登場時からポスト・アリーヤ(?)として絶賛を浴びてきた新時代の歌姫が、いよいよ初のアルバムでその本質を剥き出しにする――ここからはケレラの時代だ!!

リスナーに挑戦する

 「このアルバムは、私がいろんなものを一緒にして編み上げて作ったタペストリーで、違うタイプのリスナーたちを惹き付け、同時に彼らに挑戦するものでもある。私はそれを全曲でやりたかった」。

 オルタナティヴが大きな潮流を形成しはじめるとオルタナティヴでなくなるのは自明であって、そんな便宜上の〈オルタナティヴR&B〉がメインストリームに溶け込んで広まった現在、その流れに先鞭を付けたケレラのやっていることがいまでは本道的でポピュラーなものに聴こえてくるのは当然だ。キングダムやジャム・シティらの後見を受けてフェイド・トゥ・マインド発のミックステープ『Cut 4 Me』(2013年)で世に出た彼女は、ワシントンDC出身の83年生まれ。「R&Bやジャズやビョークを聴いて郊外で育った」という当人の弁を借りる必要もなく、エッジーなベース・ミュージックを泳ぐ個性の強さは、同年のうちにソランジュ監修の先鋭コンピ『Saint Heron』に2曲が選ばれたことからも明白だったし、ボク・ボクのビッグ・チューン“Melba’s Call”(2014年)での振る舞いやカインドネスとの共演もオルタナティヴな在りようを裏付けるに十分だった。

KELELA 『Take Me Apart』 Warp/BEAT(2017)

 ワープに移籍してのEP『Hallucinogen』(2015年)から少し間が空いた感じはするものの、その間の2年でクラムス・カジノやダニー・ブラウン、ゴリラズ、そして何よりソランジュの楽曲に招かれて実り多き共演を実現。そしてようやく届いたのが〈ファースト・アルバム〉という位置付けの『Take Me Apart』である。キングダムやジャム・シティ、ボク・ボク、アスマ(エングツングツ/フューチャー・ブラウン)らに守られた陣容はミックステープ時代に近いものの、「アルバムの曲は『Cut 4 Me』を作る前や作っている段階で同時に作っていたものなの。出来上がっていてもまだ何かできそうだったり、アルバムっぽいなと思うものを、ミックステープには使わずに取っておいたのよ」との言葉通り、それらは数年間も温めていた楽曲のようだ。

 そう考えるとアルバム全体のポップなモダナイズを采配したのは、ジャム・シティ及びケレラ自身と並んで総監督を務めるアリエル・リヒトシェイドということになるだろうか。多くの楽曲でアディショナル・プロダクションも担うアリエルは、一時はディプロの片腕としても動きつつ、近年ではアデルやチャーリーXCX、ハイムらを手掛ける敏腕だ。また、全曲のミックスを担当したクウェズも各曲のプロダクションに手を加えていて、そのあたりの複合的なバランス感覚が今作の聴き心地に作用しているのも間違いないだろう。