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愛娘の誕生、父親との絆…ブロック・パーティのケリー・オケレケがついに歌った、自分自身のストーリー

ケリー・オケレケ『Fatherland』

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  • 2017.11.28
愛娘の誕生、父親との絆…ブロック・パーティのケリー・オケレケがついに歌った、自分自身のストーリー

まだ見ぬ娘への子守歌として

ソロ名義では2010年の『The Boxer』と2014年の『Trick』に続いて3枚目。そして、ブロック・パーティのアルバムを含めると通算8枚目。先頃送り出したアルバム『Fatherland』にいたるまで、かれこれ15年近くの間、我々はケリー・オケレケの音楽と接してきた計算になる。声は聴けばすぐにケリーだとわかるし、曲もたくさん知っている。それでいて、例えばフランツ・フェルディナンドのアレックス・カプラノスやカイザー・チーフスのリッキー・ウィルソンといった同期のUKバンドのフロントマンと比較すると、常に一定のミステリーをまとっていた。そして、15年をかけてゆっくりと少しずつ光の中に歩み出てきた彼は、『Fatherland』にいたって、いよいよ素顔を明らかにしたような気がする。

そのプロセスが本格的に始まったのはやはり、『The Boxer』をリリースしたときだったのかもしれない。ポストパンク・リヴァイヴァルのムーヴメントに乗って登場したブロック・パーティは、当初鋭角的なギター・サウンドを特徴とするロックを鳴らしていたわけだが、作品を重ねるごとに積極的にエレクトロニックな表現も導入。そんな音楽性のシフトをエクストリームな域に推し進めたのが、ケリーのソロ作品だった。ブロック・パーティが一時活動を休止し、他のメンバーも課外活動に勤しんでいた2010年、彼はダンス・トラック仕立てのソロ・デビュー・シングル“Tenderoni”を発表。以後、スパンク・ロックとしての仕事でお馴染みのトリプルエクスチェンジのプロデュースのもとに、ハウスやR&B、ダブステップを掘り下げたミニマルなエレクトロニック×ヴォーカルによるアルバムを2枚送り出し、バンドでは見せたことがなかったセンシュアルな表情を覗かせたのである。

『Trick』収録曲“Doubt”
 

そして『Trick』の登場から3年、この間にケリーの身に公私両面で大きな変化が訪れたことはご承知の通りだ。まず、マット・トンとゴードン・モークスの脱退を受けてブロック・パーティは一時解散の危機に瀕したものの、新しいメンバー――元メノメナのジャスティン・ハリスと、残された2人が動画サイトで発掘した当時21歳の女性ドラマー、ルイーズ・バートルの参加を経て完全復活。新布陣で制作し、2016年初めに発表した最新作『Hymns』ではゴスペルなど宗教音楽にインスピレーションを見出し、抑制を効かせたサウンドスケープで新境地を開拓し、年内一杯はツアーに勤しんだのだが、その傍らでケリーはすでに本作にも着手していた……いや、曲作りに駆り立てられていた、と言うべきだろうか? というのも、彼はプライヴェートでもまさに一大ターニング・ポイントを迎えていた。かねてからの念願であった父親になろうとしていたのである。そこで、まだ見ぬ娘(彼とパートナーの娘サバンナは2016年12月初めに誕生)に宛てて〈ララバイ=子守歌〉を書きたいと思ったのが、アルバムのはじまりだったそうだ。

 

父であり息子でもあるという双方向の立場から、親子の絆を考察

KELE OKEREKE Fatherland BMG Rights/HOSTESS(2017)

それゆえに、この『Fatherland』では、音楽的に180度方向性を転換。エレクトロニック・ミュージックへの造詣を深めて、DJ活動にも乗り出すなどクラブで過ごす時間が増えていたケリーだが、今回は原点に返るようにしてアコギ片手にソングライティングに着手し、テンポをスローダウンして、オーガニックな表現を志す。実際、言葉はかつてなく率直にストーリーを描き、曲のつくりもナイーヴでシンプル。とはいえ、しきりに飛び交っている〈フォーク・アルバム〉という形容は、必ずしも正確ではないように思う。

むしろ、タイムレスでインティメートな本作は、彼にとって初めての〈シンガー・ソングライター・アルバム〉と位置付けるべきだろう。コリーヌ・ベイリー・レイをゲストに迎えたアコギ主体の“Versions Of Us”、ジョニ・ミッチェルを想起させるピアノ弾き語りの“Portrait”のようなフォーク・ソングも聴こえるのだが、曲作りを進めているうちに、ホーン、パーカッション、ストリングス……と様々な音が加わっていったという。結果的には、ミュージカルのために綴ったかのようなユーモラスな“Capers”から、ファンク・ロック調の“Do U Right”まで、それぞれに趣向を凝らしてアレンジを施した曲が誕生。過去2作品ではビートの影に隠れていた歌声は、生楽器の暖かな響きに縁どられて前面に押し出され、ヴォーカリストとしての力量も存分に見せ付けている。

また、本作がララバイ集なのかと言えば、これまたそう単純な話ではない(“You Keep On Whispering His Name”がやたらザ・キュアーの名曲“Lullaby”に重なって聴こえるのは偶然じゃないと思うが……)。30代半ばになった今の自分の視点で若い頃を振り返って(“Streets Been Talkin’”)、娘に伝えたいことを整理する(“Savanna”)と同時に、自分の父との関係を掘り下げ、ひいては人種的なルーツを再確認する――つまり、父であり息子でもあるという立場から双方向に血筋を辿って、父性や親子の絆を考察するアルバムなのである。

なんでもケリーは昨年初めに祖母を訪ねて、父とふたりだけで、自分の家族の故郷であるナイジェリアのイバダンに滞在。長らく疎遠だった父との距離を縮めただけでなく、ナイジェリアのカルチャーや言語に触れることなくロンドンで育った彼にとって、あらためて自分の出自と向き合うきっかけにもなったそうだ。かといって安易にアフロビートを取り入れているわけではないのだが、ヴォーカル・パフォーマンスとしてはキャリア最高の部類に入る“Road To Ibadan”はタイトルが示すとおりその旅について綴った曲で、幽玄な“Yemaya”も、西アフリカのヨルバ民族が海の守護神と位置付ける女神がテーマ。妊娠中の女性を守る神でもあるらしく、娘の誕生を待つケリーの夢の中にたびたび現れたという。そういう意味で、ここで言う〈Fatherland〉はおそらく〈故郷〉というニュアンスも含んでいるのだろう。彼は本作を総括して次のようなコメントを寄せている。

「収録曲を通して言葉や感情を伝えるというのは、僕にとって不可欠なこと。今、僕は人生の新たな門出に立っている。このアルバムは娘サバンナとの関係、また祖先である父親たちのドキュメント作品なのさ。彼女に知ってもらうことは重要なんだ、すべての答えを与えることはできないけど、僕らは最大限に努力してるってことをね」。

 

初のフルネーム名義での作品で、自分自身のストーリーを綴る

そんな一連の曲群に加えて、過去の恋愛関係にまつわる曲もここには多数収められている。なかでも特に大きな注目を浴びているのが、イヤーズ&イヤーズのオリー・アレキサンダーをフィーチャーした“Grounds For Resentment”。メインストリームで活動するふたりのゲイ・ミュージシャンが元カップルを演じて、ほんのりジャジーなサウンドに乗せて終わった恋を歌う、画期的なデュエットだ。デビュー当初からセクシュアリティーをオープンにして、男性形の代名詞を用いてラヴソングを歌ってきたオリーと、ずっと噂はあったものの『Tenderoni』のリリースに際してようやく正式にカムアウトしたケリーは、性的マイノリティーを巡る環境の変化を象徴してもいるが、ここにきてケリーもあっけらかんと男性に宛てて曲を綴っている。“Do U Right”しかり、ソウル・バラードの“Royal Reign”しかり、“Portrait”しかり……。

思えばその昔の彼は、セクシュアリティーのことはもちろん、人種について語ることも好まなかった。アフリカ系及びアジア系英国人をメンバーに擁するブロック・パーティのユニークさをメディアはしきりに指摘したものの、移民二世である彼らにとって人種は音楽性と無関係だから――と。それを考えると、隔世の感がある。もちろんソロだからこそ、かつ、今だからこそ可能なことであって、これまで〈ケリー〉と名乗っていた彼が、初めてフルネームを使っていることにも納得がゆく。きっとそうせずにはいられなかったのだろう。

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