(左から)吉田豪、小日向由衣

〈レジェンド〉ことシンガーソングライター/アイドルの小日向由衣が、前作『世界が泣いてる』(2021年)から2年、ニューアルバム『恋愛ハラスメント』をついに完成させた。〈短冊CDの日〉にリリースしたシングル“天の川ぶち壊す!”などを収録しているほか、故PANTA(頭脳警察)が小日向由衣にインスパイアされて作った“虹のほほえみ”のカバーもボーナストラックとして収めた、キャリアの集大成的な内容になっている本作。曲作りのスランプを乗り越えて作り上げたというアルバムの背景に、プロインタビュアーの吉田豪が迫った。

小日向由衣 『恋愛ハラスメント』 こっこっこレコード/なりすレコード(2023)

 

この調子でアルバム作れるのかな

――2年前のアルバムのときは、小日向さんが自腹を切ってボクをインタビュアーとして雇って記事を公開したんですよね。

小日向「そうなんです。noteで公開したんですけど、訳あって今は有料にしてます」

――パブ記事なのに(笑)。今回はちゃんとした記事です! この『恋愛ハラスメント』は人知れず発売を二度延期してたみたいですけど、何があったんですか?

小日向「曲がぜんぜん作れなくて。(誕生日の)7月27日発売で動いてたんですけど、ダメで諦めたんです。誕生日にこだわらなくてもいいかなと思って8月に出せるよう動いてたんですけど、それも間に合わなくて。制作の打ち合わせも行くだけ行ったみたいな状態でした」

――曲はないけど打ち合わせだけはしましょうと。

小日向「たくさんのボヤが……」

――ボヤ……?

小日向「まだメロディとかはないんだけど、こういう曲にしたいって枠組みだけのボヤが頭の中に5、6個あったんです。でもその先が見えなくて、糸口を掴みたい気持ちと今年こそアルバムを出したい意欲はあって打ち合わせに行くんだけど、〈何しに来たの(笑)?〉って言われる状態で。あと業者ってメンタル弱いんですよ」

――〈業者〉っていうのはアレンジ担当の方のことですね。

小日向「はい。どちらかというと、今までは私が業者を引っ張ってきたんです。リリースに向けて業者が編曲で病んでくから」

――小日向さんは音楽知識がないなか手探りで曲を作ってるから説明が伝わりづらくて、編曲担当の業者さんは何が正解かわからずメンタルをやられちゃうわけですかね。

小日向「〈そうじゃなくて、もっと刻むの!〉とか〈これはラララ~に聞こえるけど、もっとラ・ラ・ラ!って感じなの!〉とか、そういう編曲の説明をするから業者じゃないとわかってもらえない(笑)。それで自信を喪失させちゃったり。私は知識がないぶん、ひらめきが強いから、〈こういうのを入れたらいいじゃん!〉って言ってうまくいくと業者が〈そんな思いつきもできずにごめんなさい……〉って感じになっちゃったり。

メンタルの弱さは似てるところがあって、いつも私が励ましてたんだけど、今回は逆で業者に心配されてました」

――小日向さんの日記に出てきた打ち合わせの描写が理解できなかったんですよね。〈打ち合わせだった。机の下に潜り込んで精神統一をしていた。だんだん眠くなってしまった〉って、これが打ち合わせ(笑)?

小日向「アハハハ! 業者の事務所みたいな作業場所は狭くて居場所が少ないんです。私が打ち合わせに行っても何もできず、ごめんなさいって謝るしかできなくて、〈でも来ただけで偉い、すごいよ!(拍手)〉って褒めてくれるんですね」

――ハードルがえらい低い(笑)。

小日向「それで申し訳なくって机の下に潜り込んで〈ちゃんと考えます……。業者は他の作業してて大丈夫です……〉って言って。それで私はどんな曲を作りたいのか、ボヤの糸口を探したいと思って考えてたら、だんだん眠くなってきちゃって。業者に〈もしかして寝てる?〉って聞かれて、ハッと起きて(笑)。

打ち合わせ自体もやっとの思いで行ってるから、着いたのも夕方4時ぐらい。そこから夜6時まで2時間、机の下に潜って〈あっ、時間ですね。帰ります〉っていう(笑)。

〈何しに来たんだろう? 人の時間を奪って〉って自己嫌悪になって……。この調子でアルバムを作れるのかなって、しんどくなっちゃったんですね」