30数年来に渡る交流を経て鳴らされた〈フォーク&ロール〉に終わりはない。素敵に円熟しながらも、いよいよフレッシュな第2章に、またしても胸が熱くなる……
日中の気温があたりまえのように30℃を越えるようになった7月のある日。新しいアルバムを作り終えたばかりのましまろを訊ね、3人の待つ涼しい部屋に入ると、マーシーが壁際の椅子にもたれてギターを爪弾いていた。
「最近はカントリーをよく聴いてますよ。昔から聴いてるものですけど、ハンク・ウィリアムスとかジョージ・ジョーンズとか。なんかね、今日みたいな日に昼間からビール飲みながら(笑)」(真島昌利、ヴォーカル/ギター)。
ましまろでは主にマーシーこと真島昌利が詞と曲を書いているが、長閑な音楽が流れる彼のプライヴェート・ルームと地繋がりとでも言おうか、それは慌ただしい時間の流れを緩ませてくれたり、時には逆回りさせてくれる。
「マーシーの詞で、忘れていたものを思い出すことは多々ありましたね。とっくに忘れてた、本当に些細なこと。そういうのを忘れないでいるっていうのがすごいなって」(真城めぐみ/ヴォーカル)。
「夏が来て、毎年なにかがあったはずなんだけど、歳を重ねるとやっぱ忘れちゃう」(中森泰弘、ギター/ヴォーカル)。
「普段、そういう話ばっかりしてたから、ここ数年で私たちもかなり浄化されたと思いますよ(笑)」(真城)
「まあ、(子ども向けTV番組の)『歌はともだち』とかよく観てたからなあ(笑)」(真島)。
言わずと知れたバンドでの活動や、89年の名作『夏のぬけがら』をはじめとするソロ・ワークスでも聴かせてきた、マーシー特有の佇まいを持つメロディーはここでも聴け、それはどこか少年時代の夏の1コマを想起させるようなノスタルジアを常に伴っている。そのニュアンスは、これまでの彼のキャリアのなかでも特異な編成であるましまろにおいても多くのリスナーに響き、本人たちも結成当初は想定していなかったセカンド・アルバム『ましまろに』にまで至った。
「ファーストを作ったまんまの流れですぅーっときたので、気がついたらできてたっていう、そんな感じですかね。(マーシーが)すぐ新曲を作ってくるので、常に新しい曲があったんですよ」(中森)。
「じゃあ、今回はどうしようかっていうのはなくて、自然にできていく。もちろん、曲を作るうえでの苦労っていうはあると思うんですけど」(真城)。
「あんまり苦労はしてないような気はしてるんですけど。まあ、いまは他に趣味がないからですかね(笑)」(真島)。
「今回、アレンジの面ではストリングスを入れたりヴィブラフォンを入れたり、ライヴでやることをあまり考えてないというか……それも楽曲に対して自然とそうなった感じで。でも、ユルさは前より増したかなあ」(真城)。
“朝”を幕開けに、真城と中森で詞曲を書いた“けあらしの町”、さらに“ナポリの月”“遠雷”“ローラー・コースター”“わたりどり”――フォークやカントリー、ロックンロールなど、オールドタイミーなアメリカン・ミュージックをベースに世界を広げていく歌は、3人のピースフルなキャラクター同様にいずれも温かくて人懐っこく、長年のキャリアとは裏腹な、極めてフレッシュな佇まい。
「僕がギターを弾いて、こんな曲ができたよって歌うんですけど、そこに乗っかってくるギターの感じだったりとか、歌い回しだったりとか、真城はコーラスとかつけるの上手だし、こんなことになるんだっていう意外性はありますね。そこがフレッシュさになってるのかも知れないですよね」(真島)。
「このバンドの楽曲にはヘンなクセみたいなものを持ち込まないでやれたらいいなと思っていて……ましまろでは本当に曲に対して素直に向かい合ってますよ。小賢しいことをやろうとしても、マーシーの曲がそうさせないんですよね」(真城)。
あの夏の日を思い出して、ちょっとせつなくなったり、胸が熱くなったり──そんな楽しいセンチメンタリズムに浸りながら、ああ、夏が終わってく……。