイジ。彼らのアイデアとオーディオテクニカの高性能なヘッドホン、そしてライヴに定評のあるSANABAGUN.のパフォーマンスが魅力的な化学変化を起こした今回の試みは、プランナー/音響メーカー/ミュージシャンの連携が新しいクリエイティヴを生むことの、理想的な形の一つだったのではないだろうか。

そこで今回は、「始まりを告げる《世界標準》音楽マーケティング」(2014年)など、日本で初めてソーシャル・メディアと音楽ビジネスを掛け合わせた著書を執筆したことでも知られるModern Age/モダンエイジレーベルヘッドの高野修平氏、オーディオテクニカの広報宣伝課/マネージャーの松永貴之氏、そしてSANABAGUN.のMCを担当する岩間俊樹氏の3人に集まってもらい、立場の違う3者の個性が集結したこのプロジェクトの制作秘話と、そこから見えてきた〈音楽の楽しさを伝えることの可能性〉について語ってもらった。

〈サマソニ〉当日のブースの様子

 

VR映像を完成させるには、優れた〈音〉が必要だった

――まずは、今回の〈AT-VR 360° Live EX -from SANABAGUN.- 〉がどのように立ち上がった企画なのかを教えてもらえますか。

松永貴之「オーディオテクニカは2002年から〈サマソニ〉に協賛をしていて、当初からPRブースを展開していたんですね。そのなかでSNSなども有効活用できるような企画ができないかと考えていて。そこで5年前から、トライバルメディアハウスさんにウェブを使った施策をお願いすることになり、今年は新たな取り組みとしてVRのご提案をいただいた、という流れでした」

――VRを使おうというアイデアは、どこから?

高野修平「5年前になりますが、最初にオーディオテクニカさんとお仕事することになったのは、まだトライバルメディアハウスにおいてModern Age/モダンエイジを立ち上げる前で、僕の自主提案だったんです。僕はずっといちユーザーとして〈サマソニ〉に行っていたんですが、せっかくPRブースがあるのなら、もっと〈サマソニ〉ユーザーとオーディオテクニカさんを掛け合わせることができるのではないかと思っていて。そこからデジタル・プロモーションを中心に4年間ご一緒させてもらって、デジタル主眼もいいけれど、もっとリアルとの価値、ブースとの連動を高められるようなものにしたいと今年は思っていました。そこでテーマとなったのが、〈体験価値〉。デジタルを使ってもっとリアルを楽しくする仕掛けができたらと考えました。そこでリアルを増幅させる武器としてテクノロジーに着目し、いろいろ考えた結果、VRがもっともオーディオテクニカさんの〈音〉と〈SUMMER SONIC〉を繋げられると判断しました。個人的にはVRは映像がメインのコンテンツではありますが、その映像を完成させるのは〈音〉だと思うので、音響メーカーさんこそやるべきだろうと。だからこそ、オーディオテクニカさんのようなメーカーさんがやるのが一番だと思っていたし、それをいち早くやりたいと思いました」

松永「もともと、〈サマソニ〉は私たちにとっても〈新しいことをやろう〉という位置付けでしたし、当社の製品に触ってもらって、当社が考える音楽の楽しさを伝えられることもできる企画だったので、タイミングと内容が上手く合ったのかなと思いますね」

――そこに、SANABAGUN.を起用した決め手は?

高野「まずは〈サマソニ〉に出演するアーティストだということと、音楽性が高いということ、それから演奏技術が高いということ。この3つを揃えてなければいけない。なかなかすべてを兼ね備えたアーティストはいないのですが、社内で〈SANABAGUN.はどうだろう?〉という話になって。それでバンド側へプレゼンしに行きました」

――つまり、まずは〈音楽〉を重視して出てもらうアーティストを決めたということですね。

高野「はい、やっぱりまずは〈音楽ありき〉だと思うので」

松永「それは大前提としてありましたね」

――岩間さんは、最初にお話を聞いてどう思いました?

岩間俊樹「〈待ってました!〉という感じでしたね(笑)。とはいえ、僕はVR技術についてわりと無頓着で、この施策を通じてちゃんと知ったような感じだったんですけどね。でも実際に(機材を)持ってきていただいて、お話をしていくなかで、ライヴ映像をこれまでと違う形で観せることができるおもしろさを感じました」

――SANABAGUN.はストリートでの音楽活動から注目を集めるようになっただけあって、ライヴでのアイデアも非常に豊富ですしね。そういう意味でも、今回の企画には合っていたのかなと。

高野「そこは重要でした。VRって本番はスタッフが誰も入れないんです。そう考えると演出の仕方も重要で、どこまで決めて、どこまでフリースタイルでやるか。そうするとパフォーマーに託す部分も必然的に多いです。(即興の)アドリブ力もないといけないし、逆に全部細かく決めてしまうとそれこそおもしろくないですから」

松永「演奏のノリが伝わらないと、観ているほうもおもしろくないでしょうしね」

SANABAGUN.が渋谷駅で行った2015年のライヴ映像
 

――完成した映像は、VRを体験するユーザーをメンバー8人が360°取り囲んでライヴをするという、いわばベスト・ポジションでステージを観られるようなものになっています。

松永「サナバが8人組であるということも大きかったですね。撮る前から良いものになるんじゃないかとすごく期待をしていました」

高野「サナバの参加が決まったとき、自然にこのアイデアで固まった気がします。それから、今回すごく優秀なVRのチームが参加してくれたんですが、彼らのアドバイスも大きかったです。VRのポイントは〈距離感〉と〈非現実性〉だと話し合いのなかから出てきて。だとすると、サナバの魅力を引き出しつつ、なかなか普段リスナーが入ることのできない〈スタジオ〉を舞台にして、〈没入感〉を、映像の臨場感を上手く観せることができるように意識しました」

――最近多いものとして、360°カメラで撮ったVR風のMVをYouTubeで公開するというものがありますが、それとは没入感がまったく違う体験になっていました。

高野「その差別化はかなり意識しました。そうじゃないものを今回は作りたかったんです。360°で撮ったものをVR風に提示するのではなく、VR体験用に映像を撮り下ろすということに挑戦してみたかったし、そうしないと今回の企画は成立しないかなと思ってました」

 

撮影の様子
 

生のライヴをジップロックに詰めて、VRにしてもらった感じ

――そして撮影当日は、皆さんで試行錯誤していった感じですか?

高野「そうですね。当日はテストと本番を含めて6回ぐらいだったと思いますが、テストの際に松永さんから〈近すぎるんじゃないか〉というアドバイスをいただいたりもしました。それを踏まえて、現場で演出プランも微修正を加えつつ、それを岩間くん含むサナバのメンバーに伝えたら一気に良くなって」

松永「体験した人が〈SANABAGUN.と同じ空間にいる〉と感じてもらうには、素人目線での意見も大事なのかなと思って、提案させてもらいました」

高野「あとはうちでリサーチした結果、長すぎるVRは、ものにもよりますが酔ってしまうし、飽きるのでダメだと。ブースでの回転率などもシミュレーションして、曲は3分以内で、できればノリのいい曲にしてほしいとオーダーをしました」

――そうなってくると、SANABAGUN.としては楽曲アレンジの準備や、当日はこんなことをしようと考えていくのが大変だったんじゃないですか?

岩間「そうですね。でも普段のステージングもそうなんですが、僕らは路上で培ってきた経験値があるので、打ち合わせをしなくてもできてしまうんですよ。僕らが事前に用意したのは、演奏する曲をみんなで振り付けを合わせたりできる“板ガムーブメント”(2016年作『デンジャー』収録)に決めて、それを3分以内に短縮したアレンジにしたことぐらいでした。当初はお母さんをテーマにした“Mammy Mammy”(同アルバム収録)とどっちにしようかと迷っていたんですけど、〈お母さんの曲を8人に囲まれて歌われてもな……〉というのもあって(笑)。“板ガムーブメント”が一番サナバっぽいヒップホップ感や、管楽器が前に出てくるような感覚を体験してもらえるんじゃないかと思ったんです」

“板ガムーブメント”など4曲を演奏した、SANABAGUN.の2016年のライヴ映像
 

松永「〈サマソニ〉のステージでも、“板ガムーブメント”を1曲目で演奏していましたよね」

岩間「そうですね。VRの撮影では、〈(立ち位置に)前後差を付けたほうがおもしろい〉というアイデアをいただいていたので、そこは意識しつつ、でも普段のライヴでのノリを活かすようにしました。その場で何が起きるかわからないというのが、サナバのライヴに来てくれるお客さんが楽しみにしていることだと思うし、僕ら自身もそのほうが得意なので」

高野「録音は3テイクで終わってしまって、〈速っ……!〉という感じでしたね」

岩間「ハハハ(笑)。サナバは普段のレコーディングも速いですし、今回に関してはライヴ感も重要だったので。そうするとサナバの場合、3テイクぐらいで終わっちゃうんですよ。僕らは調子が良ければ1テイクで終わることもあるぐらいで」

――とはいえ360°のVR撮影では、普段とは違う大変さもあったんじゃないですか?

岩間「自分が歌っていないパートでも、気を抜いてアホ面なんかしていると、グルッと見渡したときにバレてしまうので(笑)、最後まで集中しよう、というのは心掛けました。あとは、実際に観客がいるわけではないので、テンションを上げるのは難しかったかもしれない。でも、普段のライヴとそんなに違うわけでもなかったです。生のライヴをジップロックに詰めたものを、VRにしてもらったという感じですね」

高野「ただ楽曲を録音し直すよりも、映像も音も今回用に撮り直しをするのが大事だったんです。冒頭に〈オーディオテクニカ プレゼンツ 企画名(AT-VR 360° Live EX)〉って高らかな宣言から音が始まるんですけど、そこはやっぱり鳥肌立ちました」

――オーディオテクニカさんとしては、ヘッドホン選びにもこだわったのではないでしょうか。

松永「今回ヘッドホンに関しては、最初から〈ATH-M50x〉を使うことに決めていたんですが、出来上がったものが良い音質だったので、それを活かせるようなものになったんじゃないかとは思っています。〈ATH-M50x〉は基本的にはスタジオなどでモニター・ヘッドホンとして使われている、生の音を素直に聴かせられるものなので」

オーディオテクニカのヘッドホン〈ATH-M50x
 

――では、最初に完成した映像を観たときの感想を教えてください。

高野「当日も含めてですけど、まだVRを体験したことのない方たちが伝えてくれる感想や、クチコミの要素が多様性を持っていたのは嬉しかったです。VRの話、サナバの話、楽曲の話、音の話、レコーディング・スタジオの話、オーディオテクニカの話、みたいに誰かがこの企画を語る際の語り口がたくさんあること。これが実現できたことは大きかったと思います」

松永「私は音が映像に、映像が音に影響を与えることで相乗効果があるんだなと、改めて感じましたね。これならお客さんも喜んでくれると」

――オーディオ・メーカーさんとしても、VRでやることの意味を感じられたんですね。

松永「そうですね。初めての試みでしたが、これを〈サマソニ〉という、音楽が好きな人たちが集まる場所でできたことも良かったと思っています」

――岩間さんはどうでしょう?

岩間「〈これはすごいな……!〉と思いましたね。あと、これでAVを観たらすごいだろうなと(笑)。高性能なヘッドホンとVRで……」

――ハハハ(笑)。

岩間「というのは冗談ですけど(笑)、こういうものを使って、もっと新しいことができたらいいなというのは感じました。(ヘッドセット越しに)お客さんを囲んでライヴをするというのも、新鮮でおもしろかったですし。サナバはメンバーそれぞれのキャラが立っていて、楽器隊もわりと男前なんです(笑)。でも普段のライヴでは、楽器隊はどうしても(ステージの)後ろに隠れてしまうので見えにくいというのがあって。なので、メンバー全員を等距離で観られるのは、今回のVRならではだったかもしれない。これで満足して、ライヴに来てくれる人が減っちゃったら嫌だなぁと思ったぐらいですよ(笑)」

高野「でもそこは、ライヴこそが原点であり、最高峰というか。〈サマソニ〉のブースで実際にあった話なんですが、VR体験をした子に〈これ誰ですか?〉と訊かれて、〈SANABAGUN.です。このあと13時からライヴがありますよ〉と答えたら、〈じゃあ行ってみよう!〉と言ってくれることが結構あって。逆に、サナバのライヴを観たファンの人たちが、オーディオテクニカのPRブースを訪れてくれることもありましたし、そういうことができるのは、サナバのライヴがVRに負けないからだと思うんです」

〈サマソニ〉でのブースで〈AT-VR 360° Live EX -from SANABAGUN.- 〉を体験する様子。順番待ちで長蛇の列が出来ている
 

――つまり、そうやってヴァーチャルなものとリアルなものが循環していく、互いに良さを広め合っていくことがこの企画の大事なところだったと。

高野「そうですね。流行りに乗ってVRを使ったわけではないんです。オーディオテクニカさんのPRブースをどうコミュニケーション・デザインするか、体験価値をどう生み出すか、その手法としてVRがあって、そこにサナバが出演することで完成しました。それが結果、オーディオテクニカさんのPRブースにあるVRを通して広がっていったということだと思います。本当に現場を取り仕切ってくれた会社さんやVRの撮影チームなど、今日お話している3名だけではなく、多くの方の協力によって実現できました」

〈SUMMER SONIC 2016〉オーディオテクニカブース限定の〈AT-VR 360° Live Ex-fromSANABAGUN.-〉が期間限定で公開中!
 

――岩間さんも、〈サマソニ〉期間中に高岩遼さん(SANABAGUN.のヴォーカル)とブースを訪れていましたね。

岩間「高岩と〈VRセットを外したとき、目の前に俺らがいたらおもしろくね?〉と話をしていて、お客さんが体験し終わった後に〈どうでした? 〉と訊いてみたんですよ。そうしたら、〈え、誰……? 〉みたいな顔をされて、全然気付いてもらえなかった(笑)。VRセットを外したら、知らない輩がヘラヘラしてる、みたいになっちゃって(笑)」

松永「でも、そのすぐ後ろには、サナバのTシャツを着たカップルがいたんですよ。ブースに(2人の)サインもいただいたりして、すごく盛り上がりました」

次ページ〈流れに乗る〉のは、〈流行りに乗る〉のとは違う
タグ
関連アーティスト
Mikiki Pit Vol.3