INTERVIEW

BIGYUKI『Reaching For Chiron』 名うての鍵盤奏者が世界水準のファースト・アルバムで露わにしたハイブリッドな本性とは?

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  • 2017.11.01
BIGYUKI『Reaching For Chiron』 名うての鍵盤奏者が世界水準のファースト・アルバムで露わにしたハイブリッドな本性とは?

昨年の逆輸入で話題を呼んだ規格外のビッグな才能が、初めてのフル・アルバムを完成。既存のイメージに縛られないハイブリッドでエッジーな音楽がここにある!

もっと高みをめざしたい

 昨年、本誌391号のインタヴューで「さらにぶっ飛んだものを作りたい」と話していたBIGYUKIが、その言葉通りの新作『Reaching For Chiron』を引っ提げて一時帰国。美旋律と轟音が入り混じるカオスなデビュー作『Greek Fire』は、USでは2015年10月発表だったから2年ぶりのリーダー作となる。その間には〈来日公演〉もあったが、とりわけ注目を集めたのはア・トライブ・コールド・クエスト(ATCQ)の最終作『We Got It From Here... Thank You 4 Your Service』にてQ・ティップと共作/楽曲提供などをしたことだろう。これによってNY在住の日本人鍵盤奏者である彼のステイタスは国内外で一気に上昇した。

BIGYUKI Reaching For Chiron ユニバーサル(2017)

 「自分はQ・ティップのチームの中では若いほうですけどね。彼は自分の中で〈いまこういう音が聴こえてる〉って感じですべての音が深い部分で鳴っていて、実際にベースやドラムもやるし、シンセサイザーの知識もある。で、彼のビートに合わせて演奏していて、みんなが少し音を変えたりしても、それがハマった時は興奮して純粋に音楽好きとして反応してくるんですよ。バンドに託して新しいものにするという柔軟性やオープンさ。それがビジネスの面にも反映されてますね」。

 ATCQ以外でもJ・コール『4 Your Eyez Only』への関与だったり、それ以前からタリブ・クウェリ/アイドル・ウォーシップやビラルのバンドへの参加もあったが、最近はマティスヤフのツアーで多忙な日々を過ごしている。インプロヴィゼーション主体だというそのライヴの現場は、「俺はかなり自由にやらせてもらっていて、なんなら曲を止めてピアノ・ソロをすることもあるくらい、まったく遠慮せずにできる環境」だそうで、そうした環境に置くBIGYUKI自身の音楽も自由で特定の枠に縛られない。バークリー音楽大学出身でクラシックやジャズの素養もある彼は一部でロバート・グラスパーと比較されることもあるが、「グラスパーとは全然似ていないし、自分がジャズ・アーティストだと意識したことは一回もない」と改めて強調するように、初のフル・アルバムとなる今作『Reaching For Chiron』でも自分を縛っていない。縛ったのはアルバム・タイトルくらいで、前作『Greek Fire』からの〈グリーク繋がり〉でギリシャ神話に登場するケイローンを表題に引用している。

 「もっと高みをめざしたいねっていう意味なんだけど、もともと半身半獣のケンタウロス族の名前は入れたいなと思っていたんですよ。自分はダークSFが好きで、近い将来、人間が自分の身体を拡張するロボティック・テクノロジーを有機的に取り入れる時代が来ると思っていて。で、ケンタウロス族の中でも人間に近い理性があって頭が良いケイローンのように、人間もさらに進化を遂げた時により良い存在になるということを願って、そこからアルバム全体のストーリーを膨らませました」。

 

すべての側面を見せたい

 去年の11月から制作を開始し、マティスヤフのツアーの合間を縫って完成させたというアルバムは、彗星と小惑星の特徴を併せ持つケンタウロス族天体の名を冠した“2060 Chiron”で終結するようにドラマ性が高い。ゆえに緩急も激しく、音楽的な広がりは前作以上だ。

 「いろんな音楽が雑多に好きな自分のすべての側面を見せたいなと。現時点で自分がやれそうなことを制約を設けずに。メロディーの綺麗なものも超下品なのも好きだし、トラップも、カオスなものも好きだから。ミュージシャンというよりはプロデューサーとして曲をひとつひとつ違うテイストでショウケースしたいなと。ただ、うるさいのや激しいのは誰でもできるから、そのなかで繊細な音楽表現の可能性を探りたくて。だからピアノとヴォーカルのデュオでは素直にピアノを弾いたんです」。

 ピアノとヴォーカルのデュオとは、チャンス・ザ・ラッパーのバック・シンガーを務めるイェバことアビー・スミスがエモーショナルに歌う“In A Spiral”のことで、これはわりとストレートなジャズ・バラード。また、「自分の中のR&Bというかゴスペルのヴォキャブラリーも見せたいと思って」最後に仕上げたのが親友のクリス・ターナーの歌う“Eclipse”で、ここではクリスの友人でカニエ・ウェスト『The College Dropout』などへの参加でも知られる詩人のJ・アイヴィーもペンを交えている。そして、“Burnt N Turnt”と“Simple Like You”の2曲は直球のトラップ・チューンだ。

 「この2曲モロでしょ(笑)。エイサップ・ファーグが大好きで、作ってる途中に自分の曲とエイサップの曲を交互に聴いて、同じインパクトがあるかな?とか思いながらやってました。“Burnt N Turnt”は〈ヒップホップが好きだからインストで解釈しました!〉とかじゃなく、カッコいいものを同じくらいのインパクトでやりたくて。で、ポール・“ベイ・ブロ”・ウィルソン(SZA、アート・リンゼイ他)とやったんですよね。“Simple Like You”は、ラップが欲しいと思ってたら、以前ミックステープで絡んでたハヴィエア・スタークスからちょうどメッセージが来て、コンセプトを伝えたら一晩でリリック書いてくれて。〈口で言ってるだけじゃなく実際に到達するぞ〉っていう内容で、ストリートに落とし込んでくれましたね」。

 

すぐに次を作りたい

 現在NYはブルックリンのベッドフォード・スタイヴェサントで暮らすBIGYUKIは、自宅アパート前の車からカッコいい音楽が聴こえてくると、窓からスマホを出してShazamで検索したりもするとか。それくらい新しい音には敏感で、例えば“Boom”では「聴いてるうちに、90年代のクラブ・ジャズ的な懐かしい感じになるのもどうなの?と思って、後からピアノを差し替えた」というように古びた音も作らない。フレッシュで尖った才能との交流にも積極的で、ミニマルな音で鮮やかに疾走する“Belong”でも歌うイェバとはQ・ティップが主導するアンダーソン・パークのレコーディング(現時点で未発表)で知り合い、“Eclipse”と“Missing Ones”にドラム・プログラミング他で参加するテイラー・マクファーリンとはグラスパーのライヴで友達になり、マティスヤフのツアー中、LAで2日ほどオフができた際に家を訪ねて作業したそう。一方、相互に客演してきた盟友ビラルは、今回も変態スロウ・ファンク“Soft Places”に参加している。

 「『1st Born Second』を初めて聴いた時に衝撃を受けて、〈あのビラル〉を聴きたいなと思って気持ち悪いリズムの上で歌ってもらいました。ビラルは上手/下手じゃなくて、こっちの想像の斜め上からフワッてくる。凄く支配力のある歌だけど、支配しながら音楽そのものを引き上げるっていうか、雰囲気を作ることができる。これからもずっと一緒に音楽を作り続けていきたいですね。……あ、そういえば俺がシンセ・ベースで参加してる変なアルバムがハロウィーンの時期に出ます。参加してる人間が凄いから超ビックリしますよ(笑)」。

 音楽同様、捲し立てるように話してくれたBIGYUKI。「12月末までのツアーが終了したら速攻で次のアルバムを作りたい」と話す彼は、その表情も含めて身体全体から勢いが溢れ出ていた。本当に規格外のBIGな男なのだ。

 

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