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スタジオ・ミュージシャンではない、ジャズ・ミュージシャンだけで出来たバンド

柳樂「WONKは聴いたことありましたか?」

冨田「あります。好きですよ。簡単に言うとハイエイタス・カイヨーテ的な訛ったリズムをスタイリッシュにというか、ちょうど旬な時にやりはじめたバンドっていう印象です。WONKの江﨑(文武)さんも東京藝大だよね? なので譜面のことは全員心配ないね」

柳樂「ホーン・セクションはほかにどんな人がいるんですか?」

柴田「そこは類家さんにお願いして、元・在日ファンクの後関好宏さんなどに声を掛けていただきました」

冨田「トランペット、サックス×2、トロンボーン、というセクションを揃えてくださいと。セクションでやる時はセクション・リーダーがやりやすい人が一番いいわけ。なので類家さんにお願いしたんです」

柳樂「在日ファンクと松下くんはすごく近いんですよね。かなり前から知ってるみたいです」

冨田「あ、そうなの? じゃあみんな知り合い同士みたいな感じ?」

柳樂「そうだと思います」

冨田「全員初対面というのもちょっとアレなので、それはありがたいですね(笑)。スタジオ・ミュージシャンだったらそういうのも慣れてるとは思うけど」

柳樂「でもスタジオ・ミュージシャンじゃないのが今回のおもしろさですよね」

冨田「みんな優秀だろうから全然心配してないけどね。スタジオ・ミュージシャンじゃない、もっと言うとジャズ・ミュージシャンだけで出来ているバンドとやるのは初めてだから、楽しみですね」

WONKの2016年作『Sphere』収録曲“Real Love”
 

――素朴な疑問なんですが、冨田さんは最初にこの企画のオファーを受けたときどう思いました?

冨田「僕が曲を書いて、ジャズ・ミュージシャンと一緒に演奏するというのは単純にやったこと無いことだから、すぐにやりたいと思いました」

柳樂「今までにない謎の企画ではありますよね」

冨田「そうかもね。普段は僕あんまり呼ばれないと思うんだよ、この人たちに。だからこそぜひやりたいなと思ったんだけどね」

柳楽「ちなみに類家さんはエフェクトとかも使いますよ」

冨田「YouTubeで確認してます(笑)。坪口昌恭さんのバンドでやっているのを観て、ぜひそういうクリスチャン・スコットみたいなのをやってもうおうかなと」

柳樂「類家さんはインタヴューでクリスチャン・スコットの話もされてましたね」

冨田「それは良かった。類家さんはハードにブロウしてもクールな表現に聴こえるよね、フレディ・ハバード的ではないというか。そういうところが好きです」

★参考記事:類家心平、ロイ・ハーグローヴの影響力を語る―来日迫る伝説的トランペット奏者が日本の音楽シーンにもたらしたものとは?

柳樂「(二部構成で開催される当日の)一部に出演するバンドはがっつりジャズ系か、インスト・ロックっぽいものが多いですよね」

冨田「そうなんですよ。だからそのあたりの塩梅も考えたんですよね。一部に出るバンドが、例えばラージ・アンサンブルで楽譜に書かれているものが多ければ、こっちはジャム寄りでも良いとも思ったんですけど、向こうは個人技を見せてくれるような感じだと思ったから。その後に出るんだったらラージ・アンサンブルとはいえないけれど、譜面が書かれているところ+それぞれのっていう構築があったほうが良いなと」

 

ジャンルの狭間で新しい答えを手さぐりで探している

――(冨田ラボの最新作)『SUPERFINE』のリリース時にインタヴューで、若い人と一緒にやるのが楽しいっていう話をされたと思うんですけど、奇しくもまったく違う形でこんなことになって。逆に言えば冨田さんが若い人に求められているというか、求め合っているのかもしれないですけど。

柳樂「たしかにそうですね」

柴田「まだ冨田さんにお願いすると確定していない段階で出演者と話をしていた時に、井上くんが〈冨田さんだったら良いな〉ってぽろって言ったんですよ。それで僕もまだ決まってないのに〈そう冨田さん!〉って言ってしまって(笑)」

柳樂「ポップスを勉強したいっていう意識がたぶんあるんでしょうね。それは石若くんや角田くんと話をしていてすごく思いますけど」

冨田「そんなの聞きたければいくらでも話してあげるのに」

柳樂「(笑)。それこそ角田くんのものんくるは、ジャズっぽさがやっぱり曲に出ているじゃないですか。それがおもしろさでもあるけど、それゆえにポップスとしては限界があるかもしれないですよね。彼らは今、そういうジャンルの狭間で新しい答えを手さぐりで探している人たちなんですよね」

冨田「いま柳樂さんが言った通りだよね。4拍ぐらい聴けばジャズ・ミュージシャンがやってるバンドだってすぐにわかる。だからおもしろいっていうのもあるし、だから一曲ぐらいでもういいかなって思っちゃうリスナーもいるんだよね。そこなんだよね。きっと、パッと聴いてジャズ・ミュージシャンがやってるとわかりつつも、それを死ぬまで延々と聴いていたい感じに、いわゆるポップスの構築の何かがあると良いんでしょうね」

冨田ラボの2016年作『SUPERFINE』収録曲“Radio体操ガール”
 

柳樂「そうかもしれないですね。だからみんな勉強しに来るぐらいのスタンスでくるかもしれないです」

冨田「でもたぶんその時には勉強どころじゃなくて譜面を見てがんばっているかもしれないけどね(笑)。でもまぁみんな若いからいくらでも学べるでしょう」

柳楽「石若くんは別として、彼らはまだポップス界隈の仕事をあまりしたことが無いので、そういう意味でもポップ・ミュージックのプロの下でやるひとつの経験としてすごくいい機会だと思いますね」

冨田「今回はそこまでポップ・ミュージックでもないけどね(笑)。でもそういうふうに自覚してるのはすごいよね。ジャズ出身でポップスをやってるけれど、そこに良さと問題点があると思っているんでしょ?」

柳樂「そうですね。ものんくるとかは歌モノだし、やっぱりポップですもんね。銘くんにしても良い曲が書きたい、みたいな思いがすごくあるみたいで」

冨田「関係ないかもしれないけど、彼らはジャズを好きでやっていて、でもジャズ以外のこともやりたくていろんな活動をしているわけだよね? それはその時々の興味がジャズ以外のものだったりしているだけなのかな? それとも将来的に何をやりたいからどうとかっていうことなのか」

柳樂「どうなんですかね。みんなジャンルへの意識は希薄な気はしますね。若ければ若いほど。逆に類家さんはジャズ・トランペッターだっていう意識がすごくあると思うけど」

――石若くんはブライアン・ブレイドが好きなんですよね。

冨田「それは音楽活動にも見えてるね。ソロ名義でシンガー・ソングライター的なアルバム(『Songbook』)も作ったりとかさ」

柳樂「彼は今また新しいソロ作を作ってるんですけど、そのレコーディングでは森は生きているの岡田(拓郎)くんや吉田ヨウヘイgroupの西田(修大)くんとやったり、結構おもしろいメンツになっているみたいですよ。例えば石若くんとか角田くんとかは、すごく技術もあってジャズができるんだけど、もうちょっとポップに、華があることにすごく憧れがあって。逆に西田くんはネルス・クラインとかが好きないわゆるロックっぽいギタリストで、すごく華があるしバンドをやると目立つけど、もうちょっと上手くなりたいみたいな気持ちがあって、ジャズ・ギタリストにギターを習っていたりする」

石若駿の2016年作『Songbook』試聴映像
 

冨田「へぇ」

柳樂「今回の〈TOKYO LAB〉にはちょうどその中間の人たちが混じっていますよね。坪口さんも今まではDC/PRGや東京ザヴィヌルバッハでマイルスやウェザー・リポート的なことをやったり、バリー・ハリスにビバップを習ったりするような感じでしたけど、もうちょっとヒップホップやブラック・ミュージックなどを研究する方向に最近は向かっていて」

冨田「僕がYouTubeで観たバンド(東京ザヴィヌルバッハ)は、すごく難しそうなポリリズムとかやってたよ」

柳樂「だから今、ジャズ界の人たちは世代問わず新しいことをやりたいと思ってる時なので、この冨田さんバンドで何か盗んでやろうってみんな思っている気がしますね」

冨田「上手いのが当たり前な人たちだったりするじゃん? 本当にそうで、ジャズに関して言うともう全員上手いんだよ。でも例えばボブ・ミンツァーとマイケル・ブレッカーでソロをやるとさ、2人とも同じくらい上手くても圧倒的にマイケルのほうが華があるフレーズで。ボブ・ミンツァーが8割似たようなフレーズを吹いていたとしても、どうしてもそこに華がないという。ミンツァー好きだし凄くいいけど、華ということに関してはね。上手くて当たり前だと、そういうところの差になっちゃうのかな」

柳樂「なるほど」

冨田「クリス・デイヴより上手いヤツもいっぱいいるんだけど、彼がやってくれるとなんかパッとするというかさ。本当に上手いプレイヤーは、そこの差は何なんだろうって事をずっと考えていくことになるんじゃないかな。でももしかしたら華とは?って考える時点でどうかってのもあるかもね。ほとんどの華は無自覚だから。でも今回のみんなは華あると思うけどね」

柳樂「だから結構みんないろんな思いを胸に冨田さんが作った曲を演奏するんだと思いますよ。プレッシャーかけるわけじゃないけど(笑)」

 


CANALIZE★INVISIBLE PARTY and Mikiki presents
TOKYO LAB 2017S/S〜beyond JAZZ, beyond NEXT!!

2017年6月21日(水)
会場:東京・渋谷CLUB QUATTRO
開場/開演:18:00/19:00
料⾦:前売り/4,500円 当⽇/5,000円
共催 : CANALIZE★INVISIBLEPARTY、Mikiki
出演:
〈beyond NEXT〉
T.O.C BAND:冨田恵一(冨田ラボ)、石若駿、松下マサナオ(Yasei Collective)、角田隆太(ものんくる)、類家心平、井上銘、江﨑文武(WONK) and more
〈beyond JAZZ〉
RS5pb:類家心平(トランペット)、田中"TAK"拓也(ギター)、鉄井孝司(ベース)、吉岡大輔(ドラムス)、中嶋錠二(ピアノ)
MAY INOUE STEREO CHAMP:井上銘(ギター)、類家心平(トランペット)、渡辺ショータ(キーボード)、山本連(ベース)、石若駿(ドラムス)
Takumi Moriya Les Six:守家巧(ベース)、加納奈実(サックス)、坪口昌恭(キーボード)、西田修大(ギター)、横山和明(ドラムス)、オマール・ゲンデファル(パーカッション)
Clean Up Trio:石若駿(ドラムス)、井上銘(ギター)、須川崇志(ベース)、ニラン・ダシカ(トランペット)
DJ:大塚広子
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