INTERVIEW

冨田ラボはなぜ変わった? アップデートされた音楽観と新世代へのシンパシーが生んだ新作『SUPERFINE』の真意を明かす

ceroの髙城さんは普通のシンガーとアプローチが違う

――それに今回、べースが引っ張る曲が多くないですか。かなり低音が出ている印象があるんですけど。

「あー、それは去年の暮れに6弦ベースを買ったからですよ(笑)。僕はこれまで4弦しか弾いてこなかったから、〈Low-B〉とか6弦ベースにしか出せない音を使っちゃうんですよね。6弦を買ったばかりの人って使いたがるのよ、気持ち良くて」

――低音がうねっているところもビートメイカーっぽいと思ったし、曲がピークに入るところでえげつないベースが入ってくる展開もあったから、どうしたのかと思ったら……(笑)。

「新しく買った楽器だからいっぱい弾きたいなんて、学生みたいだよね。自分のそういうところ好きだな(笑)。もちろんそれだけじゃないけど、いい方向に作用した気がします。そういえばbirdさんとの対談で、〈シンセ・ベースは前に出しやすいけどエレキ・ベースは引っ込んじゃう〉という話をしたじゃないですか。あれは奇数連符とか訛ったリズムを表現する場合の話で、今回は如実にそういうモードというわけでもなかったんですよね。あれを経過したのちに、(リズムが)もっと自然になってきたところが多くて。そういうふうにするのであれば、生ベースでも出すところは出すというのができるようになったので、そこがヒップホップに寄ったものか、ポップスに寄ったものかの違いにもなると思う。僕はキックをすごくビッグにして、それで持っていくという考えではなくて、キックはそれなりに重心としてあるんだけど、基本的にはベースが低域を受け持つ形にしたいから」

――グルーヴ感は『Lush』の時より強いですよね。

「そう思います。人間がグルーヴを出すということを躊躇せずにやったというか。birdさんの時は、抑えたなかでどんなことができるだろうと考えていたこともあったけど、今回は特に安部さんが歌う“雪の町”のような、全体的に生ベースを弾いている曲では肉体的なグルーヴを出そうという判断をして。ヴォーカルを録ったあとにイントロの〈フーウウー〉ってコーラスが浮かんできて、もっと生演奏っぽい感じでやったほうが良さそうな気がしたから、この曲もオケを全取っ替えしたんだよね」

★never young beachのインタヴューはこちら(bounce転載)

――安部くんの声はすごいじゃないですか。ネバヤンのライヴを初めて観た時にびっくりしましたもん。あの佇まいで、この声なんだと思って。

「しかも、歌詞はちょっと可愛かったりするんだよね(笑)。描かれている情景も綺麗だったりして。そこに影響されての全取っ替えですよ。最初はフレーズ・サンプリングした歪んだギターが入っていたり、もっと尖った感じだったんだけど、あの声と歌詞は生演奏でサポートしたほうが説得力が出たんだよね。それでベースを弾いてたら盛り上がっちゃって」

――ロバート・グラスパーネオ・ソウルっぽい感じじゃなくて、ゴスペルやアーバンなソウル・ミュージックに近いのかなと。それで言うと、ceroの髙城さんが歌う“ふたりは空気の底に”もゴスペル的というか。

「髙城さんとはチャンス・ザ・ラッパーの話をしていて。ラップからすぐ歌に移っちゃう感じがおもしろいなと思って、ミディアムでポップなやつを作ろうということでチャンスの話をしたら、髙城さんもすごく好きらしく。ドニー・トランペットとかの話をしたんですよね。それで〈歌詞のヒントはないですか?〉と訊かれたから、〈ゴスペルめいたアプローチなんだけど、仰々しくはなくて、もう少し日常のなかで描かれたものだと曲に合うんじゃないかな〉と伝えたら、髙城さんは手塚治虫の『二人は空気の底に』のオマージュ的な歌詞を書いてくれた。あれはゴスペルでしたね」

チャンス・ザ・ラッパー擁するドニー・トランペット&ザ・ソーシャル・エクスペリメントの2015年のミックステープ『Surf』収録曲“Sunday Candy”
 

――髙城さんの細い歌声も良かったです。

「ceroの音源を聴いていると、端的に言うとヴォーカルをそんなにフィーチャーしていないというか、小さめなんだよね。で、髙城さんがいいことをやっていても結構重ねたりしているところも多くて。普通の歌モノのように、髙城さんが真ん中で歌ってもいい味が出ると思ったから、それをやってみたいなと思ってさ」

――髙城さんの歌は〈サウンド〉という感じがするんですよね。一人だけ歌じゃない、別の何かのように聴こえて。ムーンチャイルドグレッチェン・パーラトの声の入れ方に近いというか、後ろのサウンドが聴こえる声といった感じ。

「そうかもしれない。それは髙城さんの意識もデカいんじゃないかな。彼は中央で歌っているんだけど、自分はヴォーカリストであるという意識がそんなに強くないんだよね。それよりもミュージシャンであり、音楽マニアであるというか。“ふたりは空気の底に”の歌入れをする時も、いきなり自分の得意な歌い方をするんじゃなくて、最初は弱めに歌ったテイクを聴かせてくれて。次はもう少し強め、その次は結構強いやつと。それから本人も一緒に録音した声を聴いて、〈冨田さんどれがいいですか?〉と訊かれたので、〈真ん中のがいいかな〉と言ったら、〈僕もそう思います、じゃあそれでいきましょう〉みたいな感じで。普通のシンガーとはアプローチが違うんだよね」

――もともとプロデューサー、トラックメイカーっぽいですもんね。

「上手く歌えるかどうかよりも、自分が聴きたいと思える音楽にしたいから、まずはそこから決めるということだよね。何種類かの歌い方を試したりするシンガーはいるけど、あそこまでリスナー目線を感じたのは髙城さんだけだったな」

――あと髙城さんは、〈ハッ!〉みたいな声をいっぱい入れてたじゃないですか。あのリズムに合わせて、そういう声を入れたほうがグルーヴするんですよね。

「あるとないとじゃ大違い。僕もすごく好きだったんだけど、別にそういうことをやってと頼まなくても、〈アッ!〉〈ハッ!〉とたくさん入れてくれて。こっちが欲していることや、この音楽だとどうしたらカッコイイかが見えている。こっちは願ったり叶ったりですよね」

――普通の歌とは違う、ちょっとフロウしている感じもウワモノっぽい。

「ceroの『Obscure Ride』も、ラップみたいで言葉数が多くて、なるべく思い付いた言葉数を減らさずにいこうというコンセプトで作ったから、今回のレコーディングも簡単だったと言ってましたね」

ceroのニュー・シングル“街の報せ”
 

★cero“街の報せ”のインタヴューはこちら(bounce転載)

 

参加することで、間違いなくいい影響を与えるものにしたかった

――アルバム・トータルの話だと、最初と最後を飾るインストの2曲(“SUPERFINE OPENING”と“SUPERFINE ENDING”)が良かったです。

「こうやって前後を同じインストのヴァリエーションで挟むと、終わった後に〈作りものだったんだ〉という儚さみたいなものを感じさせることができるかなと思ったんだよね。まずはインストで真ん中に歌う声のない状態、情景だけ見てるように始まって、(収録曲の)一つ一つは歌ものだからリアリティーのある短編みたいなもので、その都度呑み込まれるんだけど、また最後にオープニングを変形したものが出てくると〈これは作りものだったのか〉と気付く。そういう構成がいいかなって」

――上原ひろみさんにインタヴューした時、〈人間は一度聴こえたフレーズは次も聴こえるし、頭の中に刷り込ませたフレーズを後でもう一回奏でられると快感を覚える〉といったことを語っていました。

「クラシックでもテーマと変奏ってあるもんね。それは細かい部分においても最重要かもしれない。編曲があまり上手じゃない人って、全然形が違うものを散りばめたりするものだけど、大事なのはとにかくヴァリエーションだね。変奏するにしても、音型が似ているか、音階が同じで符割が違うか、または音形は同じだけど音色が変わってるか、とか前にあったものと関連付けたものを時間軸上のどこに置くか――それを意識することで、表現が強固になるというのはよく言われていて。そういうのは基本にありますね。アレンジャーは昔から考えることだろうし」

――変わった曲が多くても違和感がないのは、そういうことを考えてアレンジしているからかもしれないですね。まったく違うタイプの曲を集めているのに、むしろアルバムとしてはまとまっている。

「エレクトロなものもあれば、藤原さんが歌っているような曲もあるしね。でも作り手の立場から言えば、一貫性があると思っていて。そこに直接的ではないけど関係あるのが、ダニー・マッキャスリン『Beyond Now』の日本盤ライナーノーツにも書いたけど、〈Jazz The New Chapter〉にはグラスパーのような黒っぽい人もいれば、(フォーキーな)ベッカ・スティーヴンスもいる。どちらもカッコイイと思うし、続けて聴いても僕自身は何の違和感もない。それはなぜだろうと考えた時に、音楽的な手法とかがまったく違っていても、同じような温度感を感じることが結構あって」

★ダニー・マッキャスリン『Beyond Now』インタヴューはこちら

ロバート・グラスパー・エクスペリメントのライヴ映像
ベッカ・スティーヴンス・バンドの2015年作『Perfect Animal』収録曲、フランク・オーシャンのカヴァー“Thinkin Bout You”
 

――なるほど。

「感覚的な言い方になるけど、そこが共通していれば、僕は一枚のアルバムとして成り立つんじゃないかと思っていて。だから、藤原さんの曲は昔の冨田ラボでやってきたようなチェンバー・オーケストラだし、YONCEさんの曲では昔だとあり得ない、トラックメイカーが使うような音色をいっぱい採り入れたんだけど、そういう正反対の2曲が最初に出来上がったから、このあとにどんな曲が続いても大丈夫だと思ったんですよね」

――ゲスト・ヴォーカリストの顔ぶれにしても、全員が音楽的に近いわけではないけど、〈いまの感じ〉を共有している感じがします。Suchmosやネバヤンもそうだし、新しいフィーリングを持っている人たちが出てきたのかなと。

「そういうフレッシュさは感じるよね。Suchmosで言えば、ジャミロクワイやブラック・ミュージックも好きなんだけど、すごくJ-Popらしいところもあって。彼らのなかではそこに優劣を付けていない感じがする。それが意識的なのかはわからないけど、上の世代とはまた違うんだなと」

――そういえばbirdさんとの対談で、〈リズムが突っ掛かるとか普通になっちゃえばいいし、こういう音楽がスタンダードになればいいよね〉と話していたじゃないですか。今回のアルバムで若いミュージシャンを集めたのは、そういった姿勢をシェアしたいという気持ちもあったのかなと。

「それぞれ目標は違うだろうけど、J-Popの世界で一定の地位を築きたいという気持ちのある人が今回のゲストには多いんですよ。そういう人たちに、この段階で5連符とか強要しちゃうのもね(笑)。無理にそういうのをやってほしいというのも違うと思うし、優先順位はそこまで高くないかもしれない。とはいえ、わからなくてもカッコイイと思うものがあったら、普通は採り入れるじゃないですか。だから、(アルバムに参加することで)彼らが何かしら影響を受けたとしても、間違いなくいい影響になるであろうものにしなければ、という思いはありましたね」

――ここまで若手の参加を徹底しているアルバムは、ほかにあまり浮かばないですよね。

「でも、こういうサウンドで行くと決めたから。作っている途中はいろんなことを考えたんですよ。少しヴェテランを入れたほうがバランスを取れるかなとか、スタッフとも相談したんですけど、そうじゃないよなって。お茶の間に向けたゲストを一人入れたら、イメージもそっちに傾いてしまう。内容が良ければ、そういう人がいなくても、みんなこれを聴きたくなるだろうし」

――最近の冨田さんは〈いまは新譜がおもしろい〉と言い続けてましたけど、それを日本でアーティストとして形にしたらこうなるのかなと。

「誰が歌うとどうなるかは想像できるけど、熟練した人たちがここに歌を乗せているのを思い浮かべると、やっぱり完成したこっちのほうが好きなんですよね。今回はこういうふうに完成させたかったんだなと、いまでも思います」

 


isai Beat presents
冨田ラボ LIVE 2017

日時/会場:2017年2月21日(火) 東京・恵比寿LIQUIDROOM
開場/開演:18:00/19:00
出演 : 冨田ラボ
ゲスト・シンガー:AKIO、安部勇磨(never young beach)、城戸あき子(CICADA)、坂本真綾、髙城晶平(cero)、藤原さくら、bird
料金:5,800円(税込/1D別)
★詳細はこちら