ペンギンみたいに身を寄せ合って冬の時代を乗り切ろう
――南波さんは特にここ1年ぐらい、アイドルバブル的なものに陰りが見えてきたみたいなことを公言してるわけじゃないですか。
「そうそうそう」
――そういう人がよくこのタイミングでレーベルを作ったなっていうのが、まずあるわけですよ。
「それは結構明確で、とにかく基本的にそういうことに関して何も言ってこなかったんですけど、人がどんどん辞めたりグループが解散したり、CDが売れなくなってきたりとか、そういうことを無視して原稿を書いたりするのは変だなと思って。逆にそれに関しては、積極的に記事に書いていかないと不自然かなと思ってやることにしたんですけど。その一方で『アイドル三十六房』とかもそうですけど、自分が動くことで知ってもらえることは確実にあって。多少貢献できたかなっていう自負はあるんですよ。例えば里咲(りさ)さんとかが最初に広まるきっかけになったり、そういうのって何もやらなかったら何も生まれなかった気もするんで」
――そこは大きいですよね。
「だから、そうやって陰りが見えていくなかで、ちゃんと知ってもらうための作業をすることはむしろ大事なんじゃないかなと思って。もしここで何もやらなくても、別にRYUTistも続いていくとは思いますけど、なんとなくしぼんでいっちゃうかもしれないと思ったのもありますよね。それと、RYUTistはいまだってそれなりに成立はしてるんですけど、でも広がりが欲しいっていうところで〈一緒にやりたい〉って言ってきてくれたという経緯もあるので、そこはあんまり矛盾してないというか」
――ジャンルとして落ちてきつつあるからこそ、なんとかしないといけない。
「そうですね。もろにPENGUIN DISCっていうレーベルのロゴがそうで、これ酒の席で言ってた話なんですけど、また冬の時代が来るからペンギンみたいに身を寄せ合って乗り切ろうというのがコンセプトなんですよ」
――あ、そういうことなんですね(笑)。ふたたびアイドル冬の時代が来るのは確実だっていう前提で。
「それも後ろ向きだから、あんまり公には言ってないんですけど。ロゴを作ってくれたナカGさんにも、〈コンセプトが後ろ向きだからペンギンも後ろ向きがいい〉ってお願いしてるんですよ。だから、身を寄せ合ってがんばろうよってやっていけたらいいかなっていうところで」
――南波さん、以前のアイドル冬の時代は経験してないわけですよね?
「90年代ですよね、全然わかってないですね。中学生ぐらいのときにCoCoのラジオとか聴いてましたけど、それが冬の時代だとも思ってなかったし」
――普通にラジオ番組やってるぐらいですからね。
「そうそうそう」
――乙女塾ぐらいだと、Qlairにしてもコンサートはホールで普通にやってたし。
「そうなんですよね。Ribbonとかも普通に有名だったから。だからそんなに自分はわかってないんですけど。でも、どっちにしろそんなに詳しく聴いてなかったですからね」
――いままた冬の時代が訪れそうな空気は確実にありますからね。
「ここまで定着したから、アイドルを誰も聴かなくなるっていう状態はもうあり得ないと思うんですけど、でも絶対そうはなるじゃないですか」
――最近ニコ生とかやってて実感するのは、コメントで〈アイドルの話は飽きた〉っていうのがたまに来るようになったんですよ。でも、こっちはその感覚がわかんなくて。アイドルは飽きる飽きないじゃなくて、中学生ぐらいからずっと好きで聴いてきたものだから。
「オタクの人でも、なんとなく『フリースタイルダンジョン』に流れるとか、そういうのが見えるじゃないですか」
――アイドル自身がそっちにハマってるし。
「そうそうそう、だからそういうのはあるんだろうなとは思ってるんですけど。自分もそういうところはあるし、やっぱり流行ってる音楽はおもしろいからっていうのはあるんですけど、ちょっと覚悟を決めたっていうのはありますよね」
――南波さんは特殊な立場というか、普通、音楽ライターの人ってもうちょっと幅広く仕事するじゃないですか。もともとアイドル畑にいた人でもないし、映画も好きで他の音楽も幅広く聴いている人なのに、8割方がアイドルの仕事になってるっていう。
「そうなんですよね。それは『CDジャーナル』の川上(健太)さんと仕事してたらそうなったっていうのがデカイですね」
――川上さんも、ちょっと遅れてアイドルにハマった人で。
「そうそうそう。どっちかっていうと川上さんはももクロがワーッとなって疎外感を感じて、もう構ってもらえないっていうか……」
――ももクロを表紙&巻頭にしたことで方向性が変わった雑誌ですからね(笑)。そのときのももクロ特集に南波さんも原稿を書いたことで、アイドル仕事が増えていって。
「で、相談はされてたんですよ、なんかないですか、みたいな。もう一回ももクロみたいなことをやりたいっていうところで」
――そこで、ちょっと不遇の時期だったハロー!にハマる、と。
「ハロプロはずっとあるし、それこそ好不調はあったとしても絶対に需要はあるところだからいいと思いますよって言って。その頃ちょうど9期メンバーが入ったところで、〈モーニング娘。がちょっとおもしろいんですよ〉って話をして、ハロコン行って、その年の冬に10期が入ったタイミングで表紙に出して。そしたらオタクになっちゃいましたね(笑)」
――完全におかしくなりましたからね。
「そんなふうにやってるうちに、川上さんがアイドルの仕事ばっかり振ってくるようになって。その前はいろいろやってたんですけど、ユーミンとか小山田(圭吾)さんとか。でも、もう全然振ってくれなくなっちゃって(笑)。そういう仕事をしてると、J-Popとかの仕事をやってたところも、〈南波さん、いまアイドルですよね〉みたいになっちゃうから、しょうがなくというか……」
――気がついたらアイドル・ライターになっていた。
「いまでも他の仕事を振ってくれる人はたまにいるし、こないだ出たプリンスの本とかでも原稿は書いてるんですけど、ほぼアイドルですね。それでいいかなと思ってます」