ただ歌が上手くなるは、自分がやりたいこととは違うと気付いた
――メイさんはもともと歌一本の人に憧れていたそうですが、最初はどんな人に憧れていて、そこからどんな変遷があったのでしょうか?
沖「大学のときはジャズ研だったこともあって、ヘレン・メリルやニーナ・シモン、カサンドラ・ウィルソンとか。あとはモータウンを片っ端から聴いたり、古き良きジャズやブラック・ミュージックを聴いたり歌ったりすることが多かったんです。でも、日本人だから黒人っぽい雰囲気はなかなか出せないし、声を太くしようとしても不自然になっちゃうし、どうしたらいいんだろうって。そんなときに出会ったのがグレッチェン・パーラトで、大好き!って思いましたね。音像がすべて格好良くて、そのなかで声を張らないのに張ってる感じがした。どうなってるんだろう?と気になったので、いつか日本に来ないかなあと思っていたら(存在を知った)2~3年後くらいに来日して。コットンクラブへ観に行きました」
吉田「私も行きました!」
沖「ホントはマーク・ジュリアナやアラン・ハンプトンと一緒に来てほしかったから、いまはそれを待ってるんですけど(笑)。あと同じくらいの時期にリトル・ドラゴンを知って、ユキミ(・ナガノ)ちゃんを見て、〈何だこの子は?〉と彼女からも影響を受けました。そこからノアーとかも聴きはじめて、だんだん古いジャズを聴く回数は減っていったんですけど、グレッチェンはいまでもよく聴きます」
吉田「私もずっとオールド・ジャズを聴いてきたんですけど、そこから抜け出すきっかけがグレッチェンでした。こんなのがあるんだと唖然としちゃって、来日したときはサインをもらって話したりして、ただのファンでしたね(笑)。最近だとハイエイタス・カイヨーテも観に行って、めっちゃ感動しました。それこそ、ハイエイタスはPAさんがエフェクトを操作しているから〈これだ!〉って思ったんです」
クロ「私、ハイエイタスは去年の〈Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN〉で観て、すごく良かったんですけど、YouTubeにすごい小箱で、お客さんの目の前でやっている映像があって、そっちのほうが3倍は感動したかも(笑)。箱鳴りの感じがすごい格好良くて」
沖「昔のネイ・パームちゃん、いまより全然スリムなの。誰かのパーティーの、キッチンの片隅みたいなところで“Rock With You”を歌ってる動画があって、それもすごくカッコイイんですけど、とても華奢で。売れると変わるんだなぁって(笑)」
クロ「富の象徴(笑)」
――この3人も、誰かがふくよかになったら〈売れたな〉ってことですかね(笑)。クロさんは、いま名前が挙がったような人たちから影響を受けていると言えますか?
クロ「私はもともと女性ヴォーカリストで好きな人がずっといなくて、誰が好きかと言われたら、〈くるりの岸田繁さんが好き〉みたいな感じだったんです(笑)。女性特有のいやらしさというか、〈えぐみ〉みたいな部分が年齢と共に増長されていくから、それが嫌だなと思いつつ、自分の歌い方も見つけられていなかったんですけど、さっき名前の挙がった人たちには共感する感じがありました。例えばジャズ・ヴォーカルの人とか、上手いし素敵だし気持ちいいけど、自分とは関係ない気がしちゃってたんですよね。でも、グレッチェンとかは身近な感じがしたし、沙良ちゃんの歌を聴いたときも同じ感覚で」
吉田「嬉しい。最初はとにかく歌が上手くなりたいと思って、サラ・ヴォーンみたいな〈歌を歌っている素晴らしい人たち〉に憧れていたんですけど、私のやりたいこととは違うのかもしれないと気付いたのが、ものんくると出会ってからで。歌いたいというよりも、このバンドで音を出して、カッコイイことをしたいということの方が大事だなと、最近は思うようになってきたんです。その頃にグレッチェンとかにも出会って、そこから歌い方も変わっていきました」
沖「私は大学のときにジャズ・クラブでバイトをしていて、女性のジャズ・ヴォーカリストがよく歌いに来ていたんですけど、当時はバンドの音を聴いてないようなシンガーが多くて。確かに綺麗な声だし、ヴェテランの方ばかりなんだけど、でもなあ……とずっと思ってたんですよね。で、バンドをやりはじめてから出会ったヴォーカルの子たちのなかにも、そんな雰囲気の子が多い気がしたんです。〈私って上手いでしょ?〉みたいな、一人で歌っているというか……どうしてもそう聴こえちゃって。私は歌い手じゃなくても、ソロでもバンドでも、とにかく一緒に演奏する仲間がいるなら〈バンドを聴く〉のが大事だと思っているし、そうじゃないと観ていても楽しくなくて。そのせいか、これまで気の合う女の子ヴォーカルの友達があんまりいなくて、男の子の友達のほうが多かったんですけど、この2人と出会えて〈最高じゃん!!!〉と思ったんです」