結成11周年のメモリアル・イアーを駆け抜けてきたTHE NOVEMBERSが、待望のニュー・アルバム『Hallelujah』を9月21日にリリースする。フロントマンの小林祐介も〈これまでの僕のすべて、THE NOVEMBERSのすべてがそのまま作品になりました〉とコメントしているように、バンドが積み上げてきた歴史を纏め上げたような本作は、先鋭的な洋楽レーベルとして愛されてきたHostessが、MAGNIPHと共同マネージメント・パートナーシップを締結して結成されたMAGNIPH/Hostessの日本人アーティスト第1弾としてリリースされることでも注目を集めている。この『Hallelujah』は、今日の音楽シーンにおいてどのように位置付けられるべきなのか。音楽ライターの八木皓平氏が、バンドの歩みと本作の魅力に迫った。 *Mikiki編集部
★『Hallelujah』24時間限定フル・ストリーミング実施中(9月21日午前11時まで)
デカダンスの伝統にリスペクトを捧げてきた近年の活動
ロックの歴史のなかで連綿と続くデカダンスの系譜がある。ボードレールの詩集やルキノ・ヴィスコンティの映画のようにニヒルで気怠く、艶やかで妖しいニュアンスを漂わせた音楽は、グラム・ロック、ゴス、ニューウェイヴ、ネオ・アコースティック、シューゲイザーなどと形を変えながら、どの時代でも確固たる存在感を示してきた。この裏街道を歩んできたオルタナティヴな才能たちは、その暗がりから光を放つように、センセーショナルな音楽を世に送り出している。ヴェルヴェット・アンダーグラウンド、デヴィッド・ボウイ、ジャパン、キュアー、スミス、マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン――彼らはダークサイドに軸足を置きつつ、ロック・ミュージックを更新し、そのバックボーンを支えてきた。
そういったデカダンスの系譜は、日本においてもさまざまな形で受け継がれている。継承の過程で〈ヴィジュアル系〉というバズ・ワードが生まれ、時にその本質が見落とされることもあったが、数多の才能がこの国で生まれ落ちてきたことは周知の通りだ。THE NOVEMBERSはその系譜の末裔にして、裏街道のど真ん中を歩み続けるロック・バンドだろう。そういったオーラは活動初期から放っていたが、近年のリリースやライヴ活動からは、これまで以上に伝統へのリスペクトと挑戦する覚悟を強く感じさせる。
例えば2014年のアルバム『Rhapsody in beauty』に収録された“Romancé”の冒頭のパーカッションを聴いた時に、すぐさま思い出されたのがBUCK-TICK “楽園”におけるパーカッションだった。続く2015年のEP『Elegance』では土屋昌巳をプロデューサーに迎えて、われわれを驚かせたことも記憶に新しい。土屋昌巳といえば一風堂のリーダーであり、ジャパンのツアーにサポートとして参加し、L'Arc〜en〜Cielのドラマーにしてacid android名義でも活動するyukihiroが〈土屋さんになりたいと思っていた〉と語るなど、80年代以降の日本におけるデカダンスを定義してきた人物である。
そういった姿勢は、今年5月から毎月開催されていたTHE NOVEMBERSの対バン・シリーズ〈首〉の共演陣にも一貫している。バンドが大きな影響を受けてきたThe Birthdayやacid android、ART-SCHOOLといった敬愛する先輩格、さらにBorisやMONOという海外に渡ってオルタナティヴ・ロックの可能性を拡張してきた面々、そして、エッジの立ったサウンドを掻き鳴らすKlan AileenやBurghに、ユーフォリックで多層的なアンサンブルを奏でるROTH BART BARONといったニューカマーまで。サウンドは異なれど一貫したテイストを滲ませた顔ぶれには、アウトサイダーたちの歴史を受け継ごうという、ある種の美学に基づく連続性すら感じさせる。
集大成であると同時に新境地、祈りと煌めきを携えたサウンド
そして、バンドのセルフ・プロデュースに立ち返った新作『Hallelujah』はTHE NOVEMBERSの集大成的なアルバムであり、紛れもないマスターピースだ。結成11週年の歩みを振り返り、バンドの現在地を確かめるように自分たちの武器を磨き上げ、そこからさらに一歩踏み出した、キャラクターの異なる11曲が並んでいる。
先行公開されたシングル“黒い虹”の終盤や“あなたを愛したい”におけるギター・ノイズを聴けば、単に騒音を撒き散らすだけではない、卓越したアレンジの手腕を確認できるだろう。この2曲は対比的に聴くこともでき、前者は荒々しい洪水のようであり、後者は美しいウォール・オブ・ノイズを繊細に構築している。このセンスは『Rhapsody in beauty』でもたっぷり発揮されており、20世紀の電子音楽をリードしたヤニス・クセナキスの名をもじった楽曲“救世なき巣”では、明確にクセナキスを意識したクラスター的なギター・ノイズが全編を覆っていた。彼らのノイズ構築は、現代音楽の方法論に根差している部分もあるのかもしれない。
さらに、“1000年”はマリリン・マンソンがホラーズの“Sheena Is A Parasite”をカヴァーしたようなナンバーで、切れ味鋭いハードコア・サウンドと歪められたベースのリフレインに酔いしれることだろう。混沌に満ちたアンサンブルはTHE NOVEMBERSの真骨頂だが、いまにも暴発しそうなテンションを、クールな構成力によって絶妙に調整してみせる手捌きにも、バンドの成長が見受けられる。THE NOVEMBERSにも通じる嗜好性を持つ、ホラーズやサヴェージズといったUKシーン指折りのゴシック・ロック/ポスト・パンク・バンドを好むリスナーにも、本作はきっと好意的に受け入れられるはずだ。
また、『Elegance』に連なるように、この『Hallelujah』でもTHE NOVEMBERS流のネオアコ・サウンドがいくつかの曲で収録されている点にも注目したい。美しく朗らかなハーモニーと共に優しく疾走する“風”や、スミスやキュアーの音楽が纏っていたナイーヴさを想起させる“ただ遠くへ”では、押し一辺倒のバンドにはない穏やかで透き通った響きを聴くことができる。
その一方で、新機軸と言えそうなのが“美しい火”。フレーミング・リップス“Race For The Prize”を彷彿とさせる冒頭のシンフォニックなシンセ・フレーズは、これまでのTHE NOVEMBERSの作品にはなかった多幸感を本作にもたらしている。〈あぁ いま僕は暗い街に火をつけた ここじゃ踊れないからと言って〉というフレーズも、この曲で新たな道を切り拓いた彼らの心境を示しているように思える。
そして、アルバムを通して聴いてきたリスナーは、最終曲の“いこうよ”に辿り着くと、この新作が『Hallelujah』=〈賛美〉と名付けられた理由を恍惚感と共に受け止めることになるだろう。シューゲイザー・マナーの轟音ギターと朗らかに鳴り響くホーン・セクション、流麗なシンセ・フレーズのリフレインが織り成す壮大なサウンドもまた、これまでのTHE NOVEMBERSには見受けられなかった新境地だ。かつてシガー・ロスが『Takk...』で奏でた、零れ落ちそうなまでの希望をシンフォニックなサウンドで描いている。冒頭でも記したように、THE NOVEMBERSはデカダンスの系譜/ダークサイドの歴史を引き受けるバンドとして活動してきた。そんな彼らが美意識を上塗りすることなく、これまでのイメージを覆しそうな、祈りと煌めきを携えたサウンドと共に〈ハレルヤ〉と呟いてみせたのだ。
日本の音楽はガラパゴス化していると言われ続けて久しいが、そうした状況下で海外のロックと共振し、圧倒的な完成度でアウトプットしながら自分たちの〈型〉を築き上げた彼らは、いまの日本を見渡しても文句なしに格好良くスケールの大きなバンドになったと思う。“いこうよ”のサビで、小林祐介は〈愛なき世界を 爆音で震わせる それで何がかわる〉と歌っているが、いろいろな物事が『Hallelujah』から変わっていくのではないか。そんな淡い期待すら抱かずにいられない。
YUCK JAPAN TOUR 2016(広島公演)
2016年9月23日(金) 広島QLUB QUATTRO
共演:ヤック/Luby Sparks
★ツアー詳細はこちら
indigo la End presents 「インディゴラブストーリー vol.1」
2016年10月19日(水)東京・渋谷CLUB QUATTRO
共演:indigo la End
11th Anniversary & 6th Album Release Tour - Hallelujah –
2016年9月30日(金) 大阪・心斎橋JANUS
2016年10月2日(日) 愛知・池下CLUB UPSET
2016年10月4日(火)石川・金沢van van V4
2016年10月6日(木) 新潟・GOLDEN PIGS BLACK STAGE
2016年10月13日(木)宮城・仙台enn 2nd
2016年10月23日(日) 栃木・宇都宮HEAVENS ROCK VJ-2
11th Anniversary & 6th Album Release Live 「Hallelujah」
2016年11月11日(金) 東京・新木場STUDIO COAST