INTERVIEW

吉田豪が〈PENGUIN DISC〉を立ち上げた南波一海に訊く、音楽ライターがいまアイドル・レーベルを始める理由

RYUTist
 

音楽をいじるんじゃなくて、良さをそのままの形でもっと伝わるように

――次にRYUTistに関しては、一番深く関わってる関係者が南波さんとボクとナカG先生みたいな感じですよね。

「ホントそうですよね、古くからの付き合いというか。だからやりやすいっていうのはもちろんありますけど。RYUTistがすごくおもしろいなと思うのが、メンバーがこないだナタリーで軽くインタヴューされたんですけど、〈目標とかあるんですか?〉って訊かれても何も出てこないんですよね」

――あのガッツのなさは異常ですよね。自己アピールすべきときにやらない。〈TIF〉でもそうでしたけど、肝心のMCでは……。

「ゆるキャラの紹介して(笑)」

――しかも、それで怒られるっていう(笑)。

「時間は守ってるのに、舞監の人が気になっちゃうっていう。急にゆるキャラをじっくり紹介しはじめるから、時計見たら全然時間通りなのに、あまりにもあそこだけ緩やかに時間が流れちゃったから怒り出して(笑)。それぐらい無欲な感じではあるんですけど。ずっと素振りをやりまくってたら、めちゃめちゃバット・コントロールできるようになっちゃったみたいな人たちじゃないですか。だけど、大きな舞台でそれを見せる機会がまったくないから」

――たまに〈TIF〉に出るぐらいで、それも毎年ではないし。

「そうそうそう。地元の大きなイヴェントもあるかもしれないけど。例えば野音とかで観たいなと思ったときにも、特にそういう目標を設定してやってこなかったし。そういうのがなくていいのかなと思うところもあるし、実際に観てみたいっていうのもあるじゃないですか、あれだけすごいパフォーマンスができるから」

RYUTistの2016年のライヴ映像
 

――比較的ボクは新潟で共演する機会があるからよく観てるけど、東京にいたら普通そんなに観られないですからね。

「そうなんですよね。あれだけすごいことできるし、あれだけすごい音楽やってるのに」

――あれだけ楽曲のレパートリーがあるグループもないですよね。

「ホントですよね。しかも全部高いレヴェルでできるから。本人たちもそういう欲を持ってほしいというか、もうちょっとたくさんの人に見られても通じるんだよっていうか」

――あれだけすごいアルバムを作ったんだから、もっとちゃんと届けなきゃってことですかね。

「そこですよね、ホントに傑作ですから。安部さんもすごいものを作ろうっていう気概に満ちてはいるけど、それを届けようっていう段階でちょっとわかんないなってなっちゃうんですよね。それはあんまりやってこなかったところだと思うから、タワーと僕とで何かできたらいいなとは思っていて」

RYUTistの2016年作『日本海夕日ライン』収録曲“日曜日のサマートレイン”
 

――ハコムスも単純にCDが入手しにくいグループでしたからね。Amazonで多少扱いはあったけども。

「もう廃盤ですしね。ハコムスも思ったより全然知られてない感じなんですよね。2年前にアイドルネッサンスと〈AKIBAカルチャーズ 劇場夏の新人公演〉でほぼ同時スタートみたいな感じで、自分が観てるなかでは5組のなかでこの2組がダントツ良くて、このまま競っていくものだってずっと思ってたんですけど。でも、その後の感じを見ていくと差が開いてしまったというか。そこはなんでだろうなと思ってたんですけど、やっぱりそういう手段がわからなかったというか。わりと小規模な範囲で成立しちゃってたのもあるだろうし」

アイドルネッサンスの2016年のシングル“君の知らない物語”
 

――あまりガツガツ上をめざさなくても、ビジネスが成立しちゃってたってことですよね。本業は女優業っていうのがまずあるし。

「そうなんですよね。だけどオリジナル曲もすごくいいし、あんなふうにできるんだったらもっと聴いてもらったほうが絶対いいだろうっていう。それこそ乃木坂とかああいうふうにヴィジュアルがいいグループがちゃんとアイドルとして強いじゃないですか。だったらそれをもっと活かさない手はないだろうと思ってはいたので。広まるといいなって思います。現状ハコムスに関しては、楽曲派みたいな人たちにもまだ刺さってない感じだと思うので」

ハコイリ♡ムスメ
 

――楽曲派を名乗る以上、本来ならアイドルのいい曲だったら全部好きってなるはずなんだけど、どうも最近はシティー・ポップ的なものに寄りすぎてる気がするんですよね。いわゆる冬の時代感がある正統派アイドル・ポップの良さみたいなものについては、そんなに語られないっていう。

「そうなんですよね。なんかディスコ感があるとか、ちょっと前だったらPerfume的なアプローチのエレクトロ・ポップとか、そういうのはわりとすぐ飛びつくけど、ホントに普通に良く出来たメロディーと歌詞のアイドル・ポップスみたいなものはあんまり評価されないみたいで。それっぽいカッティングが鳴って、ブラスが鳴って、ちょっとソウルフルだったらいいみたいなのって、結局何も聴いてないじゃん、みたいに感じるところがある。パブロフの犬みたいに、それが鳴ってれば反応するという話じゃないですか」

――何批判だろう? ●●●?

「いやいやいや(笑)。●●●は多分にそういうところがありますけど。宇多丸さんがどうとかじゃないですけど、『マブ論』的な評価基準があって、それに該当しそうなものは自動的に評価される、みたいなものもある気がして」

――最近で言えばふわふわとか、楽曲派っていわれる人たちってあっちに行かないんですよね。

「そうなんですよね、あれホント不思議で。アレンジ面を聴いてるんだなと思います……そこじゃないところの良さは裏テーマではあるというか、RYUTistも実はいいメロディーとは何かってすごく考えているから、そこを聴いてもらいたいなっていうのはめっちゃあって。Peach〜もそうですよね、ウィスパー・ヴォイスが目立ってますけど、やっぱりメロディーがすごくいいから」

ふわふわの2016年のシングル“恋のレッスン”
 

――そこに絶望的な歌詞が加わって。

「そうそうそう。そこがもうちょっとどうにか伝わらないかなって。わかりやすいキャッチーさとは違うところなぶん、やりがいはあるなというか、おもしろみはあるなと思ってますけどね。難しいじゃないですか、RYUTistのどういうところがいいですかって言われると。〈ディスコティックで〉みたいに言えたら楽かもしれないですけど」

――音楽性も異常に幅広いし。

「だからそこをどうにかしたい。音楽をいじるんじゃなくて、その良さをそのままの形でもっと伝わるように、と。ハコムスなんてイケると思うんですよ、楽曲派の人がハマッたら。楽曲派の人はなんだかんだ、可愛い人が好きだし」

ハコイリ♡ムスメの2015年の楽曲“なかよし”
 

――基本は曲重視だけども、オプションとして可愛かったらそれに越したことはないから。

「そうそうそう。だからホント、ちょっとしたきっかけでワーッと広がる気はしてるんですよね。だってアイドルネッサンスにライヴの票では負けてたけど物販の票で競って勝ったグループなんで、物販がめちゃくちゃ強いんですよ。それだけ人間的な魅力がめっちゃある人たちなんで、曲の良さも伝われば上手くいくんじゃないかなって思ってはいるんですけど」

――レーベルの代表が音楽ライターであるメリットって、何か活かせそうですかね?

「避けちゃってるんですよね、そういうところ」

――例えばブックレットに必ずインタヴューが付いてくるとか、毎回サイトで曲の解説を書くとか、何かそういうこともできる気はして。

「それこそRYUTistの『日本海夕日ライン』を聴いたときに、ちゃんとこの新潟の名所と曲の背景を説明する豆本とかがあったらいいなって思ったんですよ。そういうのだったら自分はできるなと思って。作家さんに話を聞いたり、そういうのはやりたい……なんかやらなきゃいけないですよね」

RYUTistの2016年作『日本海夕日ライン』収録曲“海岸ROADでオトナッTunes!”
 

――やるべきですよ!

「やりたいんですけどね、求められれば。普通にハコムスの曲を作ってる作家の方も、たぶんそこまで知られてないと思うんで、ちゃんとしたインタヴューとかしたいなと思ってます。ハコムスのオリジナル曲って明確に元ネタがあったりするんですよ。“夏に急かされて”だったら三浦理恵子の“水平線でつかまえて”とか、そういうのを説明できるところがあったらおもしろいなと思いますね」

次ページ売れても売れなくても叩かれそうだからなぁ……
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