INTERVIEW

ART-SCHOOLが新作『In Colors』で追い求めた〈光〉とは?

ART-SCHOOL『In Colors』

(左から)戸高賢史、木下理樹
 

前作『Hello darkness, my dear friend』からおよそ2年ぶり、ART-SCHOOLによる通算9枚目のオリジナル・アルバム『In Colors』がリリースされた。

一聴して驚いたのは、非常にポップでカラフルな楽曲が並んでいるということ。歌詞のなかには、例えば、〈家庭を持ち/キャッチボールとかしたいな〉(“OK & GO”)など、これまでの木下理樹(ヴォーカル、ギター)からは想像もつかないような言葉の数々が散りばめられている。地声とファルセットを巧みに使い分ける彼のヴォーカルは、ここにきて飛躍的に表現力を増し、そんな言葉の数々を美しいメロディーに乗せ、高らかに歌い上げているのだ。

一体、この変化はどうしたことだろう。キャリア18年目にして最高傑作クラスのアルバムを作り上げる彼らのポテンシャルは、どこから来るものなのか。

実は、本作に取り掛かるまでには、木下によれば苦悶の日々があったという。このポップでカラフルなアルバムは、決してまばゆい光の中で作られたのではなく、闇の中で光を求めながら作られた〈祈り〉のようなアルバムであることが、このインタヴューを読めばお分かりいただけるだろう。

多彩なギター・アプローチによってART-SCHOOLのサウンドをデザインし、先行曲“スカートの色は青”ほか、本作では木下と共作も行った戸高賢史(ギター)と共に『In Colors』の制作秘話を語ってもらった。

ART-SCHOOL In Colors Warszawa-Label(2018)

 

景色が色を失っていく感じから抜け出したくて作ったのが『In Colors』なんです

 ──まず『In Colors』が、いつになくポップで明るい楽曲が並んだアルバムであることに驚きました。こうした変化はどのようにして訪れたのでしょうか。

木下理樹「前作『Hello darkness, my dear friend』は、闇を全面的に受け入れることによって、何か開かれるものがあるんじゃないかなと思いながら作ったアルバムなんですね。結果、セールス的には問題なかったし、すごく好意的に受け入れられたはずなんですけど、メンタル的には……」

──資料には〈闇を友達にしようと思った。けど闇は友達にはなれなかった〉とあります。

木下「闇は……〈友達〉って感じじゃなかったですね(笑)。『Hello darkness, my dear friend』は、僕らがメジャー・レーベルから離れてインディーズから再出発する最初のアルバムだったので、ART-SCHOOLの原点であるところの〈闇〉、つまり誰にも言えずに生きづらさやストレスを抱え込んでいる人たちの、孤独に寄り添おうと思ったんです。

そのこと自体は間違いだとは今も思っていないけど、あまりにも闇と向き合い過ぎて、自分自身がどんどん内向的になってしまって」

──まさにニーチェの「善悪の彼岸」ですね。「怪物と戦う者は気をつけるがいい。深き闇を覗き込むと闇もまたおまえを覗き込む」。

木下「楽曲自体は前作も、そんなに内向的だとは思わなかったんですけどね。でも、しばらくは見る景色が色を失っていくような感じで。そこからとにかく抜け出したくて作ったのが『In Colors』なんです」

戸高賢史「2017年の後半は僕も彼とは違う理由で病みかけていて。そういう意味では、木下理樹がART-SCHOOLの新作のテーマに〈光〉を掲げてくれたのは、僕としてもすごくありがたかった」

──戸高さんは、木下さんの様子をどのような気持ちで見守っていたのですか?

戸高「彼がもがいているのは、もちろん、こちらにも伝わっては来ていました。歌入れのときに上がってくる歌詞を読んでも、いつもだったら絶対に選ばないような言葉が並んでいて。〈えっ、そんなに素直に言うんだ?〉と思うような表現もある。いま言ったように、それは僕にとってもありがたいことだったし、全力でサポートしたいって思いました」

 

嫌なこと、辛いことはあるんだけど、それでも進み続けたいって

──1曲目の“All the light We will see again”では、〈死んだ様に君は生きていくのかい?/僕はそんな風に生きていたくはない〉と歌っていて、なかなか衝撃的な宣言ですよね。聴き手の孤独に寄り添うのではなく、光のある場所へ連れ出そうとしているようにも聴こえる。

戸高「そうなんですよ。もがきながらも、歌詞は不思議とポジティヴな方向に着地しているのが、いままでになかった傾向ですよね。演奏していて、ネガティヴな気持ちにならないというか。それは楽曲の持つ雰囲気みたいなものによるところも大きいと思うんですけど」

──“OK & GO”では〈大人になって 家庭を持ち/キャッチボールとかしたいな〉なんて、家庭を持つことへの希望や不安を歌っているのにも驚かされました。

木下「自分が小さい頃は、40歳になったら普通に家庭を持ち、子供を作ってキャッチボールでもしているのかなと思っていたけど、全然違っちゃいましたね」

――(笑)。戸高さんはどうですか?

戸高「僕は15年前、木下に呼ばれて訳もわからず九州から上京してきて、今日までART-SCHOOLのギタリストとしてやってきているので、いわゆる普通な人生を送っている自分というのは、ちょっと想像がつかない。まあ、考える必要もないかなと思っていますね(笑)」

──“Tears”では〈こんなにも 愛されたかった/今度から 違う/愛せなきゃ 変わらないだろう〉とも歌っています。〈愛される〉ことよりも〈愛する〉ことを木下さんが選択するなんて、なんだか感慨深いものがあります。

木下「まあ、誰かを愛するよりまず自分を愛せないことには、人に〈愛してる〉なんて絶対に言えないですよね」

戸高「それはその通りだと思う」

木下「そんなことを、何故この歳になってまだ考えているんだろう、しかもサビで歌っているんだろう……とは思いましたけどね(笑)。でも、それがこのバンドの魅力なのだと思うし、本当にそう思ったから歌ったわけなんですけど」

──年齢に関わらず、愛し方がわからずに辛い思いをしている人は沢山いると思いますよ。とても刺さる歌詞でした。それに、木下さんにとっては闇から抜け出すためにも、自分を愛する必要があったんじゃないかと。そういう意味では、曲作りもセラピーの一環だったのかもしれないですね。

戸高「僕も〈セラピーみたいだな〉と思いながらギターを弾いていました。いまはメンバーの空気感や、スタッフと一緒にいるときの雰囲気も良くて。

僕はART-SCHOOL以外の現場でギターを弾くとき、自分をいつもと違うモードに切り替えてやっているんですけど、一番長くやっているART-SCHOOLの現場にいて〈ああ、居心地が良いな〉とぼんやり考えたりすることが出来たのは嬉しかったですね」

──それにしても、こんなにポップなメロディーがそんな闇の中からよく出て来ましたよね。特にアルバム後半、“光のシャワー”と“In Colors”のポップネスには驚くばかりです。

木下「確かにメロディーはポップですけど、例えば“In Colors”では戦争についても歌っているんですよ。〈爆撃の音が止んで 窓が血に染まっていた/諦めたその瞬間 花が君を包んだ〉、つまり〈絶望のなかにも希望はあるんだよ〉ということが歌いたかったんです。

長く生きていると、そろそろ周りでも人が死ぬことは多いし、昨年、死んでいった友達も多い。嫌なこと、辛いことはあるんだけど、それでも進み続けたいって」

──だからこのアルバムは、決して光の当たる場所で鳴らされているのではなく、闇のなかで光を求めている〈祈り〉のようなアルバムなんですよね。

木下「そうですね」

 

『In Colors』は〈バンド・サウンドでいこう〉というのがあった

──ART-SCHOOLの曲作りはいま、どんなふうに行っているのですか?

木下「以前、ものすごく宅録に凝っていた時期があって、かなり緻密に作り込んでいたんですけど……」

戸高「いまは大体、プリプロのときにリッキー(木下)が曲のアイデアを持ってきて、それを元にLogic Proで作っていくという感じですかね。(藤田)勇さんの家で、その場で電子ドラムでリズムを打ち込んで、他の楽器もバーッと録っていくやり方がいちばん手っ取り早いし、多いかもしれないです」

木下「『In Colors』は〈バンド・サウンドでいこう〉というのがあったので、勇さんの家にみんなで集まって、そこでセッションしながら作ったり、そのデータを家に持ち帰ってメロディーをつけたりしながら形にしていきました」

戸高「だから、歌入れの段階で〈あ、この曲はこういうメロディーになったのか〉っていう曲もありましたね」

木下「そういう意味では、いままでとはかなり作り方も違っていました。〈バンド・サウンドでいこう〉っていうことは、任せるところは任せて、僕は歌詞とメロディーに集中して、他のことは分からなくてもいいやってことなので(笑)」

戸高「ホント、何も言わなくなったよね。メンバーに任せることが増えた。昔はものすごく細かいところまで色々言っていたけど」

木下「歌録りのディレクションも、今回はトディ(戸高)にやってもらっているんですよ。結構、泣きそうになりました(笑)。1曲につき50回くらい歌っていると、フラフラしてくるんですよ。〈あれ、俺、いま何してるんだっけ?〉みたいな」

戸高「(笑)。彼のヴォーカリゼーションは、〈拙さ〉みたいなところがイノセントだったり、情景が浮かんできたりという、わりと特異な例だと思うんですよ。そこをうまく引き出せたらいいなとは思いましたね。彼のヴォーカルの良いところをテイクとして残すべきだなと。

いままでそういうコミュニケーションが全然できなかったんですけど、もう、そろそろいいかなと。バンドのパワー・バランスも変化してきていますし(笑)」

──でも、それはもう、戸高さんにしかできないことだと思います。木下さんの表現力も格段に上がっていますよね、地声とファルセットの使い分けとか。

木下「それは嬉しいですね。僕は男臭いエモが苦手で(笑)、どちらかというとデス・キャブ・フォー・キューティーみたいなフェミニンなエモの方が好きなんですけど、そこはうまく表現できたかなと思っています。トディに引き出してもらえたなと」

戸高「長らく彼はファルセットが出なくて封印していたんですけど、ポリープの手術をしてファルセットが出るようになったことが彼も嬉しかったんでしょうね。多用している曲も増えました(笑)。だからこそ、そこに対してシビアにならざるを得なかったんですけどね。〈木下理樹のいまのヴォーカリゼーション〉というものを、このアルバムでちゃんと落とし込めたんじゃないかなと思っています」

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