Page 2 / 2 1ページ目から読む

未練タラタラの男性目線だけど、女性でも共感できる

――いま、実体験っておっしゃいましたけど、このアルバムに入っているのはほとんどが恋愛ソングですよね。しかも、昔の恋人に未練タラタラだったり、別れ方を後悔していたり、心のすれ違いが起きていたり、彼女だけ大人になってしまったり……。男としては、かなり残念な恋愛体験が並んでいますが、そのあたりは実際どうなんですか(笑)?

石原「ハハハ(笑)。実は、恋愛の歌詞はこのメンバーになるまではほとんど書かなかったんです。でも、このバンドになってからは、なんか恋愛系の曲が多いです。それまでは自分自身の内面を見つめたような歌詞が多かった気がします」

――今は恋愛モードなんでしょうかね?

石原「どうなんでしょう(笑)。“煙”という曲の、“私達ね、もう大人だからね好きなだけじゃ一緒に いられないのはもう分かってるよね? それじゃあまたね?”という歌詞は、……ヤバイですよね。みんなが言われたことがあるようなことを、歌詞にしている面はあります」

――“ナイトクロージング”の“だいたいあなたはいつだって 言い訳ばっかりで嫌になっちゃった”“最低なんて言わせないで”あたりも、かなり痛いです笑)。

石原「人とは違う言葉やフレーズを選ぼうという気持ちはありますね。ちなみに、“最低なんて言わせないで”と言われたことは実体験です」

――ハハハ(笑)。あったんですか!?

石原「はい(笑)。次に作ろうと思っている歌詞も、割とそういう感じなんですよね。〈“絶対”以外、約束しないで〉みたいな」

――そういう男の弱い部分、ダメな部分を曝け出している歌詞に、せとさんはどんなふうに感じているんでしょう?

せと「男性目線だけど、女性でも共感できるところがあると思います。女性でも同じように未練タラタラだったりすることもあるだろうし、女性から見た男性の女々しい部分という捉え方もできると思います。〈そっか、もしかしたら自分の元カレもそんなふうに考えていたのかな〉とか〈ザマアミロ〉とか(笑)、いろんな取り方ができますよね。イヤだな、見苦しいなとは、決して思わないですね」

秋澤「僕は、どちらかというとeastern youthなどの難解な歌詞が好きで、いわゆる恋愛ものは苦手なんですよ(笑)。でも、石原が書く歌詞って、すごく痛いところを突いてくるから聴けちゃうんですよね。自分のなかにもある、情けない部分、弱い部分を見透かされている感じがあって。いい意味ですごく分かりやすくてシンプルで、それでいて細かく見たらすごく凝っているところもあるんです。これはもう、石原にしか書けない歌詞やなって思います。そこは尊敬していますね。僕みたいにヒネくれた人間にも、そう思わせる訴求力があるというか(笑)」

 

前を向いて進んでいけば、きっとどこかに辿り着く

――歌詞には、小説や詩からの影響もありますか?

石原「いや、あまり本は読まないんですよね……。ただ、高校の頃は『恋愛寫眞 もうひとつの物語』や『いま、会いにゆきます』などを書いた、市川拓司さんがすごく好きで著作は全部集めていました。なので、そこからの影響はあるかもしれないです。市川さんの小説は、冒頭が特に印象的なんです。例えば、“彼女は白いブラウスを着ていた”みたいな書き出しから始まる。そういうのって、なかなかないじゃないですか。言葉選びも上手いなと思うし、主人公の内面の掘り下げ方も、すごく綺麗で入り込んでしまうんですよね」

――“ジオラマ”では、住んでいる街への複雑な思いを歌っているように思いました。

石原「この曲の歌詞は、僕が島根から大阪に初めて出てきた時の気持ちがもとになっています。大阪には電車で行ったんですけど、それまで1人で電車に乗ったことがなかったんですよ。電車の中のモワッとした空気がすごく嫌だったのと、そこで見た外の風景をモノクロに感じたことが印象に残っていて。きっと大阪ってビルが多いから、そう感じたのかもしれないです。そのときのイメージを思い出しながら書いたのが冒頭の部分で、そこからイメージを広げていきました」

――音楽でやっていくと決めるまでに葛藤はありました?

石原「正直なところ、全然先が見えない状況で辛かった時期もありましたね。特にメンバーが全員抜けてしまったときは、〈地元に帰って実家に住んだほうが今より何千倍も楽だな〉という考えがよぎったこともありました。〈でもやっぱり、格好悪いから帰れないよな〉って。本気で帰ろうとは思ったことはなかったですね。メンバーが抜けて、正直悔しかったし、だからこそSaucy Dogという名前を変えませんでした。自分1人でも前を向いて進んで行ったら、きっとどこかに辿り着くと信じていましたね。その気持ちは今も変わらないです。ライヴでも、昔のメンバーを見返したいという気持ちで歌っている部分が少しはあるかもしれないです。もちろん、〈誰かのために〉という気持ちで歌っているんですけど、あいつらを後悔させてやりたいって気持ちも正直ありますね」

――そうやって前を向いて、とにかく進んだからこそ、今のメンバーに会えたというのもありますしね。お2人はどうですか?

秋澤「僕も葛藤はないですね。Saucy Dogに入る前にやっていたバンドが上手くいかなくて、そのときは地元に帰るか悩んでいたんですけど、石原に誘われて一緒にスタジオに入った時、こいつとやったらイケると心から思えて、それまでのモヤモヤした気持ちが何処かへいってしまったんです。そこからずっと、このバンドを信じてやってきたし、MASH A&Rでグランプリをもらって、そのときの気持ちが確信に変わりました」

――せとさんはいかがですか?

せと「私も、葛藤はありません。前のメンバーだったときのSaucy Dogも知っていて、よくライヴに行っていたんですけど、好きだと思う曲はすべて慎也くんの曲だったんです。自分が好きだと感じる曲を書ける人と一緒にバンドをやれるのは大きいし、慎也くんの声も大好きだし。最初にこの3人で作った“煙”という曲が出来たときはすごく嬉しくて。〈今までのSaucy Dogのどの曲よりもいい曲になった〉と思えたんです。だから、最初から迷いや葛藤はなかったし、今もないですね」

――最後の曲“グッバイ”は、他の曲が割とネガティヴなテーマであるのに対して、最後の最後に〈希望〉を見出しているなと思ったんですけど、やはりそこは意識して最後に持ってきたところはあります?

石原「そうですね。アルバムの締めにふさわしい曲ということで、3人で決めました」

――では、最後に今後の展望を聞かせてもらえますか?

石原「今までと同じように、軸を保ったまま、変わり続けたいですね。アルバムのタイトルにもなっている『カントリーロード』は、ポピュラー・ソングの“カントリーロード”から取っているんですけど、“カントリーロード/この道/ずっとゆけば/あの街につづいている/気がする/カントリーロード”という歌詞は、まさしく今の心境です。すごくモヤモヤして先がなかなか見えない状況だけど、このままずっと歩いていけば、いつかきっとめざしているところに行けると思っています。変わらない良さと、変わり続ける良さ、どちらも大切にしていきたいです」

秋澤「一生音楽をやっていきたいと思っています。そのためにはいろいろな人と出会って、人としても音楽としても経験を積んでいく、その繰り返しが大切なのかなと思います」

せと「音楽をずっと楽しみたいと思っているので、自分たちがそのとき一番楽しいと思えることを、ずっとやり続けていきたいです」

 


Live Infomation
カントリーロード RELEASE TOUR FINAL SERIES 「ずっと 〜東名阪対バンツアー〜」

2017年9月8日(金) 大阪・吹田ESAKA MUSE
共演:SIX LOUNGE
2017年9月10日(日) 名古屋・池下CLUB UPSET
共演:SIX LOUNGE
2017年9月17日(日)東京・渋谷TSUTAYA O-Crest
共演:ハルカミライ
★詳細はこちら