INTERVIEW

ジャズ、ヒップホップ、ソウル……ジャンルを越境したブラック・ミュージック全盛のいまこそ訊く、大人気コンピ・シリーズ〈IN YA MELLOW TONE〉が愛され続ける理由

VA『IN YA MELLOW TONE 13』

寿福知之(GOON TRAX)
 

〈IN YA MELLOW TONE〉といえば、Cradle Orchestraやサム・オック、最近ではStill Caravanといった実力派アーティストを抱えながら、約10年もの間ジャジー・ヒップホップを中心とした国内外の良質な音楽を紹介してきたレーベル、GOON TRAXの代名詞的コンピレーション・シリーズ。その最新作となる第13弾『IN YA MELLOW TONE 13』が先日リリースされた。今回もGEMINIやAi Ninomiyaら同レーベルの代表的アーティストに、CM SmoothがファンキーDLをフィーチャーしたナンバーまで、GOON TRAXがもっとも大事にしている〈ネーム・ヴァリューよりいい曲かどうか〉を体現した顔ぶれがずらりと並んでいる。

これまでに累計36万枚以上を売り上げている〈IN YA MELLOW TONE〉は、コアな音楽ファンはもちろん、〈モテ〉〈ドライヴ〉〈就寝前〉というライトなニーズも満たし、幅広いリスナーから愛されてきた。その一方で、同シリーズを長く続けられたのは、クォリティーと独自性にこだわってきたから、そう捉えることもできるだろう。そんなモンスター・コンピ・シリーズが成功を収めた理由とは? 今回Mikikiは、レーベル設立から11年目となったいまもなお、毎朝2時間ネットで未開のヒップホップ・アーティストをディグしているというGOON TRAXオーナー/〈IN YA MELLOW TONE〉プロデューサーの寿福知之を直撃。そしてレーベル始動当初からその動向を間近で見守り、寿福とは公私ともに親交のあるタワーレコード オンラインの稲村智行を聞き手に迎えて、レーベル=寿福の活動スタンスと人気コンピが生まれた背景、国内とアジアの音楽マーケットの所感まで、ざっくばらんに話してもらった。

VARIOUS ARISTS IN YA MELLOW TONE 13 GOON TRAX(2017)

 

やってることは何も変わらない

――GOON TRAXは今年で設立11年目に突入したわけだけど、スタンスは当初から何も変わってないですよね。ずっと真面目にふざけてる感じ(笑)。

「浮き沈みはもちろんあったけどね。〈IN YA MELLOW TONE〉はありがたいことに売れ続けてますけど、並行してやっている所属アーティストのリリースや洋楽のライセンスものはなかなか売れないですしね(笑)。でも11年目までやってきて思うのは……結局同じような流行が巡って来るじゃない。メロコアとか」

――うんうん。

「この間、『We got the JAZZ』というコンピレーションもリリースされたけど」

――ああ、〈Jazz The New Chapter〉の視点から見たジャズなヒップホップ集だね。

「J・ディラ、タリブ・クエリとか、当時のジャジー・ヒップホップやアンダーグラウンド・ヒップホップのブームを知らない人たちに向けたコンピなんだけど、いま〈高校生ラップ選手権〉に出ているような若いラッパーたちがそれを聴いて響けば、またブームが来るきっかけになりそうですよね」

『We got the JAZZ』トレイラー映像
 

――そうですね。それでそもそもの話だけど、10年以上前、寿福さんはGOON TRAXを始める前に洋楽ロックのレーベルもやっていて、ピアノ・エモ・ロックでしこたま儲けていたわけですよね(笑)。それなのに、急に〈ヒップホップのすべてがわかった!〉と言い出して。ヒップホップを扱いたいと。バカじゃねえのって思いながら聞いてたけど(笑)、当時はNujabesがすごかった時期で、寿福さんは機材オタクのバンドマンだったからNujabesの研究の仕方もハンパなくて。あの頃、寿福さんのいたレーベルは〈サマソニ〉に出るようなアーティストのブッキングをしたりもしてたけど、ロックがもう頭打ちで先が見えてきていた時期だった。

「ビジネス的に見て、ヒップホップはマーケットがちゃんとあると思ったんですよ。まだ伸びしろがあると。もともとヒップホップは好きだったこともあって、いまやってみるのはアリじゃないかと思った。アーティストとダイレクトにコンタクトをとったり、そのときロックでやっていたのと同じ手法でできそうだったし」

――そういった経緯で、GOON TRAXとしてグッド・ピープル(The Good People)の『The Good People』(2006年)をリリースすることになった(GOON TRAX最初のリリース作品)。日本盤のボートラ収録のリミックスでは、さっそく生楽器を取り入れてましたね。

「そうね。ローズとヴァイオリンを入れて。当時のジャズネタをサンプリング・メインでやる手法とは違うスタイルでいきたかったし、そのほうがより日本人に合うものが作れると思ったので」

グッド・ピープルの2006年作『The Good People』収録曲、Cradle Orchestraがリミックスした“About You”
 

――当時同じようなことを精力的にやっていたのは、Hydeout Productionくらいだったかな。

「HydeoutはUyama Hirotoがいろんな楽器弾けるからね。でも、この手法もいまや普通になった気がしますね」

――ちなみに、〈Jazz The New Chapter〉は寿福さんもおもしろいと言っていて。でもあのあたりで採り上げられているミュージシャンも、日本では、セールス的な面で言えばまだ難しそうなアーティストもいるようにも映りますけど。

「GOON TRAX所属のアーティストもそうだと思うけど、マーケットを見ないで本人たちがやりたいことだけをやっている限り、基本的にセールスはついてこないと思いますね」

――なんでそう思います? 最近で言えばWONKとか、Suchmosの『THE KIDS』(2017年)なんかは17万枚売れたらしいけど、彼らはやりたいことをやっているわけでしょう。

「WONKは〈タワレコメン〉での激プッシュのたまものだし、SuchmosはCM効果も大きいですよね。おもしろいことをやっていると思うし、メンバー全員ヴィジュアルがいいし、普通の音楽業界の大人だったら誰しもが契約したいでしょう。でも売り手目線でいくと、『THE KIDS』で“STAY TUNE”以上に支持される曲が何曲か入っていれば、もっと大きな事件になっただろうと思いますね。歴史を変えるような、それこそオアシスみたいなバンドになる可能性があったんじゃないかな。でもあのアルバムも“STAY TUNE”の印象が強いよね。延々あの曲のことばかり言われて、そのうち本人たちもやりたくなくなっちゃうんじゃない?」

――なるほど。

「あとこの間おもしろいなと思ったのは、最近何かの雑誌でメンバーがディスク・セレクトみたいなことをやっていたんだけど、ザ・ミュージックのことを〈すげえバンドがいる〉みたいにコメントしていて(笑)。たぶんオアシスもストーン・ローゼズもあまり知らなくて、その状態でいまを迎えてるわけだから、そりゃあ聴いたらめちゃくちゃ刺激を受けるだろうなと」

――それこそ、寿福さんのルーツはローゼズとかそのあたりですよね。

「うん。ギターを持ったきっかけはニルヴァーナやスマパンとかグランジで、その後はいきなりテクノに向かうんだけど、聴き進めていくうちにインストのすごさに気付いたんですよね。〈IN YA MELLOW TONE〉でも毎回何曲か入れているけど、インストってあたりまえだけど言葉がないのがすごく魅力的だと思っていて。この間SOWという京都のポスト・ロック・バンドと一緒に中国に遠征していたんだけど、向こうではいまインスト・バンドが人気ですね。イヴェンターになぜ人気なのか訊いてみたら、やっぱり言葉がないからだと。中国は地域によって言語が細かく違うので、同じ中国人同士でも細かなニュアンスが伝わりきらなかったりするんだって。だからインストは日本人も世界に出やすいんじゃない?」

――なるほどね。例えばヴィレッジ・ヴァンガードがインスト・フェス〈Sing Your Song !!〉をやっていますけど、ああいうのを画策していたりは?

「してない(笑)。自分としては時代や流行りに合わせることをあまりカッコ良く思ってなくて。だからこの先も自分のやることはずっと変わらないと思う」

 

『13』は新たなスタート

――〈IN YA MELLOW TONE〉は〈日本人に響くもの〉というテーマでずっとやってきたわけですけど、収録されている楽曲の大半が英詞なのはなぜでしょう? このシリーズが近年、韓国や中国、フィリピンとかアジアでの支持が厚いことと関係があるのか、戦略的に海外を意識してるからだったり?

「うーん、日本語が入ってもいいんですけどね、そこは戦略的にやっていることではないかも。どこかのタイミングでは日本語で作った音源もやりたいと思ってるし。ラップだったらJimmenusagiとかに登場してほしいな。アジアには間違いなく広がっていってる感じがありますけど、最初にドカンと来たのは『IN YA MELLOW TONE 2』(2008年)を出したとき。ナイーヴ&クック“Chronic Intoxication”のAnan Ryokoリミックスが韓国でめちゃくちゃ売れて、クラブですごいかかっていたらしくて。仕事で韓国に行ったら洋服屋の店先のラジカセで普通に鳴っていたくらい。でも本格的になってきたのはここ3年くらいかな。アジアで人気が出るのは民族的にやっぱり感覚が近いからというのもあるかもしれない」

『IN YA MELLOW TONE 2』に収録された、Anan Ryokoリミックスのナイーヴ&クック“Chronic Intoxication”
 

――日本人に響く音楽を国内外で漁っていて、アジアン・アメリカンのグループのMagnetic North & Taiyo Naを見つけて、『6』(2011年)でリード・トラックとしてフィーチャーしたら反響が大きかった。いろいろ繋がってきたのはそのあたりからなのかなって。

「そうですね。世界的に見て、コリアン・アメリカンの人たちのコミュニティーってすごく大きいんですよ。で、GOON TRAXがMagnetic North & Taiyo Naやサム・オックとかコリアン・アメリカン、海外のK-Townにいるアーティストをいろいろリリースしていたら、それが反対に日本を経由して韓国でもバズるという現象が起きて。逆にサムを呼びたいって海外のイヴェンターから言われて、一緒にライヴしに行って1,500人とか動員したり」

――ファーイースト・ムーヴメントやアジアティックスあたりまでは(アジアでも)知られているけど、それよりももっと、きわめてローカルな。

「最近はKOHHも客演で参加していたダムファウンデッドの『We Might Die』(2016年)が結構話題だし、韓国のヒップホップ・シーンもとんでもなくデカくなっているし。世界各地のK-Rap、K-Townの人たちがいま熱いと思っている。それこそ〈IN YA MELLOW TONE〉のK-Townヴァージョンを出そうって話もありますしね」

ダムファウンデッド『We Might Die』収録曲“We Might Die”
 

――〈IN YA MELLOW TONE〉は毎回選曲会をやって、そこから収録曲を決めているんですよね。

「そう、『10』(2014年)のときから毎回やっていて。お客さんを大体20組くらい公募で募集して、会場でお酒とかでおもてなししながら30曲くらい聴いてもらって、各々のプレイリストを作ってもらう」

――寿福さんがそこで、みんなの意見を訊いて決めていると。

「今回の『IN YA MELLOW TONE 13』の試聴会で、ちょっと流れが変わったなと思ったのは、12曲目のLEEHAHN X VANJESS“Fall Back”が人気だったんですよね。いままでは絶対入らないマジっぽいタイプの曲だったのでびっくりした」

――わりといまっぽい感じの、シアラみたいな曲ですよね。〈IN YA MELLOW TONE〉シリーズは、毎回一曲はそれまでになかったような異質な曲がある気がするんですけど、今回はLEEHAHNやリーハン・ダラルとかがそれにあたっていて。よりR&B色の、歌モノに寄った気がしました。あと訊きたかったのが1曲目。(昨年の)10周年のときではなく、なんでこのタイミングで“IN YA MELLOW TONE”というタイトルの曲を入れることにしたんですか?

「〈これから〉という意味で、10周年を終えて第二章のスタートを切った11周年目のいまだったんですよね。なので『13』はターニング・ポイント的な位置付けでもあって、これまでもこれからも活躍してほしいアーティストを集めました。でもさ、(Mikikiスタッフに向かって)コンピに収録されているアーティストで知ってるアーティストっていなくない? いなくて当然だと思う(笑)。うちはネーム・ヴァリューじゃなくて楽曲の良さで選んでいるから」

――でも無名のアーティストが参加しているコンピが売れてるというのも、曲がいいってことを証明していますよね。横のつながりとかをまったく気にしていない選び方というか、そこがいままでになくておもしろいと思う。

「そう。その証明になるし、むしろ充実感もあるんですよね。フックアップしてあげるという充実感。俺は中身で勝負してんだよって」

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美しい星