(左から)柳樂光隆、冨田ラボ(冨田恵一)
 

Mikikiも共催として参加する、ジャズの現在&未来と〈エンターテイメントな実験フェス〉を標榜したライヴ・イヴェント〈CANALIZE★INVISIBLE PARTY and Mikiki presents TOKYO LAB 2017S/S 〜beyond JAZZ, beyond NEXT!!〉がいよいよ6月21日(水)に東京・渋谷CLUB QUATTROで行われる。

本イヴェントは2部構成で開催。まずパート1の〈beyond JAZZ〉では、日本を代表するトランペッターの類家心平、若手随一のジャズ・ギタリストである井上銘、RM jazz legacyのリーダーとしても活躍しているベーシストの守家巧、そしてジャズ新世代の旗手を務めるドラマーの石若駿が、それぞれ⾃⾝のグループを率いて出演。そしてパート2の〈beyond NEXT〉では、昨年の最新作『SUPERFINE』で先鋭的なアップデートを遂げた冨田ラボ(冨田恵一)のもとに実力派ミュージシャンが集い、このイヴェントのために書き下ろしたオリジナル曲が披露される。その演奏陣には、類家心平と井上銘、石若駿に加えて、松下マサナオ(ドラムス/Yasei Collective)、角田隆太(ベース/ものんくる)、江﨑文武(キーボード/WONK)という、この上なく豪華な顔ぶれだ。

今回は開催直前スペシャルということで、冨田恵一とジャズ評論家の柳樂光隆の対談を敢行。これを読めばこの画期的なイヴェントに足を運びたくなるだろう!

 

〈組曲を作ってください〉と言われて

柳楽光隆「インフォメーションを見ると、T.O.C BANDのメンバーにヴォーカリストが見当たりませんが、そもそも冨田さんは、ジャズ・ミュージシャンや、演奏家だけのための曲を書いたことあるんですか?」

冨田ラボ(冨田恵一)「ご存知のように普段はほとんど歌モノをやっているので、基本的にはないですね。冨田ラボでインストが入るというのはちょこちょこやっているんだけど、それぐらい。だからインストで、しかも演奏するのが完全にジャズ・フィールドの人っていうのは初めて」

柳楽「冨田さんがインスト曲を作ったら、ほとんど自分で演奏することになっちゃいますもんね」

冨田「うん、冨田ラボは上モノ以外はすべて自分でやっているからね。今回のメンバーとはたぶん誰とも演奏したことが無いし、もちろんみんなの名前は知っていたけど全員が初対面になるのかな。そもそもこのお話は柴田(廣次)さん(本企画のプロデューサー)からいただいて、非常に興味がある方ばかりなので楽しみは楽しみだったんだけど……最初に柴田さんに〈組曲を作ってください〉と言われて(笑)」

柳樂「アハハ(笑)」

冨田「〈あ、組曲ですか……この期間で?〉と内心思って(笑)。それから柴田さんとあれこれお話をして、いくつか出てきたキーワードがあったんです。柳樂さんもいらっしゃっていた冨田ラボのライヴ(2017年2月21日〈isai Beat presents冨田ラボ LIVE 2017〉)のオープニング曲がインストだったんですけど、あの感じがとても良かったと柴田さんがおっしゃってくれたんですね。それと〈組曲〉〈演奏するのはみんなジャズ・ミュージシャン〉という縛りの中でいろいろ考えて。そのオープニング曲は音源には収録されていないもので、まずは1人でエレクトロな音色やサンプルやループと演奏して、そこにバンドが入ってきて……みたいなものだったんですけど、それを発展させて、4曲ぐらいをシームレスに繋げて20~30分くらいの尺に出来たらおもしろいかなと。純然たる組曲にすると、お客さんはみんな初聴きだからとっつきにくいところもある気がしたし」

柳樂「なるほど。あの曲はマッシュアップしたような感じでしたもんね」

冨田「そうそう、マッシュアップ! あれは打ち込みは入っていなくて、すべてその場でリアルタイムにいろいろできるようにプログラミングしたんですよ」

柳楽「へー!」

冨田「スポークンワード的なものも入れてたけど、あれもこの鍵盤を押したらでるとか、こっちを押しながらこれを押すとか。あと左手でリズムとベース音が出るようにプログラミングしていたので、あの場で曲を作ってやってたの。それを一通り終えたらバンドが入ってきて、という形にしていたので。そんな感じを拡張したものをやろうかなと思っています」

柳楽「すごく変な曲でしたよね(笑)」

冨田「そうだね(笑)。スポークンワーズを採譜してみんなにユニゾンで演奏してもらったりとか(笑)。で、今回はジャズ・ミュージシャンとやるということで、歌モノでは無いわけでしょ。それぞれのソロ・パートをやっぱり楽しみたいからさ。そのあたりを、どれをどう配置しようかっていう。いちばん考えていたのが、ジャム・セッションにならないようにすること。それはそれでもちろん好きなんだけど、わざわざ僕を呼んでくださっているわけだから、ジャム・セッションでソロを回してるだけ、ではないものにしたいと思っています」

柳樂「今回はツイン・ドラムなんですか?」

冨田「そうなんですよ(笑)。お話をもらった時点ですでに決まっていました。そこがやっぱり今大変なところではありますね」

――メンバーがすべて決まっていた状態でオファーされたんですか?

冨田「〈こんな感じでいかがですか?〉と言われて、〈いいです。でもセクションで動くところがないと構築感が希薄になるので管楽器をあと3人ほしいです〉とお願いしました」

柳樂「へー、そうだったんですね」

冨田「例えば僕は弦をよく使うんだけど、ストリングス・セクションでもホーン・セクションでも、そういったセクションなしの大人数はどうしてもジャムっぽくなりがちなんだよね。なので、そこはこちらからお願いしました」

柳樂「なるほど。ツイン・ドラムは、最近だとカマシ・ワシントンとかが採り入れていますが」

冨田「カマシのライヴを観たけど、綿密とは言い難いけど2人のドラムスの連携が慣れてる感じはあったね。行ったら行きっぱなしみたいな曲も多いから、そうするとすごく盛り上がった時は2人とも盛り上がればよくて、そうじゃないときは相手の出方をみてっていう感じ。今回ツイン・ドラムで何をやろうかなって思って、カマシのほかにも、スナーキー・パピーがノウアーと一緒にやったやつとかYouTubeで観たりした」

柳樂「カマシのツイン・ドラムはロナルド・ブルーナーJrとトニー・オースティンの二人のキャラクターがかなり違いますよね」

ツイン・ドラム・セットのカマシ・ワシントンの2015年のライヴ映像
 
スナーキー・パピーがノウアー&ジェフ・コフィンをフィーチャーした2016年のパフォーマンス映像
 

冨田「そうだね。まぁ石若(駿)さんは観たことがあるからどんなプレイをするのかわりと知っていたし、松下マサナオさんはYasei Collectiveでのプレイは知っていた。2人のタイプが違って良かったところはあるね」

柳樂「石若くんの印象ってどんな感じですか?」

冨田「とにかく上手いよね。僕は昔から彼の4ビートがすごく良いなって思っていたんだけど、最近はヒップホップ周りとも一緒にやっているじゃない? そしたらそういうのも上手で、〈どうしよ〉って思った(笑)。例えば石若さんが4ビートにだけ特化した人であれば、バックビートのほうを松下さんに振り分けてっていうのを初期段階には思っていたのね。でも普通にそっちも石若さんが叩けちゃうとなると、またうーんって悩んじゃって(笑)」

柳樂「そうですね。松下くんは?」

冨田「彼ももちろんすごく上手いし、ジャズも巧みに叩くのかもしれないけど、それよりはもうちょっとビート・ミュージック寄りの印象ですよね。変拍子とか、わりと難しい拍子の曲をいっぱいやっているじゃないですか? それに特化しているわけでは無いと思うんですけど」

柳樂「ゴスペルとかフュージョンっぽいのは松下くんのほうですよね。キメがあるようなプレイなんかをよくやっているし」

Yasei Collectiveの2017年作『FINE PRODUCTS』収録曲“HELLO”

 

若手勢は教育を受けたうえでポイントをちゃんと押さえている人が多い

冨田「一部にはT.O.C BANDのメンバーが所属しているバンドが出るんですよね。ものんくる、Yasei Collective、WONKは出ないですけど」

柳楽「ものんくる/角田(隆太)くんにはどういった印象をお持ちですか?」

冨田「角田さんはものんくるの作詞・作曲もしているので、最初はプレイヤーとしてどうこうじゃなくて、あのバンドの音楽性の軸はこの人なんだろうなと思っていました。だからもちろんプレイも堅実で上手だとは思うけど、ベーシストっていうよりは作曲家でバンド・リーダーの人だという印象ですね。でも今回ご一緒するということでいろいろ観させてもらったんだけど、何か音楽に的確なものを示しているようなプレイをしているなと」

ものんくるの2017年のライヴ映像
 

柳樂「角田くんも〈冨田さんはベースがめちゃくちゃ上手いから、そういう人のバンドで弾くのはすごく緊張する〉って言ってましたよ。彼はもともとビッグ・バンドとかやっていた人なんですよね」

冨田「じゃあ読譜もバリバリだね。でも、もちろん事前にデモを作って譜面と一緒に渡すので、そこまで読めなくても大丈夫だけどね。たぶんスキルがそこまで必要な、すごくテクニカルなタームが連続するような曲ではないとは思うので。まあそういう場面もあるかもしれないけど……」

柳樂「テクニカルとは言っても、例えば挾間美帆が書くようなタイプの難しさじゃないですよね」

冨田「挾間さんみたいなタイプのやつは、リズム・セクション以外のセクション・プレイヤーに玉(音符)を書くことが中心になるじゃない? そこがまた難しいんですよ。ストリングス・セクションやビッグ・バンドに書くんだったら、彼らは玉を読んで揃えて弾くことに慣れてるからね。その範囲ですごくチャレンジングなことを書いても的確にやってもらえるんだけど、今回は基本リズム・セクションじゃないですか」

柳樂「そうですね」

冨田「ホーン・セクション以外はリズム・セクションで、まあ管の人とかはバリバリ読めると思うんだけど、だからリズム隊はあまり書き込みすぎたり圧倒していいパートではないんだよね。もちろんしっかり書かなきゃいけないところもあるんだけど」

柳樂「じゃあ今回はわりと余白がある感じで」

冨田「うん。ソロ・パートに関しては完全にコード・チャートでやってもらう。ただ、やっぱり演奏の構築された部分も要所要所に出てくるので、そこはやっぱり書き込みますけど、すごく大変なことは書かないつもり。と思って書いても〈大変です〉ってよく言われるので、どうなるかわからないけど(笑)」

柳樂「類家(心平)さんに関してはレキシとかポップス界隈での活動もされているのでどこかで会われているかと思いましたが、初対面なんですね」

冨田「管楽器の人はポップス仕事もやっていることが多いですよね。ビッグ・バンドや吹奏楽を必ず経験していたりするし、彼らに関しては書くことにそれほど心配ないんですが、リズム・セクションに対して玉を書きすぎて良かったことはあまり無いので、そのへんの見極めはちょっと考えていて。とはいえツイン・ドラムなので、全部自由にやってもらうとそれはちょっと大変だと思うので、ある程度は書きますが」

類家心平率いるRS5pb2016年作『UNDA』収録曲“DANU”
 

冨田「ところで、井上さんっていくつぐらい?」

柳樂「石若くんと同じぐらいですね」

冨田「若いねー。この中だと類家さんがいちばん上なのかな?」

柳樂「そうですね。その次が松下くんで、あとは25、6歳ですね。僕が銘くんに初めて会った時は高校生で、天才ギタリストって感じでした」

類家心平も参加した、井上銘が6月21日にリリースするニュー・アルバム『STEREO CHAMP』収録曲“Comet 84”
 

冨田「彼はどんな活動をされてるの?」

柳楽「17歳くらいで鈴木勲さんのバンドに入って。それからバークリーに留学して戻ってきた感じですね」

冨田「へー。石若さんは日野皓正さんとやってるんだっけ」

柳樂「中学生の頃から知り合いらしいですね。そこから東京藝大に入って」

冨田「昔、といっても20年以上前の記憶だけど、アカデミックに音楽を学んできた人に、〈なんか違うな〉って思うことも多かったんですよ。でも今は、教育を受けたうえでポイントをちゃんと押さえている人がいっぱいいる。この状況は何なんでしょう?」

柳樂「昔は明らかにそうでしたね。教え方がよくなったんですかね?」

冨田「それもあるし、あと今は習う側も幼少期から正しいテイストの、ジャズならジャズの音を耳にする機会が多いというのもあるかもしれない。あと、バークリーをはじめ欧米のジャズ教育のシステムが日本のそれより数倍素晴らしいと何十年も前は言われていたじゃない。実際そうかもしれないけど、今はそのシステムをそのまま日本でも採り入れられるだろうし、習ったから駄目だっていうのは全然無いよね。現場だとクラシックとジャズの両方の素養を求められたりするし、スタジオ・ミュージシャンに顕著なんだけど。管楽器でもトランペットとかって(ジャズとクラシックで)全然発音が違うからさ。スタジオの良いプレイヤーは両方パッと変えられるんだよね。石若さんはドラムだけどそれと同じことができるんじゃないかな」