2008年のデビュー以来、ジャズの新しい潮流を常に先導してきたカリスマ・シンガー、ホセ・ジェイムズが2018年2月21日(水)と22日(木)にBillboard Live TOKYOにて、23日(金)にBillboard Live OSAKAにて来日公演をおこなう。度々来日公演をおこなっているジェイムズだが、今回は傑作として名高い2008年のデビュー・アルバム『The Dreamer』のリリースから10周年を記念するライヴ。しかも、バンド・メンバーには黒田卓也(トランペット)、大林武司(ピアノ)、ベン・ウィリアムス(ベース)、ネイト・スミス(ドラムス)というトップ・プレイヤーたちが召集されるというのだから、ジェイムズのファン、ひいてはジャズ・ファンにとって絶対に見逃せない公演であることは間違いないだろう。

2018年1月現在の最新作である『Love In A Time Of Madness』(2017年)においては、もはや世界規模でポップ・シーンの共通言語となっているトラップ・ビートを取り入れたり、あるいはUKのポスト・ダブステップのサウンドに接近するアプローチを聴かせたホセ・ジェイムズ。同作におけるジェイムズの佇まいは、もはやジャズ・シンガーというよりも〈オルタナティヴR&Bの歌手〉という形容が相応しかった。

本稿では、留まるところを知らない音楽的な好奇心、そしてサウンド面での前進や実験へとかける情熱でジャズの領野を拡げていくホセ・ジェイムズのバイオグラフィーを振り返り、『The Dreamer』リリース10周年を祝す公演に備えたい。

まずは、来日直前の2月14日にジェイムズ自身の監修の元で全曲リミックスを施し、ボーナス・トラックも収録したアニヴァーサリー盤のリリースも決定しているデビュー作『The Dreamer』だ。デビュー前の2006年、ロンドンのコンペティションにおいて、ジョン・コルトレーンの“Equinox”を歌うジェイムズがジャイルズ・ピーターソンに見初められた逸話はあまりにも有名だが、それこそが同作の制作に繋がる直接のきっかけだった。ピーターソンのレーベル、ブラウンズウッドからリリースされた『The Dreamer』はヒップホップ、そしてディアンジェロのようなネオ・ソウルからの影響をジャズに注ぎ込んで見せた画期的な作品だった。

(国内盤の)アルバムの幕開けを飾る“Love”からしてドラムンベースであるし、フリースタイル・フェローシップのカヴァーである“Park Bench People”ではラップとスモーキーなジャズ・ヴォーカルとを自由に行き来してみせている。〈ジャズ作品〉としての『The Dreamer』の革新性が窺えることだろう。アルバムには未収録のシングルB面曲だが、フライング・ロータスのビートの上で歌った“Visions Of Violet”は次作への伏線として見逃せない一方で表題曲や“Desire”など、アルバムの大半はスロウでスウィート、かつパワフルな歌唱を聴かせる楽曲が並び、〈ジャズ作品〉として申し分がない(ちなみに、“Desire”にはムーディーマンによる見事なディープ・ハウス・ミックスがある)。

『The Dreamer』によってこれ以上ない評価を得て気鋭のジャズ・シンガーとして歩み始めたホセ・ジェイムズは、2010年の『Blackmagic』によって前作でのイメージを大胆にも裏切ってみせる。前述のフライング・ロータスとムーディーマン、DJ MITSU THE BEATSらによる先鋭的なビートと生演奏のトラックとが楽曲ごとに入れ替わる構成の同作は、ジェイムズの評価を決定的にするとともに、ジャズの最先端を行くアーティストとしてジェイムズを強く印象付けた。大学の学友でもあった黒田卓也は『Blackmagic』から参加している。

同年にはベルギーのピアニスト、ジェフ・ニーヴとのオーセンティックなデュオ作『For All We Know』も制作。インパルスからのリリースという話題性もありつつ、スタンダードを歌った静謐な同作は、ホセ・ジェイムズがいかに実力を持ったジャズの歌い手であるのかを伝える格好の作品となった。

ジャズという枠組みに果敢に挑むその姿勢が認められ、ジェイムズはついにブルー・ノートとサイン。2013年にはピノ・パラディーノをプロデューサーに迎え、ロバート・グラスパーやクリス・デイヴといった2010年代のジャズのサウンドを築いたプレイヤーが多数参加した『No Beginning No End』を発表する。現代のアメリカ音楽に色濃い影を落としているディアンジェロの歴史的な傑作『Voodoo』のサウンドにジャズのフィールドからアプローチした。

その後のホセ・ジェイムズの快進撃は周知の通りだろう。エレキ・ギターの存在感が増し、レディオヘッドからジェイムス・ブレイク、フランク・オーシャンまでをも影響元として挙げた2014年の『While You Were Sleeping』、ビリー・ホリデイに捧げたスタンダード集『Yesterday I Had The Blues: The Music Of Billie Holiday』、そして前述の『Love In A Time Of Madness』――オーセンティシティーと実験性とを自在に往来するジェイムズは、正統派でありながらも異端であるという稀有なアーティストである。

ここまで、駆け足ながらもホセ・ジェイムズの音楽的な歩みを振り返ってみた。最新作『Love In A Time Of Madness』とリリースから10年を迎えた『The Dreamer』とでは、同じ歌手の作品であるとは思えないほどのサウンド面での隔絶がある。しかし、ジェイムズのスモーキーな歌声はその魅力を増しつつも、何ひとつ変わっていない。異才ジェイムズの10年に思いを馳せつつ、アニヴァーサリーを迎えた『The Dreamer』を2018年に聴き返すのも一興だろう。そして、『The Dreamer』の名曲たちや近作の楽曲がライヴでどのような形で演奏されるのか……ジェイムズのファンにとっては楽しみなところだろう。

参考文献:「Jazz The New Chapter ロバート・グラスパーから広がる現代ジャズの地平」柳樂光隆監修、2014年、シンコーミュージック・エンタテイメント刊

 


Live Information
ホセ・ジェイムズ
“The Dreamer” 10th Anniversary Tour
feat. Takuya Kuroda, Takeshi Ohbayashi, Ben Williams and Nate Smith

2018年2月21日(水)、2月22日(木)Billboard Live TOKYO
1stステージ:開場17:30/開演19:00
2ndステージ:開場20:45/開演21:30
サービスエリア 8,900円/カジュアルエリア 7,400円
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2018年2月23日(金)Billboard Live OSAKA
1stステージ:開場17:30/開演18:30
2ndステージ:開場20:30/開演21:30
サービスエリア 8,900円/カジュアルエリア 7,900円
★詳細はこちら

●バンド・メンバー
ホセ・ジェイムズ(ヴォーカル)
黒田 卓也(トランペット)
大林 武司(キーボード)
ベン・ウィリアムス(ベース)
ネイト・スミス(ドラムス)