2012年の設立以来、fox capture planやTRI4THらの音源をリリースし、ジャズの新しい楽しみ方を提案してきたPlaywright。この人気レーベルが次に送り出すのは、セネガル人ジャンベ奏者のオマール・ゲンデファル率いるAfro Begue(アフロ・ベゲ)のセカンド・アルバム『SANTAT』だ。彼らが鳴らすのは、西アフリカの伝統音楽をベースに多種多様な要素がひとつに溶け合った、エネルギッシュなアコースティック・ポップ。その深い味わいは他のPlaywright作品と同様、幅広い層に受け入れられる可能性を秘めている。

Afro Begue SANTAT Playwright(2017)

 オマールはセネガルの首都、ダカールの出身。グリオと呼ばれる伝統文化継承者の家系に生まれ、幼い頃より音楽に触れてきたという。そして10代になるとセネガル国立舞踏団など国内有数の舞踊団で演奏し、2005年に来日。ひょんなことから後にAfro Begueのギターを務める津田悠佑と出会うのだった。

 「あるイヴェントのバックステージで初めて会ったんです。僕が出番前にギターを弾いていたら、いきなり彼が歌いはじめて。そこで意気投合して、すぐにバンドを組むことになりました」(津田)。

 津田とオマールが一緒に演奏活動を始めたのは2010年。やがてSTEREO LYNCHなどにも在籍していたシンガー・ソングライターのSuzKen、元phatの藤原大輔らが加わり、現在の編成となる。

 「オマールの歌には日本人じゃ絶対に出せないニュアンスがあるんですよね。初めて観た時、〈これは本物だな〉と思いました」(SuzKen)。

 「Afro Begueのメンバーは僕の気持ちを凄くよくわかってくれる。とてもやりやすいし、一切心配がいらない」(オマール)。

 今作の軸となるのは、オマールのルーツであるセネガルのトラディショナルなリズムや宗教観。そこに伸びやかなサックスや柔軟なビート、そしてマリ音楽から影響を受けたという津田の繊細なギターワークが加わることで、Afro Begue以外の何物でもない音楽世界が描き出されていく。

 「オマールのなかでは〈伝統的なものをそのままやってもつまらない〉って思いがあるみたいですね」(SuzKen)。

 「オマールがよく言うのは、〈あなたのやりたいように演奏して〉ということ。〈こういうふうに演奏してくれ〉とは絶対に言わないんですよ。僕が即興でギターを弾き、彼がその場で歌を乗せる。初めて会った時のように、そうやって自然に曲が出来ていくんです」(津田)。

 アルバムの最後を締めるのは、オマールが初めて日本語詞に挑戦した“Mina Mina”。〈世界はひとつ、気持ちもひとつ、愛もひとつ〉——世界各地で音楽活動を続けてきたオマールならではのユニヴァーサルなメッセージが込められた同曲は、Afro Begue流のボブ・マーリー“One Love”と言えるかもしれない。

 「セネガルの海辺で兄弟たちと太鼓を叩いていた時、頭のなかにこの歌詞がすっと降りてきた」(オマール)。

 「あたりまえのことと言えばあたりまえのことを歌っているわけですけど、世界を見てきたオマールらしい歌詞ですよね」(津田)。

 なお、Afro Begueの〈Begue〉とは、セネガルなどで話されるウォロフ語で〈楽しむ〉という意味。『SANTAT』に満ち溢れているのは、まさにそんなグループ名通りのポジティヴなエネルギーだ。

 「〈One Love〉なメッセージを持って、世界中のいろいろなところでライヴをやっていきたい。ハッピーな感じでね」(オマール)。

 

Afro Begue


オマール・ゲンデファル(ジャンベ/ヴォーカル)、津田悠佑(ギター)、SuzKen(ベース)、藤原大輔(サックス/フルート)、佐々木俊之(ドラムス)、橋本肇(パーカッション)から成るアフリカン・ポップ・バンド。2010年に結成され、2013年にコンピ『アコギな夜: Spike Bar Joint Compilation Vol.4』へ楽曲を提供。2014年3月に現在の編成で初のライヴを行い、同年5月にファースト・アルバム『BEGUE』をTRIBAL PHONICSから発表する。2016年には〈アフリカンフェスティバルよこはま〉や〈すみだストリートジャズフェスティバル〉への参加に加え、ママディ・ケイタとも共演。このたびセカンド・アルバム『SANTAT』(Playwright)をリリースしたばかり。